以前このブログで、「中小企業でも同一労働同一賃金の義務は厳格に適用されますか」というテーマを取り上げました。あのときお伝えしたのは、企業規模を問わずすべての事業主が対象だという原則です。
今回お伝えしたいのは、その先の話です。2026年4月28日、同一労働同一賃金に関する改正省令・告示が公布され、2026年10月1日に施行されます。あと1ヶ月ほどで、判断基準そのものがアップデートされるのです。
「対象になるかどうか」はもう分かっている、という姫路の中小企業経営者ほど、今回の改正は見落としがちです。何がどう変わるのか、順を追って解説します。
読み終えたときに、「自社の待遇差のうち、どこが説明できてどこが説明できないか」がイメージできる状態を目指して、お伝えしていきます。
目次
目次
- 今回の改正の正体——3つの改正ポイント
- 「不合理な待遇差」の判断基準が、より実務寄りになった
- 対象は「全事業主」——企業規模での線引きはない
- 姫路の中小企業で起こりがちな「なんとなくの差」
- 10月1日までに、経営者がやるべきこと
- よくある質問
今回の改正の正体——3つの改正ポイント
同一労働同一賃金のルールは、大企業では2020年4月、中小企業でも2021年4月から、すでに適用されています。では今回の改正は何が違うのか。厚生労働省が示している改正のポイントは、大きく3つです。
①正社員とパート・有期社員の待遇に相違がある場合、その内容・理由等について説明を求めることができる旨を、労働条件の明示事項に追加すること。②賞与、退職手当、各種手当、福利厚生についてのガイドラインの記載が見直され、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇などで正社員と同一の待遇が求められるケースが明確化されたこと。③説明方法の明確化、公正な評価に基づく賃金決定、正社員転換制度の情報公表など、雇用管理上の措置が求められるようになったことです。
これまでの裁判例の積み重ねを踏まえて、厚生労働省のガイドラインをより実務に即した内容にアップデートするものです。法律の枠組み自体が変わるわけではありませんが、「何を見て判断するか」の物差しが具体的になったと理解してください。
私が姫路の中小企業経営者にお伝えしたいのは、法改正のたびに大きく騒ぐ必要はないということです。ただし、判断基準がアップデートされたタイミングは、自社の制度を見直す絶好の機会でもあります。何がどう変わったのかを、次の章から具体的に見ていきましょう。
「不合理な待遇差」の判断基準が、より実務寄りになった
これまでのガイドラインは、「不合理な待遇差を設けてはならない」という原則論が中心でした。今回の改正では、基本給、賞与、各種手当、福利厚生といった項目ごとに、判断のポイントがより具体的に示されています。
例えば、同じ業務内容であっても、職務の責任範囲や配置転換の有無によって、待遇に一定の差を設けることが認められる場合があります。逆に、「正社員だから」「パートだから」という雇用形態の違いだけを理由にした差は、認められにくくなっています。ここが、今回のアップデートで最も実務的に重要なポイントです。
項目ごとに見ると、基本給は職務内容・職務の変化の範囲・成果や能力・経験を総合的に考慮すること、賞与は会社の業績への貢献度に応じて支給すること、各種手当は手当の趣旨(役職の責任に対するものか、通勤にかかる実費補填かなど)に照らして支給の要否を判断することが、より丁寧に示されるようになりました。
つまり、「なぜこの手当は正社員にしか出さないのか」という問いに、具体的な理由で答えられるかどうかが、これまで以上に問われる時代になったということです。
対象は「全事業主」——企業規模での線引きはない
「うちは従業員10人程度の小さな会社だから関係ない」。姫路でお会いする経営者から、今でもこうした声を聞くことがあります。ですが、同一労働同一賃金のルールに、企業規模による適用除外はありません。パートタイム・有期雇用労働者を一人でも雇用していれば、すべての事業主が対象です。
社会保険の適用拡大のように「従業員○人以上」という規模要件がある制度と、同一労働同一賃金は仕組みが違います。この違いを理解しておかないと、「うちは対象外」という思い込みのまま、気づかないうちにリスクを抱えることになります。
実際に姫路でお話を伺うと、「パートさんは家族のようなもので、待遇差なんて考えたこともなかった」という声もよく聞きます。関係性が良好であることと、待遇の説明責任が果たせているかは、別の話です。良い関係だからこそ、制度として説明できる状態にしておくことが、結果的にその関係を長く守ることにつながります。
姫路の中小企業で起こりがちな「なんとなくの差」
これを、姫路のある中小企業に置き換えて考えてみます。
- 正社員には毎月の家族手当・住宅手当を支給
- 同じ仕事をしているパート社員には、いずれの手当も支給なし
- 理由を尋ねられても「うちは昔からそうだから」としか答えられない
こうしたケースは、姫路の中小企業でも決して珍しくありません。悪意があってそうしているわけではなく、創業時からの慣習がそのまま残っているだけ、というケースがほとんどです。しかし、今回の改正で判断基準が明確になったことで、「昔からそうだから」は、通用しにくくなります。
特に家族手当や住宅手当は、「生活費の補助」という趣旨で支給されていることが多く、雇用形態を問わず生活費がかかる事実は同じです。趣旨に照らして合理的な理由が説明できなければ、見直しの優先順位は高いと考えてください。
10月1日までに、経営者がやるべきこと
まずやるべきことは、自社の手当・賞与・福利厚生を一つずつ棚卸しすることです。「正社員には出しているが、パート・有期社員には出していないもの」をリストアップし、それぞれについて「なぜ差があるのか」を言語化してみてください。
言語化してみて、明確な理由が説明できないものがあれば、それは見直しの対象です。すべてを一気に是正する必要はありませんが、「何が課題で、いつまでにどう対応するか」の方針を持っておくことが重要です。10月1日は、あくまで改正ガイドラインの施行日であり、対応の締め切りではありません。ただし、何も知らずに施行日を迎えるのと、課題を把握した上で迎えるのとでは、その後の対応スピードがまったく違います。
棚卸しを一人で抱え込む必要はありません。就業規則や賃金規程とあわせて確認すると、思わぬところに「昔の名残」が残っていることもあります。まずは現状把握から、一歩ずつ進めていきましょう。
顧問社労士がいない会社の場合は、まず、正社員とパート・有期社員の間で支給有無に差がある手当を一覧にして書き出してみてください。それだけでも、自社の現状を客観的に把握する第一歩になります。専門家に相談する場合も、この一覧があるだけで話が早く進みます。
よくある質問
Q. 今回の改正で、罰則は強化されますか?
A. 今回の改正は、行政指針(ガイドライン)の内容をアップデートするものであり、罰則規定そのものが新設・強化されるわけではありません。ただし、判断基準が明確になった分、労働者側が待遇差の不合理性を主張しやすくなる可能性はあります。トラブルを未然に防ぐという観点で、早めの見直しをおすすめします。
Q. 賞与や退職金にも、この考え方は及びますか?
A. 基本給や各種手当だけでなく、賞与や退職金についても「不合理な待遇差」の考え方は及びます。特に退職金は、支給の有無や算定方法において正社員と非正規社員で差が大きくなりやすい項目です。次回以降のブログで、この点はさらに詳しく取り上げる予定です。
まとめ
2026年10月1日、同一労働同一賃金のガイドラインが改正されます。法律の枠組みが変わるわけではありませんが、待遇差の説明を求める権利の明示、賞与・退職手当・各種手当・福利厚生の記載見直し、雇用管理上の措置という3つのポイントで、判断基準がより実務寄りに、より具体的になります。
「昔からそうだから」で続けてきた待遇差がある会社ほど、今のうちに棚卸しをしておく価値があります。企業規模を理由に「うちは関係ない」と考えるのは、今回の改正では通用しません。10月1日を「知らないうちに迎える日」にするか、「準備した上で迎える日」にするか。その差は、思っている以上に大きいものです。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

