少し前の話になりますが、今年1月に労務の世界でとても大きなニュースがありました。
富士通グループの派遣社員として12年以上働いてきたエンジニアの男性が、「無期転換の申し込みを妨害されて一方的に転籍させられた」として提訴し、東京高裁で会社側が謝罪・解決金の支払いに応じる和解が成立したのです。
そして5月15日、日経新聞が同様のテーマを大きく取り上げました。「無期転換ルール、骨抜きにされていたのか」という問いとともに。
この問題、姫路の中小企業の経営者にとっても決して他人事ではありません。
目次
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そもそも「無期転換ルール」とは何か
有期雇用契約が同じ企業で通算5年を超えて更新された場合、労働者が申し込めば無期雇用契約に転換できる制度です。
パート、契約社員、嘱託社員など、有期で雇っているすべての人が対象になります。
そして重要なのは、会社側はこの申し込みを断ることができないという点です。
「5年経ったら無期にしなければいけない」というルールです。
富士通グループで何が起きたのか
今回の富士通グループのケースでは、こういうことが起きていました。
- 無期転換を申し込もうとしたところ、「うちは無期転換の申し込みを拒否できる」という虚偽の説明をされた
- 「転籍に同意しなければ、8月以降就業できなくなる」と脅しに近い形で転籍を迫られた
- 本人は説明を信じて転籍に同意したが、その後も約束された労働条件と異なる扱いを受け、最終的に解雇された
控訴審では裁判官が「富士通側に問題があった」と明言し、転籍合意が無効であることが確認された上で、富士通が謝罪と解決金の支払いに応じました。
「ほぼ全面勝訴」と原告側弁護士が評価するほどの結果でした。
中小企業でも起きている「似た話」
「うちはそんな大企業みたいなことはしていない」と思うかもしれません。
でも、私が現場でよく聞くのはこういうケースです。
- 「5年になりそうだったから、更新しなかった」
- 「契約書に『更新上限3年』と書いたから大丈夫だと思っていた」
- 「5年前に別の会社に一度移ってもらった」
これらはすべて、無期転換を回避しようとした行為と見なされる可能性があります。
無期転換の申込みをしたことを理由とした不利益な取り扱いは、労働契約法による司法的救済の対象となると、厚生労働省も明確に示しています。
「知らなかった」は通用しません。
会社として今すぐ確認すべきこと
① 有期雇用者の「通算年数」を把握しているか
契約社員、パート、嘱託社員など、有期雇用で働いている人が何人いて、それぞれ何年になるかを把握できていますか?
「気づいたら5年を超えていた」という状況になっていないか、今すぐ確認してください。
② 雇用契約書に「無期転換に関する明示」が入っているか
2024年4月から、有期雇用契約の締結・更新時に「無期転換に関する情報」を労働条件として明示することが義務化されました。
古い雇用契約書のテンプレートを使い続けていると、この対応ができていない可能性があります。
③ 「5年を超えたらどうするか」の方針を決めているか
無期転換を認めるのか、雇用を終了するのか。
終了する場合は、合理的な理由があるか。
方針が曖昧なまま現場任せにしていると、いざというときに対応できません。
「どうしよう」と思ったときにはすでに遅いことが多いのが、このルールの怖いところです。
「逃げようとした会社」が一番リスクを抱える
今回の富士通のケースが示しているのは、「無期転換を避けようとして、むしろ大きな問題を引き起こした」ということです。
適切に対応していれば発生しなかったリスクを、「逃げ」ようとしたことで何倍にも大きくしてしまいました。
姫路の中小企業でも同じことが起きます。
「なんとかうまく避けられないか」と考えるより、「どう対応すれば双方にとっていい落とし所があるか」を考える方が、結果として会社を守ることにつながります。
仕組みとしての雇用契約・就業規則を整え、本人との丁寧な対話を通じて雇用の方向性を共有する。
この両輪が回っていれば、「訴えられる会社」にはなりません。
よくある質問
Q. 無期転換を認めると、正社員と同じ扱いをしなければいけませんか?
A. 無期転換後も、労働条件(給与・勤務時間・職務内容など)は転換前と同じままでも構いません。無期転換は「雇用期間の定めをなくす」ことであり、自動的に正社員と同等の待遇になるわけではありません。ただし、不合理な待遇差は「同一労働同一賃金」の観点から問題になる可能性があるため、個別に確認が必要です。
Q. 更新上限を契約書に書いておけば、5年後に雇い止めできますか?
A. 「更新上限あり」と明示していても、実態として何度も更新を繰り返し「更新されることが当たり前」という状況になっていると、雇い止めが無効と判断されるリスクがあります。書面の文言だけでなく、実態の運用も含めて確認することが重要です。
まとめ
無期転換ルールは「知らなかった」では通用しない法律です。
富士通グループのケースは大企業の話ですが、同じリスクは姫路の中小企業にも確実に存在しています。
「逃げようとした会社が一番リスクを抱える」——この教訓を活かして、今のうちに有期雇用者の状況と契約書の整備を見直してください。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

