「給料を上げたのに、また辞めた」
こんな経験をした経営者は、少なくないと思います。
同じ会社で同じ給料をもらっていても、「この会社でよかった」と思う社員と、「もっといい場所があるはず」と思う社員がいます。
その差を生むのが、「体感年収」という概念です。
数字の年収は同じでも、感じる「価値」は人によって大きく違う。この違いを理解せずに、給料を上げるだけで定着を図ろうとしても、根本は変わりません。
目次
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「体感年収」とは何か
体感年収とは、実際の年収額ではなく、働き方・人間関係・裁量・承認・成長実感などを加味した「感じる価値」のことです。
たとえば、年収400万円でも、次のような違いがあります。
- A社:残業月50時間、有休ほぼ取れない、褒められたことがない、成長できない → 体感年収は低い
- B社:残業ほぼなし、有休取りやすい、感謝される、成長できる → 体感年収は高い
どちらに「もっといたい」と思うかは、明白です。
給与明細に書かれた数字だけが年収ではありません。その仕事をすることで感じる「豊かさの総量」が、社員にとっての本当の年収です。
体感年収を下げる職場の特徴
① 残業が多い・有休が取れない
時間は、お金では買えません。プライベートの時間が奪われるほど、「この仕事で得られるもの」より「失っているもの」が大きく感じられます。時間的な豊かさは、体感年収に直結します。
② 承認・感謝がない
頑張っても「当たり前」「それくらいやって当然」という職場では、社員は消耗します。感謝の言葉があるだけで、同じ仕事でも体感価値は大きく変わります。
③ 成長できない
「この会社にいても、スキルが上がらない」という感覚は、将来への不安につながります。成長実感がある職場では、多少給料が低くても「今はここで頑張ろう」という気持ちが続きます。
④ 裁量がない・意見が通らない
何でも上の指示待ち、自分のアイデアが一切反映されない職場では、社員は「歯車」として扱われていると感じます。裁量を持てることは、仕事の満足感に大きく影響します。
⑤ 人間関係が悪い
どんなに給料が良くても、毎日職場に行くのが憂鬱なら、体感年収は低下します。人間関係のストレスは、給与アップでは補えません。
体感年収を上げる方法 ― お金をかけずにできること
体感年収を上げるために、必ずしも給料を上げる必要はありません。
① 「ありがとう」を言う文化をつくる
お金がかかりません。でも、効果は絶大です。経営者から「ありがとう」「助かってる」という言葉が出る職場では、社員の定着率が明らかに違います。
② 柔軟な働き方を取り入れる
有休を取りやすくする、時差出勤を認める、繁忙期・閑散期で調整する——仕組みを少し変えるだけで、時間の豊かさを感じやすくなります。
③ 成長の機会を意図的に設ける
少し難しい仕事を任せる、社外研修に参加させる、発表の機会をつくる——「この会社にいると成長できる」という実感が、定着につながります。
④ 意見を聞く場をつくる
月1回の1on1、提案箱、朝礼での意見共有——形はなんでもいい。「自分の声が届く」という体験が、組織への帰属意識を育てます。
採用より定着、定着より体感年収
多くの中小企業が「採用できない」と悩んでいます。でも、本当の問題は採用より先にあることが多いです。
採用できても辞める → 定着が課題
定着させようと給与を上げても辞める → 体感年収が課題
この順番を間違えると、いくら採用にお金をかけても、ざるに水を注ぐ状態が続きます。
まず「今いる社員が感じる体感年収」を上げることが、採用力向上にも直結します。「この会社で働いてよかった」という社員が増えると、口コミや紹介採用につながるからです。
よくある質問
Q. 賃上げしても離職が止まらない。なぜですか?
A. 賃上げは体感年収の一要素に過ぎません。承認・成長・人間関係・裁量といった非金銭的な要素が満たされていないと、給与を上げても「お金はもらえるけど、この会社には居たくない」という状態が続きます。まず「なぜ辞めるのか」を丁寧に確認することが先決です。退職面談や在職中の1on1で本音を引き出し、何が体感年収を下げているかを特定することから始めましょう。
Q. 体感年収を可視化する方法はありますか?
A. 従業員エンゲージメント調査や簡単なアンケートが有効です。「今の仕事の満足度」「残業や有休の取りやすさ」「上司からの承認」「成長実感」などの項目を5段階で評価してもらうだけでも、体感年収が低い領域が見えてきます。まずは「聞く」ことが、改善の第一歩です。
まとめ
給与を上げても辞める社員がいる一方で、平均的な給与でも長く働き続ける社員がいます。
その差を生むのは、体感年収です。
承認する、感謝する、成長の機会を与える、意見を聞く——お金をかけずにできることが、体感年収を大きく動かします。
「今いる社員が、この会社でよかったと思えているか」。まずそこを見直すことが、採用・定着すべての起点になります。
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。
姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

