就業規則を「無料のひな型」で作って1千万円の損害?労働トラブル・監督署対応に追われる小規模事業者の実態

就業規則を「無料のひな型」で作って1千万円の損害?労働トラブル・監督署対応に追われる小規模事業者の実態

従業員50名以下の小規模企業では、就業規則を専門家に依頼する余裕がなく、ネットの“無料のひな型”をコピーして済ませるケースが少なくありません。

ひな型をベースに「とりあえず作った就業規則」が長年放置されていることがよくあります。

しかし、この“無料のひな型”こそが、深刻な労働トラブルの引き金になることが増えています。
実際に、未払い残業の遡及請求・解雇無効の紛争・監督署是正指導などで、総額1千万円規模の損害になった例も珍しくありません。

本記事では、無料テンプレートの危うさ、小規模事業者が陥りがちな落とし穴、そして「タダで済ませた結果、巨額のリスクを抱える」実態を解説します。


1. なぜ“無料のひな型就業規則”が重大リスクになるのか

ネットのひな型は便利ですが、そのまま使うと次のような問題が起きやすくなります。

  • 法改正に対応していない(残業上限、有休5日取得義務、ハラスメント防止など)
  • 会社の実態と合っていない(運用と規定が乖離すると“無効扱い”になる)
  • 懲戒規定・服務規律が現行法とズレている
  • 労働条件通知書との整合性が取れていない

つまり、「ひな型をそのまま使うほど、法令違反と解釈されるリスクが高くなる」ということです。


2. 実際に小規模企業で起きた“1千万円級トラブル”の具体例

事例①:運用と規定が食い違い、未払い残業が一気に発覚(数百万円〜1千万円)

ひな型の就業規則には「事前申請のない残業は認めない」と書かれていたが、現場では残業が常態化。
従業員が監督署に相談し、調査の結果、「規定と実態の乖離により就業規則は無効」と判断。

結果として、過去2〜3年分の残業代を全社員分まとめて支払う事態に。
金額は数百万円から1千万円規模になることもあります。


事例②:古い懲戒条文をそのまま使用 → 違法扱いで全面修正

無料ひな型に記載されていた懲戒条文が、現行の労基法に合っていなかったケース。
監督署から「違法条文」として是正指導が入り、短期間での全面改訂と再届出が必要になった。

手間だけでなく、経営者・管理職の対応時間や相談コストが“見えない損失”となる典型例です。


事例③:届け出義務を知らずに放置 → 正式な指導と追加対応

従業員10名以上の企業は就業規則の届け出義務があります。 しかし小規模企業では、「無料ひな型を作って社内に貼っているからOK」と思い込んでいる例が多くあります。

監督署から「届け出義務違反」と指摘され、書類の再作成・届け出、労使協議のやり直しなどに追われることになります。


3. ひな型流用が小規模企業で致命傷になりやすい理由

  • 中身を理解しないままコピペしてしまう
  • 法改正に気づかず内容が古いまま
  • 普段の運用が“口頭文化”で規定と噛み合わない
  • 労務担当者がおらず、気づく人がいない
  • 従業員側は情報収集力が高く、違和感に気づきやすい

そしてもう一つの現実が、“タダで作った就業規則は、最も高くつくことが多い”ということです。

数万円の節約が、数百万円〜1千万円の損害リスクに直結する構造になっています。


4. トラブルを防ぐために、小規模企業が押さえるべきポイント

① 実態とのズレを最優先でチェックする

ひな型を使うこと自体が悪いわけではありません。問題は、「規則と現場運用が全く一致していない」状態です。

  • 残業のルールと運用は一致しているか
  • 休日・休暇の管理方法が規定の通りか
  • 評価・処遇の基準が存在しているか

② 古い条文は即チェック(法改正対応)

働き方改革関連、有休の付与、パワハラ防止措置などは頻繁に変わります。無料ひな型は更新が追いつかないため、放置すると“違法運用”になります。


③ “規則だけ”ではなく“実務ルール”も文章化する

就業規則だけ立派でも実務が曖昧だとトラブルは防げません。特に小規模企業では次のルールを文章化するだけでリスクが大きく下がります。

  • 勤怠申請の方法
  • 残業の承認フロー
  • 注意・指導の記録方法
  • 休日出勤の手順

5. “無料で作る”と“プロに任せる”の差は、費用ではなくリスク額に表れる

就業規則は無料で作ろうと思えば作れます。しかし無料で済ませた結果が、

・未払い残業の一括支払い(300万〜1,000万円)
・解雇トラブルによる損害賠償
・監督署対応での時間的損失
・弁護士費用
・社内の混乱と離職

といった形で“何倍にも膨れ上がって返ってくる”のが現実です。

小規模企業が向き合うべき選択は、「お金を払うかどうか」ではなく「どれだけのリスクを避けたいか」です。

言い換えると、“プロに任せてリスクを抑えるのか?” “無料ひな型で済ませて、1千万円のリスクを背負うのか?”という問題です。


まとめ:就業規則は“タダで作る書類”ではなく“会社を守る保険”

小規模企業にとって最も大切なのは、立派な規則を作ることではなく、会社の実態に合い、法令違反がなく、従業員に説明できる規則を持つことです。

無料ひな型は便利ですが、そのまま使うほどリスクは増えます。最低限の整備をするだけで、監督署対応や労働トラブルの負担は劇的に減らせます。

就業規則とは「コスト」ではなく、労務リスクを防ぐための経営の安全装置。無料かプロか——その選択が、後のリスク額を大きく左右します。

筆者プロフィール

泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2025年現在、延べ100社以上の中小企業を支援。
採用・定着・労務に関する相談は累計2,000件超。

徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。

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