転職経験者のおよそ6人に1人が、退職代行を利用しているというデータがあります。理由として最も多いのは「引き留められた、または引き留められそうだから」で約4割。次いで「自分から言い出せる環境でないから」が続きます。姫路の中小企業にとっても、もはや他人事ではない時代です。「うちの若手は真面目だから大丈夫」と思っている経営者ほど、実は要注意かもしれません。
聞いたことのない会社名から突然電話がかかってきて、「本日付で、御社の従業員の退職を代行してお伝えします」とだけ告げられる。そんな連絡を受ける可能性は、姫路のどの会社にもゼロではありません。今日は、実際に連絡が来たとき、まずやるべきこと、そしてやってはいけないことをお伝えします。
目次
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連絡が来た瞬間、絶対にやってはいけないこと
感情的になって本人へ直接電話をかけたり、業者を通さず自宅を訪ねたりする対応は絶対に避けてください。退職代行を使う従業員の多くは「直接言うと引き留められる」「トラブルになりそう」という不安を抱えています。そこに会社側が感情的に踏み込むと、パワハラや強要と受け取られ、労使トラブルに発展するリスクが一気に高まります。
同僚を通じて本人に接触を試みるのも避けるべきです。業者を介さない直接連絡は、退職代行を利用した意味そのものを踏みにじる行為と受け取られ、場合によってはSNSでの拡散や、労働基準監督署への相談に発展することもあります。
また、「損害賠償を請求する」「懲戒解雇にする」といった強い言葉を業者に伝えるのも、控えるべき対応です。実際には、突然の退職によって具体的かつ重大な損害が生じたことを立証できなければ、損害賠償請求が認められる可能性は極めて低いのが実情です。感情に任せた発言は、かえって会社側の評判リスクを高めるだけに終わります。
まずやるべき3つの対応
- 退職日、年次有給休暇の消化、貸与物の返却など、事務的な項目を正確に確認する
- 感情的な反応は封印し、淡々と手続きを進める
- 退職理由を聞く(これが一番重要)
退職日・年次有給休暇の消化・貸与物の返却といった事務的な項目を、まず正確に詰めてください。貸与物(制服、社員証、鍵、パソコンなど)の返却方法や、最終給与の振込先の確認など、実務的な項目をリスト化しておくと、慌てずに対応できます。
そして、最も重要なのが3つ目の「退職理由を聞く」です。私は、退職代行からの連絡を、単なるトラブルではなくチャンスだと捉えています。本人と直接話しているときには出てこなかった本音が、業者という第三者を挟んだことで、かえって聞き出せることがあるからです。事務手続きだけで終わらせてしまうと、会社にとって一番価値のあるこの機会を取りこぼします。
やり取りはできる限り書面(メールやFAX)で残すことも重要です。口頭でのやり取りだけだと、後になって「言った・言わない」のトラブルに発展しかねません。退職日、最終出社日の有無、貸与物の返却期限といった条件は、必ず文字として残る形で確認してください。給与の未払いがある場合は、退職日までにきちんと精算し、離職票や源泉徴収票などの必要書類も、法律で定められた期限内に発行することを忘れないようにしてください。
退職代行業者にも「質」の差がある
退職代行業者には、弁護士が運営するもの、労働組合が運営するもの、民間企業が運営するものなど、複数の形態があります。この違いによって、会社側が対応できる範囲も変わってきます。
例えば、弁護士や労働組合が運営する業者であれば、未払い残業代の請求や退職条件の交渉まで代理で行うことができます。一方、それ以外の民間業者は、あくまで「退職の意思を伝える」ことまでが業務範囲とされており、交渉権限を持たないのが一般的です。相手がどの立場で連絡してきているのかを見極めることも、冷静な対応の一助になります。
交渉権限を持たない業者が、有給休暇の消化や退職日の交渉まで踏み込んでくる場合、それは弁護士法に抵触する「非弁行為」にあたる可能性があります。おかしいと感じたら、その場で判断せず、社労士や弁護士に一度確認することをお勧めします。会社側が法律の知識で防御できる場面は、意外と多くあります。「相手も業者だから、専門的に対応してくれているはずだ」と思い込まず、疑問を感じた時点で一度立ち止まる姿勢が、無用なトラブルを避ける鍵になります。
「なぜ本人が言えなかったのか」を考える
退職理由を聞けたなら、もう一つのチャンスが訪れます。それが、「なぜこの会社では、本人が直接言えなかったのか」という問いに向き合うことです。退職代行を使われたとき、本当に向き合うべきは業者対応の手続きではなく、この問いそのものです。
「引き留められそう」「言い出せる空気じゃない」——退職代行を選ぶ理由の多くは、これです。就業規則や退職ルールを整えること(ハード)はもちろん大切です。ですが、日頃から本音を言える関係性(ソフト)がなければ、次の退職代行はまた起こります。1件の退職代行は、組織からの静かな警告だと捉えるべきです。
特に、退職の申し出に対して過去に強く引き留めた経験がある会社ほど、要注意です。「辞めたいと言っても、結局聞いてもらえない」という空気が一度でも社内に広がると、次に辞めたい人は最初から会話を避け、代行サービスに頼る道を選びます。退職の意思表示を、まず一度は正面から受け止める文化を作ることが、根本的な予防策になります。
退職代行を1件経験した会社ほど、「ではなぜ他の従業員は直接辞めると言えているのか」を考えてみてください。同じ職場でも、直接言える人と言えない人がいるということは、上司との関係性や、部署の空気によって差が生まれている証拠です。退職代行の利用を「その人個人の問題」で片付けず、組織のコミュニケーションの問題として捉え直すことが、次の1件を防ぐ最も確実な方法です。
よくある質問
Q. 退職代行からの連絡を無視することはできますか?
A. 無視はお勧めしません。委任状で本人の意思が確認できれば、退職の意思表示自体は有効です。無視や放置は本人・業者双方との関係を悪化させ、SNSでの拡散などさらなるリスクを招きます。淡々と事務対応することが最善です。
Q. 有給休暇を全部消化すると言われました。拒否できますか?
A. 有給休暇の取得は労働者の権利であり、時季変更権を行使できる特別な事情がない限り、原則として拒否できません。退職日までの間に業務の引き継ぎが必要な場合は、その旨を書面で丁寧に伝えることが現実的な対応です。
Q. 退職代行を使われないために、会社ができることはありますか?
A. 月1回でもいいので、1on1のような定期的な面談の場を持ってください。思い立ったときだけ話すのではなく、決まったタイミングで定期的に話す機会があれば、口数や表情のちょっとした変化にも気づきやすくなります。そのうえで、退職の意思を伝えやすい空気を日頃から作ることも大切です。過去に退職を申し出た従業員への対応を振り返り、「引き留めすぎていなかったか」を確認してみてください。
Q. 退職代行業者が提示してきた退職日に、会社側の都合を反映させることはできますか?
A. 無期雇用契約の場合、民法上は退職の意思表示から原則2週間で雇用契約が終了します。会社側が一方的に退職日を延長させることは基本的にできません。ただし、有給休暇の消化の調整など実務的な相談であれば応じてもらえる場合もあるため、まずは丁寧に確認してみることをお勧めします。
まとめ
退職代行は、もはや特別な出来事ではありません。突然の連絡に動揺しそうになったときこそ、思い出してほしいのは、これが2つのチャンスだということです。本人からは聞けなかった退職理由を知るチャンス、そして「なぜ直接言えなかったのか」に向き合うチャンス。この2つを取りこぼさないことが、次の退職代行を防ぐ第一歩になります。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

