「うちは規模も小さいし、正社員とパート・派遣で多少差があっても仕方ないのでは」
同一労働同一賃金について、こう感じている会社は少なくありません。実際、日々の業務は少人数で回しており、制度対応まで手が回らないという現実もあります。ただし、法律上は会社の規模や立地に関係なく、同一労働同一賃金の考え方は適用されます。さらに2026年に向けて、その運用はより具体的・実務寄りに見直されつつあります。
目次
結論:地方の中小企業であっても、同一労働同一賃金は形式だけでなく「中身」が厳しく見られる
結論から言うと、地方の中小企業であっても同一労働同一賃金の義務は免除されません。
特に今後は、「制度があるか」ではなく、「実態として合理的な説明ができるか」「本人が納得できる説明になっているか」が重視される方向に進んでいます。
2020年の法施行から時間が経ち、2026年に向けては「運用の甘さ」や「形だけ整えた対応」が見直される段階に入っています。
同一労働同一賃金で問題になりやすいポイント
現場で特に問題になりやすいのは、次のようなケースです。
- 正社員と非正規で仕事内容はほぼ同じ
- 責任の差が曖昧
- 手当の理由を聞かれて説明できない
- 「昔からそうしている」という運用が残っている
地方の会社ほど、「人が足りないから何でもやる」「肩書きより実務優先」という働き方になりやすく、結果として“同じ仕事をしているのに待遇が違う”状態が生まれやすくなります。
2026年に向けて特に注意が必要な動き(派遣労働者)
2026年に向けて、特に影響が大きいのが派遣労働者に関する見直しです。
派遣元が「労使協定方式」を選択する場合に参照する、
同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(一般基本給・賞与など)
が、2026年度適用分として更新されました。
これは、派遣労働者の賃金が「一般労働者と同等以上」であることを担保するための基準で、毎年見直されます。
派遣先の規模や地域性に関係なく、この水準を下回る設計は認められません。
「派遣だから派遣元の問題」と考えていると、説明の場面で行き詰まる可能性があります。
ガイドラインの見直しで影響が大きい待遇項目
2026年に向けて、待遇差が問題になりやすい項目について、より具体的なガイドラインが示されています。特に注意が必要なのは次の7項目です。
- 退職金
- 住宅手当
- 通勤手当
- 賞与
- 家族手当
- 慶弔休暇
- 教育訓練
たとえば、
住宅手当については「転居を伴う配置変更がある場合、同一の支給が求められる」と明確化され、
退職金についても「職務内容や責任の差が小さいのに差を設けると不合理と判断され得る」ことが示されています。
これまで「正社員だから」という理由で分けていた手当も、説明が必要な時代になっています。
「属人的手当」の見直しが避けられない理由
今後特に見直しが進むと考えられるのが、
家族手当・精勤手当などの「属人的手当」です。
これらは、
・職務内容と直接関係しない
・働き方の多様化と合っていない
という理由から、不合理な待遇差と指摘されやすくなっています。
一方で、
・食堂利用
・休憩室
・福利厚生サービス
など、全従業員に共通して提供すべき待遇に差がないかも確認が必要です。
「説明義務」が実務で重くなる
2026年に向けて特に重要なのが、説明責任の重さです。
「なぜ非正規はこの待遇なのか」
「なぜ正社員と違うのか」
この質問に対して、
・賃金規程がある
・制度上そうなっている
だけでは不十分になりつつあります。
求められるのは、
・業務内容
・責任の範囲
・配置転換の有無
などを踏まえた、現場実態に即した説明です。
そのため、説明マニュアルの整備や、説明後のフィードバック収集といった取り組みも重要になります。
企業が今、現実的にやるべきこと
すべてを一気に変える必要はありませんが、次の点は避けて通れません。
- 業務内容、責任、配置転換の実態を洗い出す
- 正社員と非正規の待遇差について、理由を言語化する
- 賃金規程や手当の中身を再点検する
- 特に福利厚生や各種手当の扱いを見直す
- 説明できない差があれば、是正か整理を検討する
重要なのは、「差をなくすこと」ではなく、
差があるなら、合理的に説明できる状態にすることです。
まとめ:規模や地域ではなく、「説明できるかどうか」が問われる時代へ
同一労働同一賃金は、会社の規模や地域性で緩くなる制度ではありません。
2020年の施行から5年が経ち、2026年に向けては、実態に即した見直しと説明の質がより厳しく問われます。
特に派遣労働者の賃金水準、各種手当、属人的手当の扱いは、放置するとリスクになりやすい分野です。
「昔からこうしている」では通らなくなりつつある今、現場の実態と制度をすり合わせる視点が欠かせません。
同一労働同一賃金への対応は、法対応であると同時に、社内の納得感を高める取り組みでもあります。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

