退職代行「モームリ」社長逮捕――企業が直視すべき「退職を言えない風土」という構造的問題

退職代行「モームリ」社長逮捕――企業が直視すべき「退職を言えない風土」という構造的問題

はじめに

2026年2月3日、退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス社の社長(37歳)とその妻(31歳)が、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで警視庁に逮捕されました。報道によれば、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で退職希望者と会社側との交渉事務を弁護士に紹介し、違法に報酬を得ていた疑いがあるとされています。

SNSでは「違法だから当然」「自業自得」といった声も見られますが、本当に考えるべきは「なぜ退職代行サービスがここまで普及したのか」という構造的な問題です。本記事では、中小企業の採用・定着支援を専門とする社会保険労務士の視点から、退職代行が広がった背景と、企業が見直すべき職場風土について整理します。


1. 退職代行サービスはすでに「特別なもの」ではない

退職代行の利用は、もはや一部の例外ではありません。パーソル総合研究所(2025年12月)の調査では、離職者の約20人に1人(5.1%)が退職代行を利用しています。東京商工リサーチ(2025年)の調査では、大企業の約2割が退職代行による離職を経験しています。

さらに、マイナビ(2024年10月)の調査では、退職代行を使った理由として次のような回答が並びます。

  • 退職を引き留められた、または引き留められそうだった(40.7%)
  • 退職意思を伝えた際にパワハラや嫌がらせを受ける不安があった(34%)
  • 即日で退職したかった(25%)
  • 直接会社に伝えるのが心理的に難しかった(22%)

これらの数字が示しているのは、「退職したいと言えない職場」が決して少なくないという現実です。


2. なぜ退職を直接言えないのか――5つの典型パターン

これまで多くの中小企業を支援してきた中で、退職代行を使われやすい会社には共通点があります。

まず多いのが、感情的な引き留めです。「今辞められたら困る」「恩を仇で返すのか」「他の社員に迷惑がかかる」といった言葉は、本人を追い詰めるだけです。

次に、退職を申し出た途端に態度が変わるケース。冷遇、業務外し、評価低下などが起きれば、誰でも直接言うのが怖くなります。

三つ目は「後任が決まるまで辞めさせない」という対応。一見合理的に見えますが、退職者の人生を縛る行為でもあります。

四つ目は、上司が話しにくい、威圧的であること。日常の関係性が、そのまま退職の言いにくさにつながります。

そして五つ目が、退職プロセスが不透明なこと。「どうやって辞めればいいのか分からない」状態は、不安を増幅させます。


3. 法的問題と構造的問題は切り分ける

今回の事件は、弁護士資格がない者が法律事務を行い報酬を得たという、弁護士法違反(非弁行為)が問題です。法令遵守は大前提であり、違法行為が許されないことは言うまでもありません。

一方で、退職代行サービスそのものが違法というわけではありません。弁護士が運営するもの、労働組合が運営するもの、退職意思の伝達のみに限定した民間サービスなど、適法な形態も多く存在します。今後も、退職代行という仕組み自体はなくならないでしょう。


4. 背景にある「職場の構造的問題」

エデンレッドジャパン(2025年5月)の調査では、退職を言い出しやすい職場の特徴として「上司が話しやすい」「人間関係が良い」「退職意向を認める風土がある」などが挙げられています。裏を返せば、これらが欠けている職場では退職を直接伝えにくいということです。

特に若手世代はその傾向が強く、HRzineの調査では、新卒の退職代行利用は入社後数か月でピークを迎えています。入社前の説明と実態のズレに気づいたものの、直接言えず第三者に頼るケースが増えているのです。


5. 企業が今すぐ見直すべき3つのポイント

一つ目は、退職を言い出しやすい風土づくりです。定期的な1on1、匿名相談窓口、キャリア面談、退職者ヒアリングなどを通じて「辞めたい気持ち」を話せる環境を整える必要があります。

二つ目は、引き留め方の見直しです。感情論や脅しは逆効果です。理由を冷静に聞き、改善点を探りつつ、最終的な意思は尊重する姿勢が求められます。

三つ目は、退職プロセスの明確化です。就業規則への明記、フォーマット整備、フローの可視化などにより「どう辞めればいいか」を分かる状態にすることが重要です。


6. 実例:K社(従業員28名)

製造業のK社では、1年で2件の退職代行利用が発生しました。原因を探る中で、1on1の導入、外部専門家による匿名相談、退職フローの可視化を実施。その結果、翌年は退職代行の利用がゼロとなり、離職率も大きく改善しました。


7. 退職代行は「企業へのサイン」

退職代行を使われたという事実は、「この会社では直接言えなかった」というサインです。それを否定しても改善は起きません。なぜ退職代行が必要だったのかを考えることが、次の離職を防ぐ唯一の道です。


まとめ

法令遵守は当然として、企業が向き合うべきは「退職を言えない風土」です。退職代行の存在を嘆く前に、職場の構造を見直せるかどうか。そこに、企業の未来がかかっています。

筆者プロフィール

泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2025年現在、延べ100社以上の中小企業を支援。
採用・定着・労務に関する相談は累計2,000件超。

徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。

姫路播州採用定着研究所
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