早期離職を繰り返す企業に足りないのは、紹介会社への予算ではなく定着への本気度

早期離職を繰り返す企業に足りないのは、紹介会社への予算ではなく定着への本気度

「後任は、本人が『残ります』と言ってくれているので大丈夫です」
先日、ある製造業の経営者との打ち合わせで、そんな言葉を聞いた。

業務部の要となるベテラン社員が、2年後に定年を迎える。後任候補として名前が挙がっている社員は、正直なところ適性が見られず、顧客からもクレームが入るレベル。それでも会社は、正式な採用活動のゴーサインすら出していなかった。理由を聞くと、「本人が定年後も残ってくれると言っているから」。口約束だけを頼りに、人員計画そのものが止まっていたのである。

同じ会社では、別の社員が長時間労働と休みの少なさを理由に退職していた。退職前、上司に一度だけ「最近しんどい」と相談していたそうだが、返ってきた言葉は「もうちょっと頑張ろう」。それだけだった。本人はそこで、会社に期待するのをやめてしまった。退職後の穴は、フィリピン人材の活用で埋めたことになっているが、実際には日本人でなければ対応できない業務が残り、既存メンバーへの負荷が静かに積み上がっていた。

採用がうまくいかない、応募が来ない。多くの経営者がそう嘆くが、実はその手前に、もっと大きな問題が隠れていることが多い。それが今日のテーマである。


目次

  1. 「本人の口約束」だけで人員計画を組んでいないか
  2. 辞めた理由を「もうちょっと頑張ろう」で終わらせていないか
  3. 「紹介会社に任せれば手離れがいい」という発想の落とし穴
  4. 定着率を見える化する仕組みと、理由を深掘りする対話
  5. よくある質問

「本人の口約束」だけで人員計画を組んでいないか

冒頭の会社のように、「あの人がいなくなったら困る」という危機感を持ちながら、具体的な行動には移せていない会社は少なくない。理由の多くは、残留してくれる本人への遠慮である。「まだ辞めるわけではないのに、後任を探すのは失礼ではないか」という気持ちが、経営者や管理職の背中を押せなくしてしまう。

しかし、これは会社にとって極めてリスクの高い状態である。口約束レベルの残留意向は、本人の体調や家庭の事情ひとつで簡単に覆る。その日が来てから慌てて採用活動を始めても、育成には数年単位の時間がかかる。定年まで2年、3年という猶予があるうちに動けるかどうかが、その後の組織の明暗を分ける。

大切なのは、「本人の意向を信じないこと」ではなく、「意向に頼り切った体制のまま放置しないこと」である。残留してもらえるならそれに越したことはないが、それはあくまで保険であって、本命の計画ではない。この線引きができていない会社は、驚くほど多い。

実務としては、「あなたを疑っているから探すのではなく、会社として備えておく必要があるから探す」という説明を、本人に率直に伝えることから始めるとよい。あわせて、残留の意向を面談記録として書面に残し、紹介会社には定年の2〜3年前の時点で正式に発注をかけておく。この二つを同時並行で進めておけば、本人の気持ちを尊重しながら、会社としてのリスクも同時に減らすことができる。遠慮と備えは両立できるということを、まず経営者自身が理解しておく必要がある。


辞めた理由を「もうちょっと頑張ろう」で終わらせていないか

部下から「最近しんどい」という相談を受けたとき、管理職はつい励ましで終わらせてしまいがちである。しかし、相談という行為そのものが、すでに本人の中で限界に近いサインであることが多い。「頑張ろう」の一言で片づけてしまうと、本人は「この会社に相談しても無駄だ」と静かに見切りをつける。そして、辞めるその日まで、会社側は何も気づかない。

具体的には、次のような状況が積み重なっていた。
・申告内容:業務量が多く、休みが取りにくい
・上司の対応:「もうちょっと頑張ろう」で終了、具体策の提示なし
・その後:本人からの相談は途絶える
・数か月後:家族との話し合いを経て、退職の報告のみが上がる

退職の相談を受けたら、労働時間や業務量、休みの取りやすさといった具体的な負担を一緒に棚卸しする。ここまでやって初めて、相談は「対策」に変わる。辞めてから理由を分析するのではなく、辞める前のシグナルにどう反応するかが、定着率を左右する分かれ目になる。

とはいえ、現場の管理職一人にこの対応力を求めるのは酷である。「しんどい」という一言をどう受け止め、どこまで踏み込んで聞くべきか、判断基準がないまま任されている管理職は多い。だからこそ、一定のシグナルが出た場合は必ず上位者や総務に共有するというエスカレーションルールを、あらかじめ会社として決めておく必要がある。相談を受けた個人の感覚に委ねるのではなく、組織として拾い上げる仕組みにしておくことで、「もうちょっと頑張ろう」で終わらせてしまう事態を減らすことができる。


「紹介会社に任せれば手離れがいい」という発想の落とし穴

退職者が出るたびに、紹介会社やハローワークに求人を出して補充する。これ自体は間違いではない。問題は、退職理由を確認しないまま、同じ採用・配置を繰り返してしまうことにある。冒頭の会社も、退職者の穴をフィリピン人材の活用で埋めたつもりになっていたが、実際には日本人でなければ対応できない業務が残り、既存社員への負荷転嫁という形で問題が先送りされていただけだった。

採用を「手離れの良い外注業務」として扱ってしまうと、会社の中に何も学びが蓄積されない。同じ理由で人が辞め、同じやり方で補充し、また同じ理由で辞める。このループに気づかないまま何年も採用コストを払い続けている会社を、筆者は何社も見てきた。

採用は「入口」の話であり、定着は「土台」の話である。土台が崩れたままいくら入口を広げても、人は流れ出ていくばかりである。採用より定着が先——これが筆者の一貫した主張である。

紹介会社を使うこと自体が悪いのではない。問題は、発注する前に「なぜこのポジションが空いたのか」を会社側が言語化できていないことにある。退職理由を整理せずに求人票だけを更新して出しても、同じ条件・同じ業務内容であれば、結局また同じ理由で人が辞めていく。発注の前に一度立ち止まり、退職者から見えていた課題を洗い出す。この一手間があるかないかで、次に採用する人の定着率は大きく変わってくる。


定着率を見える化する仕組みと、理由を深掘りする対話

定着率の問題は、制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪で向き合わなければ解決しない。制度だけ整えても、対話だけ増やしても、人が辞めない組織にはならない。

ハードの面では、まず入社日・退職日・退職理由を一覧にした離職状況の見える化から始める。部署別・年代別に離職率を出すだけで、「実はこの部署だけ突出して辞めている」といった偏りが見えてくることが多い。あわせて、後継者が必要なポジションについては、定年や異動の予定を先取りして一覧化し、口約束に頼らない採用スケジュールを組んでおく。

ソフトの面では、年1回の面談だけに頼らず、日常の中で「最近どう?」と声をかけられる関係をつくる。相談を受けた管理職が一人で抱え込まず、一定のシグナルが出た場合は必ず上位者や総務に共有するというルールを決めておくことも有効である。表面的な回答で終わらせず、キャリアの不安や待遇面まで一段踏み込んで聞く姿勢が、本音を引き出す鍵になる。

この両輪は、どちらか一方だけでは機能しない。離職状況を数字で見える化しても、そこから拾えた「危険信号」に対話で向き合わなければ、ただのデータで終わってしまう。逆に、対話だけを増やしても、後継者計画のような構造的な課題は数字と一覧表がなければ見落とされたままになる。仕組みと対話は、セットで初めて機能する。まずは自社の離職状況を一覧にすることから、小さく始めてみてほしい。


よくある質問

Q. 定着率は具体的にどうやって数値化すればいいですか?

A. まずは「1年後在籍率」(入社1年後に在籍している人数÷入社人数)から始めるのがおすすめである。部署別・雇用形態別に出すと、どこに課題があるかが具体的に見えてくる。退職理由もあわせて記録しておくと、翌年以降の採用・配置の判断材料になる。

Q. 後継者が「残ります」と言ってくれている場合、それでも採用活動は必要ですか?

A. 必要である。本人の意向は正式な合意として面談記録に残しつつ、並行して紹介会社への発注など、実際に動ける採用ルートは確保しておく。「頼りにしているが、依存はしない」というバランスが重要になる。


まとめ

「後任は本人が残ると言っているから大丈夫」「退職者の穴は紹介会社に頼めば埋まる」——どちらも、その場をしのぐには便利な言葉である。しかし、その裏で定着率にも退職理由にも向き合わないまま、同じ問題が静かに繰り返されていく。

採用がうまくいかないと感じたら、まず疑ってほしいのは「入口」ではなく「土台」である。なぜ人が辞めるのか。今いる人は、あと何年働き続けてくれるのか。そこに向き合う仕組みと対話があって初めて、採用の努力が実を結ぶ。

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