FIFAワールドカップ2026が6月12日に開幕しました。参加国は32カ国から48カ国へ。試合数は64から104へ。史上最大規模の大会です。
しかし開幕前から、世界中で批判が噴出していました。「試合が多すぎる」「選手が消耗する」「本当の強さが見えなくなる」——規模を大きくすることが、必ずしも「良い大会」につながらない。これは多くの人が感じていることです。
この構図、中小企業の採用にそのまま当てはまります。「とにかく人を増やせば解決する」という発想が、実は採用問題をこじらせている。今日はその話をします。
目次
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「採用数を増やす」が失敗する理由
「人手が足りない → もっと採用しよう」という発想は、一見正しそうに見えます。でも、多くの中小企業でこれが裏目に出ています。
理由はシンプルです。人が定着しない根本原因を解決しないまま採用数を増やしても、入口から入った人が出口から出ていくだけです。バケツに穴が開いたまま、水を注ぎ続けているのと同じです。
姫路で中小企業を支援していると、こんな話をよく聞きます。
- 「去年5人採用したのに、今は3人しか残っていない」
- 「採用してもすぐ辞めるから、また募集している」
- 「採用コストがかかりすぎて、利益が出ない」
これはすべて、「採用数を増やす」という解決策を取り続けた結果です。穴を塞がずに水を注いでも、バケツは満たされません。
規模拡大が会社を壊す3つのパターン
① 教育コストの爆発
採用を増やすと、既存社員の教育負担が増えます。「また新人が入ってくる」「また一から教えなければいけない」——この繰り返しが、既存社員を消耗させます。教える側が疲弊して辞めていく。これが採用増加による「二次離職」です。
② 職場の空気の悪化
「誰でもいいから来てほしい」という採用基準の緩みは、職場の質を下げます。価値観の合わない人が入ってくることで、既存社員との摩擦が生まれます。チームの一体感が失われ、「この会社にいたくない」と感じる社員が増えます。
③ 採用コストの慢性化
求人媒体への掲載費、面接にかかる時間、入社後の研修費用——採用を繰り返すほど、これらのコストが積み上がります。「採用費は仕方ない経費」という感覚になると、コスト管理の視点が失われ、利益を圧迫し続けます。
日本代表が教える「小さくても強い組織」の作り方
W杯の日本代表は、48カ国の中の1チームです。人口も予算も、欧州・南米の強豪国には及びません。それでも「勝つ」ために何をしているか。
選手の数を増やすのではなく、チームの質を上げることです。選ばれた26人が、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整える。戦術を共有し、信頼関係を作り、個々の強みを組み合わせる。
中小企業も同じです。大企業のように何十人も採用できない。だからこそ、「今いる人が最大限活躍できる環境」を作ることが最優先です。
- 評価制度の整備:頑張りが正当に評価される仕組み(ハード)
- 1on1・定期面談:個々の不満・希望を早期にキャッチする(ソフト)
- 業務の適材適所:得意なことをやらせる配置の見直し(ハード)
- 成長機会の提供:「ここにいると成長できる」という実感(ソフト)
制度(ハード)だけでも、関係性(ソフト)だけでも不十分です。両方を同時に育てることで、「この会社で働き続けたい」という気持ちが生まれます。
採用より先にやるべきこと
採用数を増やす前に、まず以下を確認してください。
① 離職理由を直視する
直近2年で辞めた社員の理由を整理してください。「一身上の都合」で終わらせていませんか?退職面談を実施していますか?離職理由がわからないまま採用を続けるのは、穴の場所を知らずにバケツを交換し続けるのと同じです。
② 在職社員の本音を聞く
「うちの社員は満足している」と思っていても、本音は出ていないことが多い。匿名アンケートや1on1で、不満・不安・改善希望を収集してください。採用より先に、今いる社員を守ることが優先です。
③ 採用基準と入社後のギャップを確認する
「思っていた仕事と違う」「聞いていた環境と違う」——これが早期離職の最大要因です。求人票・面接・入社後の仕事内容が一致しているか、改めて確認してください。
④ 「数」より「質」——1人ほしいなら、応募は1人でいい
極端な話をします。1人ほしいと思っているなら、応募は1人でいい。
問題は「数」ではなく「質」です。「この人しかいない」と思えるような1人から応募を集めること——それが本当の採用力です。
合わない人を10人集めても、選考時間の無駄です。面接官の時間、書類選考の時間、案内メールを送る時間……すべてコストです。そのコストをかけて採用できた人が3ヶ月で辞めたら、何も残りません。
「応募数が増えた」を喜ぶのをやめてください。見るべき指標は「定着率」と「活躍度」です。そのために必要なのは、母集団の量ではなく、自社に合った人にだけ刺さる求人設計です。
よくある質問
Q. 離職が多くても、採用し続けるしかないのでは?
A. 短期的にはそうかもしれません。ただ、採用と定着改善を同時に進めることが重要です。採用しながら離職原因を探り、少しずつ穴を塞いでいく。「採用か定着か」ではなく「採用と定着を並行する」視点を持ってください。
Q. 今いる社員の満足度を上げるには何から始めればいいですか?
A. まず1on1か定期面談を月1回始めることをお勧めします。「最近どう?」という一言でいい。話す場を作るだけで、社員の不満が爆発する前にキャッチできるようになります。制度より先に「聞く習慣」です。
まとめ
W杯が規模を拡大したからといって、サッカーの質が上がるわけではありません。採用数を増やしたからといって、人手不足が解決するわけではありません。
問題の本質は「人が来ない」ことではなく、「人が残らない」ことです。残る仕組みを作ることが、採用コストを下げ、組織を強くする唯一の道です。
まず一歩。離職理由の把握か、1on1の導入か——どちらかだけでも、今月から始めてみてください。
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。
姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

