「また法律が変わるの?」「今国会は見送りになったんでしょ?」——そう思って、少し安心していませんか。
2026年から2027年にかけて、労働基準法が約40年ぶりの大改正に向けて動いています。2025年末に国会への提出は見送られましたが、これは「終わった話」では断じてありません。改正に向けた議論は継続中であり、方向性はすでに定まっています。
特に姫路の中小企業に直撃するのが、「週44時間特例の廃止」を筆頭とした複数の論点です。飲食・小売・美容・宿泊などの業種に長年認められてきた特別ルールがなくなり、すべての業種で週40時間に統一される方向で議論が進んでいます。
「コスト増だ」という声が多いのはわかります。ただ、この記事では2つの視点を同時にお伝えします。何がいつ変わるのか(論点整理)と、なぜ今から動いた経営者が有利なのか(チャンスの話)——この両方を理解したうえで、今日から準備を始めてください。
目次
目次
- なぜ今、労基法が40年ぶりに見直されるのか
- 中小企業に直結する主要論点4つ
- 「見送り」でも油断禁物——改正は必ず来る
- ピンチをチャンスに変える——早く動いた会社が採用で勝つ
- 今すぐ着手すべき「3つの実務対応」
- よくある質問
- まとめ:法改正は「外圧」ではなく「後押し」
なぜ今、労基法が40年ぶりに見直されるのか
現行の労働基準法は1987年の改正が最後の大幅な見直しでした。それから約40年、働き方の実態は大きく変わっています。
テレワークの普及、副業・兼業の一般化、フリーランス・ギグワーカーの増加——こうした新しい働き方に現行法が対応できていない部分が多く残っています。さらに少子高齢化による労働人口の減少という構造的課題が追い打ちをかけています。
限られた人材を有効に活用し、働く人が長く健康に働ける環境を整えるには、法律の仕組みそのものを変える必要がある——それが今回の改正議論の背景です。厚生労働省の審議会では2024年から集中的な議論が行われ、複数の論点について方向性がすでに示されています。
中小企業に直結する主要論点4つ
① 週44時間特例の廃止(最大の影響)
現在、小売・飲食・美容・宿泊などの特定業種で10人未満の事業場には「週44時間まで法定労働時間」とする特例が認められています。この特例が廃止されると、これらの業種も一律「週40時間」になります。
週41〜44時間が「新たな残業時間」としてカウントされ、残業代の支払い義務が発生します。姫路市内の飲食店・美容院・小売業・ホテルの多くが対象です。現状の労働時間を把握し、コスト試算を今からしておく必要があります。
② 勤務間インターバル規制の義務化
現在は「努力義務」にとどまっている勤務間インターバル(前の勤務終了から次の勤務開始まで一定時間を空ける)が義務化される方向で議論されています。シフト制の業種ではシフト設計の抜本的な見直しが必要になる可能性があります。
③ 連続勤務日数の上限規制
現行法には連続勤務日数の上限規定がありません。改正議論では連続勤務の上限設定が検討されており、長期連続勤務が常態化している業種では人員配置の再設計が必要になります。
④ 割増賃金の計算ルール見直し
副業・兼業を持つ労働者の時間外労働の計算方法も見直し対象です。副業を容認している会社や、従業員が副業を持っている可能性がある会社では、この論点も今後注視する必要があります。
「見送り」でも油断禁物——改正は必ず来る
「今国会は見送りになったんでしょ?じゃあもう少し待てばいい」——この考え方が最も危険です。
見送りはあくまで「提出時期」の話であり、改正の方向性は変わっていません。むしろ、提出が遅れた分、施行時期との間隔が縮まる可能性すらあります。2026〜2027年の改正実現に向けて、議論は継続しています。
法改正に慌てて対応する会社と、今から準備している会社では、施行後の対応コスト・混乱の大きさがまるで違います。準備の差が、経営の差になる。それが労務管理の現実です。
ピンチをチャンスに変える——早く動いた会社が採用で勝つ
ここからが、この記事で最も伝えたいことです。
今、中小企業の採用市場で何が起きているかご存知ですか。求人を出しても応募が来ない、来ても採れない、採っても辞める——この三重苦に多くの経営者が悩んでいます。
そして求職者が仕事を選ぶ基準で急速に上がっているのが、「労働時間の短さ」「休日の取りやすさ」「残業が少ない職場かどうか」です。特に20代・30代の求職者には、給与よりも「働き方」を重視する傾向が顕著になっています。
つまり、週40時間に対応した職場環境を今から整えた会社は、採用市場での競争力が一気に上がるということです。「週40時間以内で働けます」「残業はほとんどありません」——この一言を求人票に書ける会社と書けない会社では、応募数がまるで違う時代が来ています。
さらに、定着にも効果があります。長時間労働が続く職場は離職率が高い。これは統計的にも明らかです。労働時間を適正化すると従業員の満足度が上がり、長く働いてくれる人材が育ちやすくなります。
法改正を「コスト増」として嘆くか、「採用・定着の武器」として活かすか。経営者の視点次第で、同じ法改正がまったく違う結果をもたらします。
今すぐ着手すべき「3つの実務対応」
① 現状の労働時間を「見える化」する
勤怠管理システムのデータを使って、従業員ごとの週あたり平均労働時間を算出してください。特例業種なら「週何時間が常態化しているか」を可視化することが第一歩。40〜44時間の範囲で働いている従業員が多ければ、改正後のコスト増規模を今のうちに把握しておく必要があります。
② 業務の「棚卸し」と再分配
労働時間を減らすには、仕事の量を減らすか、仕事の効率を上げるしかありません。誰が何をやっているかを一覧化し、「やめられる仕事」「まとめられる仕事」「仕組み化できる仕事」を分けてみてください。中小企業では経験的に、業務の20〜30%は整理できることが多い。ここを削減できれば、労働時間の圧縮は十分に可能です。
③ 就業規則・雇用契約書の事前見直し
法改正に対応するには、就業規則や雇用契約書の改定も必要です。労働時間に関する条項・シフトの組み方・残業代の計算方法は今の特例を前提に書かれているケースが多い。改正が施行されてから慌てて対応するのでは遅い。今の段階から書類を整えておくことで、施行後もスムーズに対応できます。
よくある質問
Q. 自社が特例業種に該当するか確認する方法はありますか?
A. 特例業種は「商業」「映画・演劇業」「保健衛生業」「接客娯楽業」のいずれかに該当し、かつ常時使用する労働者が10人未満の事業場です。業種の分類は日本標準産業分類を基準とします。判断が難しいケースも多いので、社労士に確認するのが確実です。なお、今後の改正でこの「10人未満」という要件が撤廃される可能性もあります。
Q. 変形労働時間制を導入すれば週40時間を超えても問題ないですか?
A. 変形労働時間制は繁閑に合わせた柔軟なシフト設計を可能にする制度ですが、導入には労使協定または就業規則の整備が必要です。また、特例廃止後の変形労働時間制の適用範囲が改正でどう変わるかは詳細が出てから判断が必要です。「変形労働時間制があるから大丈夫」と思い込まず、現行の運用が適法かどうかを早めに専門家と確認しておくことをお勧めします。
まとめ:法改正は「外圧」ではなく「後押し」
今回の労基法改正議論で、姫路の中小企業が特に注目すべき論点は4つです:
- 週44時間特例の廃止(特例業種への直接的コスト影響)
- 勤務間インターバルの義務化(シフト設計の見直し)
- 連続勤務日数の上限規制(人員配置への影響)
- 割増賃金計算ルールの見直し(副業者の管理コスト)
改正が「見送り」になったからといって、安心するのは早い。しかし同時に、この変化は「体質改善のチャンス」でもあります。
労働時間の見える化・業務の棚卸し・就業規則の見直し——この3つを今から進めた会社は、法改正が来たときに慌てずに済みます。それどころか、「週40時間で働ける会社」という事実が、採用市場での強力な武器になります。
法律は変わります。でも、変わる前に動いた経営者だけが、変化を「チャンス」にできる。私はそう確信しています。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

