姫路の特定社労士が解説|日本郵便にフリーランス法違反で勧告——除雪・剪定・チラシ作成も対象、中小企業が確認すべき8項目

姫路の特定社労士が解説|日本郵便にフリーランス法違反で勧告——除雪・剪定・チラシ作成も対象、中小企業が確認すべき8項目

除雪。除草。郵便ポストの塗装。植栽の剪定。合鍵の作製。什器の修理。チラシの作成。イラストの作成。

これは、2026年9月2日に公正取引委員会が日本郵便株式会社へ勧告を出した、その違反対象になった仕事のリストです。日本郵便が同日公表したリリースに、内訳としてそのまま載っています。

読んで、手が止まりました。特殊な業界の話ではありません。どこの中小企業でも当たり前にやっている「ちょっとした外注」そのものです。

何が違反になったのか。自社の外注が同じ形になっていないか。公取委と日本郵便の一次資料をもとに、姫路で中小企業の労務を見ている立場から整理します。


目次

  1. 167名と140名——公取委が日本郵便に認定した2つの違反
  2. 違反の中身は「除雪・剪定・合鍵の作製」だった
  3. 日本郵便が自ら書いた「違反の原因」が、いちばん怖い
  4. 明示すべき8項目と、60日ルール
  5. 自社と外注先が、どの区分に当たるか
  6. 今日からできる6つのステップ
  7. よくある質問
  8. まとめ

167名と140名——公取委が日本郵便に認定した2つの違反

2026年9月2日、公正取引委員会は日本郵便株式会社に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法(以下、フリーランス法)第8条に基づく勧告を行いました。

公取委が公表した違反事実は、次の2つです。

  • 2024年11月1日から2025年6月30日までの間、167名の特定受託事業者に業務委託をした際に、直ちに明示事項の全部または一部を、書面または電磁的方法により明示しなかった(法第3条第1項違反)
  • 同じ期間、140名の特定受託事業者に業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、給付を受領した日または役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった(法第4条第5項違反)

同じ日、総務省からも行政指導。日本郵便は即日謝罪し、本社の役員2人を厳重注意、部長等2人を訓戒とする人事処分も公表しています。

フリーランス法は2024年11月1日に施行されたばかりです。違反とされた期間の初日は、まさにその施行日そのもの。施行と同時に、現場が法律に追いついていなかったということです。


違反の中身は「除雪・剪定・合鍵の作製」だった

リリースには、違反とされた取引の内訳が表で載っています。

郵便物等配達業務等委託契約(22名)

配達を委託しているフリーランスに対し、給付の内容の一部を事前に明示していなかったとされました。荷物の積込み、配達できなかった荷物の取り卸し、再配達連絡の受付対応業務です。

注目すべきは、この22名は契約書そのものは存在していた点です。日本郵便は原因を「契約書のひな形における給付の内容に関する記載の確認が不十分であった」と説明しています。契約書を交わしていても、書き漏らした業務があれば違反になります。現場では当然やってもらっている業務ほど、ひな形から抜け落ちます。

請求書払いの取引(145名)

一定額を下回る取引を、相手からの請求に基づいて支払っていたケースです。委託業務は次のとおり。

  • 本社(20名):有識者懇談会への出席、研修の実施、図案の作成監修
  • 支社(96名):有識者懇談会への出席、研修の実施、チラシの作成、什器等の修理、合鍵の作製、植栽の剪定、イベントへの出演、イラスト等の作成 等
  • 郵便局(30名):除雪、除草、郵便ポストの塗装

拠点別の人数を足すと146名ですが、本社と支社で1名重複するため145名。配達の22名と合わせて167名です。

この一覧を、自社の外注先に置き換えてください。看板の修理、駐車場の草刈り、植木の手入れ、パンフレットのデザイン、社内研修の講師。相手が「特定受託事業者」なら、一件一件が対象です。


日本郵便が自ら書いた「違反の原因」が、いちばん怖い

私が長く目を止めたのは、違反の内容ではなく「違反の原因」の欄でした。請求書払いについては、こうあります。

「社内ルールをフリーランス法に適合するよう改めておりましたが、その内容や表現がわかりにくかったこと、またフリーランス法や社内ルールに関する研修や周知徹底が不十分であった」

読み飛ばしそうな一文ですが、ここに本質があります。日本郵便は法律を知らなかったのではなく、社内ルールも施行に合わせて作り直していた。それでも内容が現場にわかりにくく、研修も周知も足りず、167名との取引が違反になりました。

これは「ルールがなかった事故」ではなく、「ルールが現場に落ちていなかった事故」です。

法務部門も、ひな形も、社内規程も、全国に一斉配信できる仕組みもある。それで、この結果でした。相談の現場では、発注書のひな形すらない会社のほうが多数派です。


明示すべき8項目と、60日ルール

フリーランス法第3条第1項により、業務委託をしたとき直ちに明示すべき事項は、公取委のQ&Aで次の8つとされています。

  • ①業務委託事業者および特定受託事業者の名称
  • ②業務委託をした日
  • ③給付・役務の内容
  • ④給付・役務提供の期日
  • ⑤給付・役務提供の場所
  • ⑥報酬の額および支払期日
  • ⑦(検査をする場合は)検査完了日
  • ⑧(現金以外の方法で支払う場合)支払方法に関すること

様式に決まりはなく、契約書である必要もありません。公取委のQ&Aでも、メールに箇条書きで記載する方法でよいという趣旨が示されています。

ただし2点。1つは、口頭では足りないこと。もう1つは、メール等で明示した場合、相手から書面交付を求められたら原則として応じる必要があること(法第3条第2項)です。委託時に決まらない項目は、確定後に速やかに改めて明示します。

報酬は「受領日から60日以内」

法第4条により、特定業務委託事業者(次章で説明します)は、報酬の支払期日を、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めなければなりません。

重要なのは、定めなかった場合です。受領した日そのものが支払期日とみなされます(法第4条第2項)。期日を決めていなければ、受け取ったその日に払わない限り違反になります。

日本郵便の140名は、ここで法第4条第5項違反となりました。支払いを引き延ばしたのではありません。支払期日を決めていなかったこと自体が、違反になったのです。

違反するとどうなるか

流れは、指導・助言 → 勧告 → 命令・公表 → 罰則。公取委は勧告の段階でも事業者名と違反事実の概要を公表します(今回がそれです)。命令違反や検査拒否には50万円以下の罰金。金額より、社名が公表される事実のほうが中小企業には重く効きます。


自社と外注先が、どの区分に当たるか

よくある誤解は「発注者は2種類に分かれる」という理解ですが、正しくは包含関係です。ここを押さえないと、自社の義務の範囲を判断できません。

発注する側

フリーランスに業務委託をする事業者は、規模を問わずすべて「業務委託事業者」です。従業員や役員の有無は問わず、発注者自身がフリーランスでも含まれます。第3条の明示義務は全員にかかります。

そのうち、従業員を使用している、または(法人の場合)役員が複数いる事業者が「特定業務委託事業者」です。大企業も中小企業も、従業員を雇っている個人事業主もここに入り、義務が上乗せされます。

ここでいう「従業員」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者です。短時間・短期間の一時雇用は含まれず、同居の親族のみを使用している場合も当たりません。家族経営の会社では、ここが効きます。

上乗せされる義務には、期間の条件がある

上乗せされる義務は、すべてが無条件ではありません。混同すると、単発の除雪発注にまで買いたたき規制がかかると誤解します。

  • 報酬の支払期日(法第4条):期間の条件なし
  • ハラスメント対策の体制整備(法第14条):期間の条件なし
  • 買いたたき・受領拒否・報酬減額など7つの禁止行為(法第5条):1か月以上の業務委託が対象
  • 育児介護等と業務の両立への配慮(法第13条):6か月以上が対象(6か月未満は努力義務)
  • 中途解除等の30日前予告・理由開示(法第16条):6か月以上が対象

契約の更新によって結果的にその期間に達する場合も含まれます。

受注する側

相手が「特定受託事業者(フリーランス)」かどうかは、次の2つで判断します。

  • 個人の場合:従業員を使用していないこと
  • 法人の場合:代表者以外に他の役員(取締役・理事・監査役等)がおらず、かつ従業員を使用していないこと(いわゆる一人社長)

法人の場合、従業員がゼロでも役員が2人いれば対象外です。「一人法人だから」ではなく「代表者ひとりだけの法人か」で見てください。


今日からできる6つのステップ

まずは、自社の記録を見ることから始めてください。

  • 過去1年間に「業務委託」で発注した相手を、全員リストにする
  • そのうち、従業員を使用しない個人と、代表者ひとりだけの法人に印をつける
  • その人たちに、8項目を記載した書面やメールを出しているか確認する
  • 支払期日を定めているか、受領日から60日を超えていないか確認する
  • 出していなければ、次の発注から出す。過去分を責める必要はない
  • 発注書のひな形を1つ作り、誰が発注しても同じ形で出るようにする

最後の1つが重要です。社長一人が理解していても、事故は防げません。

この6つは「守り」に見えるかもしれませんが、私は違うと考えています。書面を出すという行為は、手続きではなく「あなたを対等な事業者として扱っています」という意思表示です。条件が曖昧なままの会社からは、腕のいい人ほど静かに離れていきます。

当社の場合を書いておきます

人にお伝えする以上、自分のところを書かないとフェアではありません。

当社にも業務委託でお願いしている方が3名います。全員と業務委託契約書を交わし、報酬は必ずお支払いしています。加えて去年と一昨年、業績が良かった年に、予定外の報酬をお渡ししました。ボーナスと呼べる額ではありませんが、感謝を形にする方法が私にはそれしか思いつきませんでした。報酬を一方的に減らすことは禁止されていますが、増やすことを止める規定はありません。

そのうえで、業務委託の方にも従業員と同じくらいの気持ちで接しています。朝礼にお声がけすることもあれば、オンラインでミーティングをすることもある。相談されれば「どうしました」と、社員に聞くのとまったく同じように聞きます。

1点だけ線を引くと、これは指揮命令ではなく、参加を義務づけてもいません。時間や場所を拘束して指示を出せば、偽装請負や労働者性の問題になります。線を引くところは引いたうえで、扱いは変えない。ハードとソフトの両輪は、外注に対しても同じです。


よくある質問

Q1. 契約書を交わしていれば、それで明示義務は果たしたことになりますか?

契約書があること自体は問題ありませんが、8項目がすべて書かれているかが判断基準です。今回の日本郵便の配達業務がその例で、契約書はあったものの、ひな形に給付の内容の一部が書かれておらず違反と認定されました。実務では、発注書のひな形をPDFで出せるようにしておくのが、いちばん手間がかかりません。

Q2. 年に1回、数万円の草刈りを個人の方にお願いしているだけでも対象ですか?

相手が事業としてその仕事を請け負っている個人で、従業員を使用していないのであれば、対象になります。明示義務については、金額の下限も頻度の要件もありません。今回の日本郵便でも、郵便局が発注した除雪・除草・郵便ポストの塗装が違反対象に含まれています。

逆に、事業としてではなくご近所づきあいの延長でお願いしている相手は、そもそも「事業者」ではないため対象外です。相手が請求書を出してくるかどうかが、一つの目安になります。


まとめ

押さえる点は3つです。

1つめ。契約書があっても、書き漏らせば違反になります。配達業務の22名は契約書があったうえでの違反でした。

2つめ。支払期日は、決めていないこと自体が違反です。決めなければ受領日が支払期日とみなされます。

3つめ。金額の小ささは免罪符になりません。数万円の除雪も除草も、そのまま行政処分の対象です。

日本郵便は「知らなかったから」転んだのではありません。整えたルールが現場に届いていなかった。6つのステップの最初の1つ——過去1年の外注先を紙に書き出す——なら、30分もかかりません。