従業員50名以下、特に10〜20名規模の少人数企業では、労務トラブルが起きたときのダメージが極端に大きくなります。
その中でも近年、「解雇」と「労働時間」は、対応を誤ると一気に経営リスクへ発展する高難度の労務リスクです。
問題なのは、これらが「悪意がなくても違法になりやすい」分野であること。
社長の感覚や現場の慣習で判断すると、後から取り返しがつかない事態になりがちです。
目次
1. 少人数企業ほど「解雇リスク」が高くなる理由
少人数企業では、1人ひとりの存在感が大きく、
「合わない」「戦力にならない」「空気が悪くなる」と感じた瞬間に、
感情ベースで解雇を考えてしまうケースが少なくありません。
しかし、解雇は労務の中でも最もハードルが高い行為です。
- 業績が悪いから辞めてもらう
- 期待していたレベルに達していない
- 注意しても改善しない
これらは「解雇理由としては弱い」ことが多く、
記録や手続きを欠いたまま解雇すると、ほぼ確実に揉めます。
2. 「解雇はできる」と思っている社長ほど危険
少人数企業の現場でよくある誤解が、
「小さな会社なんだから、合わなければ辞めてもらえばいい」
という考え方です。
しかし実際には、会社の規模に関係なく、解雇は厳しく制限されています。
特に問題になるのが、次のケースです。
- 注意・指導の記録が一切ない
- 改善の機会を与えていない
- 就業規則に根拠条文がない
- 解雇理由が主観的(態度が悪い、やる気がない等)
これらが重なると、解雇は無効と判断される可能性が高く、
未払い賃金・解決金・精神的負担という重い代償を背負うことになります。
3. 労働時間は「管理していない=違法」になりやすい
もう一つの高難度リスクが労働時間管理です。
少人数企業では、
- タイムカードがない
- 自己申告制で実態が分からない
- 残業は「暗黙の了解」
- 管理職だから残業代は不要と思っている
こうした運用が非常に多く見られます。
しかし労働時間は、「会社が把握していなかった」では済まされません。
実態があれば、それが労働時間として扱われます。
4. 特に危険な「見えない労働時間」
少人数企業で見落とされがちなのが、次のような時間です。
- 始業前の準備時間
- 終業後の片付け・報告
- 業務用チャットへの即レス対応
- 自宅での資料作成
- 上司の指示による早出・居残り
これらはすべて、条件次第で労働時間と判断されます。
「自主的にやっている」「好きでやっている」は通用しません。
5. 解雇と労働時間が“セットで爆発”するパターン
実務上、最も深刻なのは次の流れです。
- 勤務態度が悪いと感じる社員がいる
- 残業・早出が多いが管理していない
- 注意記録を残さず口頭指導のみ
- 感情的に解雇を決断
- 社員が「未払い残業+解雇無効」を主張
この場合、会社は二重三重のリスクを同時に抱えることになります。
6. 少人数企業が最低限やるべき現実的な対策
① 解雇を考える前に「記録」を積み上げる
注意・指導・面談は、必ず日付と内容を残す。
完璧な文書でなくて構いません。
記録があるかどうかが最大の分かれ目です。
② 労働時間は「ざっくりでも把握」する
高機能な勤怠システムは不要です。
エクセル・アプリ・打刻のどれでもよいので、
実態が分かる形で残すことが重要です。
③ 就業規則と現場運用を一致させる
規則に書いてあっても、守っていなければ意味がありません。
特に、残業・休日・懲戒・解雇条文は要確認です。
まとめ:少人数企業ほど「感覚運用」は通用しない
少人数企業では、柔軟な運用が強みになる一方で、
解雇と労働時間に関しては感覚や善意が最大のリスクになります。
「悪気はなかった」「小さな会社だから」という言い訳は、
労務の世界では一切通用しません。
だからこそ、
記録・把握・ルールの一致
この3点だけは、最低限押さえておく必要があります。
少人数企業が安定して成長するためには、
高難度リスクから先に潰しておくことが、最も現実的な経営判断です。
筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2025年現在、延べ100社以上の中小企業を支援。
採用・定着・労務に関する相談は累計2,000件超。
徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
*姫路播州採用定着研究所
*C&P社労士法人 公式サイト
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