姫路の特定社労士が解説|内部告発した社員への2,200万円請求は許されるのか——「退職代行モームリ」事件から考える中小企業の対応

姫路の特定社労士が解説|内部告発した社員への2,200万円請求は許されるのか——「退職代行モームリ」事件から考える中小企業の対応

「退職代行モームリ」を運営していた会社の元社長に、2026年8月28日、東京地裁で判決が言い渡される。求刑は懲役2年。無資格のまま弁護士に依頼者を紹介し、報酬を得ていたという弁護士法違反の事件だ。※この記事を書いている時点では、判決の結果はまだ報じられていない。

ここまでなら、よくある「グレーな商売が摘発された」というニュースで終わる。しかし今回、姫路の中小企業経営者に伝えたいのは判決の中身そのものではない。運営会社が、法令違反を告発した元社員2人に対して、2,200万円を超える損害賠償を求めて提訴していたという、もう一つの事実だ。

指摘してくれた社員を、会社はどう扱うべきか。これは退職代行業界だけの話ではない。姫路の中小企業にも、明日起こりうる話だ。


目次

  1. 1万6,500円の紹介料が、174人分の信頼を壊した
  2. 見落とされがちなもう一つの顔——内部告発した社員への2,200万円請求
  3. なぜこれは「スラップ訴訟」と呼ばれるのか
  4. 自社に置き換えると——内部通報制度をハード×ソフトで設計する
  5. よくある質問

1万6,500円の紹介料が、174人分の信頼を壊した

「退職代行モームリ」は、本人に代わって退職の意思を会社に伝えるサービスとして急速に利用者を増やした。運営会社「アルバトロス」(横浜市)の元社長・谷本慎二被告(37)と、妻で元執行役員の志織被告(32)は、無資格のまま弁護士に依頼者を有償で紹介したとして、弁護士法違反罪などに問われた。

2023年から2025年にかけて、計174人分の法律事務を弁護士2人に紹介し、1人紹介するごとに1万6,500円を受け取っていたとされる。紹介料という名目では違法になるため、「広告業務委託費」などと名目を偽っていたという。検察側は谷本被告に懲役2年、志織被告に懲役1年6月、法人としてのアルバトロスに罰金200万円を求刑した。谷本被告は公判で「大丈夫だろうという安易な気持ちだった」と振り返っている。

退職代行サービスは、ここ数年で一気に「特別なもの」ではなくなった。24時間LINEで申し込め、即日で会社に連絡してもらえる手軽さから、姫路の中小企業でも「ある日突然、退職代行から電話がかかってきた」という相談を受けることが増えている。だからこそ、退職代行そのものの法令順守が問われた今回の事件は、業界の信頼性に直結する大きな出来事だ。

判決は2026年8月28日に東京地裁で言い渡される予定だが、求刑通りになるかどうかより、私が注目したのは公判の過程で明らかになった別の事実だった。


見落とされがちなもう一つの顔——内部告発した社員への2,200万円請求

この事件が報じられる中で、あまり大きく取り上げられていない事実がある。アルバトロス社は、社内の弁護士法違反を告発した元社員2人に対して、2,200万円を超える損害賠償請求訴訟を起こしていたのだ。

告発した元社員側は、これを「内部告発つぶし」だと主張している。問題を指摘した社員を、辞めさせるだけでなく、高額の請求で追い詰める——。これが実態であれば、多くの人が「それはやりすぎだ」と感じるはずだ。

実際、この事件を報じた記事のコメント欄でも、賛否は割れている。「弁護士資格を持たない業者は規制すべきだ」という意見がある一方で、「弁護士の権益を守るための法律を、業界つぶしに使っているだけではないか」という声もある。世論はまだ一つにまとまっていない、珍しい論点だ。


なぜこれは「スラップ訴訟」と呼ばれるのか

企業や組織が、自分たちを批判・告発した個人に対して、勝訴の見込みが薄くても高額訴訟を起こし、経済的・精神的に消耗させて口を封じようとする訴訟を、「スラップ訴訟(SLAPP:Strategic Lawsuit Against Public Participation)」と呼ぶ。

裁判に勝つか負けるかは、実はスラップ訴訟の本質ではない。訴えられること自体が、本人にとって大きな負担になる。弁護士費用、時間、精神的なプレッシャー——それを見せつけることで、「次に告発しようとする人」を萎縮させる効果がある。

社内の不正やハラスメントを指摘してきた社員に対して、「名誉毀損だ」「業務妨害だ」と感情的に反応してしまえば、結果的にスラップ訴訟と同じ構図を作ってしまうことになる。たとえ会社側が法的に勝ったとしても、社会的信用を失えば、それは経営上の大きな損失だ。

これを、ある製造業の会社に置き換えてみると、次のような流れになる。

  • 経理担当の社員が「未払いの残業代があるのでは」と上司に相談
  • 上司が「余計なことを言うな」と一蹴し、その社員を評価面談で厳しく指摘
  • 社員が労働基準監督署に相談、是正勧告が入る
  • 会社が「情報を外部に漏らした」として社員に懲戒処分を検討
  • 社員が退職、SNSで経緯を発信、他の社員の間にも不信感が広がる

最初の一歩——「余計なことを言うな」という反応さえなければ、この流れの大半は起きなかった。問題はいつも、指摘された「事実」ではなく、指摘への「反応の仕方」から始まる。


自社に置き換えると——内部通報制度をハード×ソフトで設計する

私は普段、経営者のパートナーとして経営者側に立つことが多い。しかし今回の事件は、「弱い立場にある人の味方でありたい」という自分の姿勢を、改めて確認させられる出来事だった。指摘してくれた社員は、本来、会社にとって最初のリスク発見者のはずだ。

ハードの面では、公益通報者保護法に基づいた内部通報制度を整備することが土台になる。誰が通報しても不利益な取り扱いを受けないというルールを就業規則に明記し、通報窓口を社内外に用意する。消費者庁の指針では、常時使用する労働者数が301人以上の企業は体制整備が義務、300人以下は努力義務とされている。姫路の中小企業の多くは努力義務側に当たるが、義務でないからやらなくていい、ということにはならない。指摘した社員への報復は、義務の有無にかかわらず法的リスクになりうる。

具体的には、次の3つがあるだけで、対応の質は大きく変わる。

  • 窓口を社内だけでなく社外(顧問社労士や外部の相談窓口など)にも用意し、直属の上司を介さずに相談できるルートを作る
  • 通報を受けた後、いつまでに・誰が・どう対応するかを事前に決めておき、対応をその場の空気や人間関係で左右させない
  • 通報者に「その後どうなったか」を必ずフィードバックする。放置されると、次からは誰も声を上げなくなる

だがルールだけでは足りない。ソフトの面——指摘してくれた社員を「面倒な人」ではなく「早期発見のありがたい情報源」として扱う組織文化がなければ、どんなに立派な制度も機能しない。経営者自身が、耳の痛い指摘に対してどんな顔をするか。それを従業員はよく見ている。


よくある質問

Q. 公益通報者保護法で守られる「通報」とは、どんな場合か

A. 簡単に言えば、正しい手順で声を上げた人を、会社が報復してはいけないという制度だ。労働者が勤務先の法令違反行為について、不正な目的ではなく社内窓口・行政機関・報道機関等に通報した場合、解雇や不利益な取り扱いから保護される。中小企業でも、通報を理由にした報復的な取り扱いは避けるべきだと考えておいた方がいい。

Q. 従業員から会社の問題を指摘された時、感情的に反論しそうになる。どうすればいいか

A. まずは「指摘してくれてありがとう」と受け止めること。反論はその後でも遅くない。最初の反応が高圧的だと、以降その社員は何も言わなくなり、会社は問題を把握する機会そのものを失う。


指摘を握りつぶした会社に、未来はあるか

「退職代行モームリ」事件は、退職代行業界の法令順守という文脈で語られることが多い。しかし姫路の中小企業経営者にとって本当に考えるべきなのは、社内の問題を指摘してくれた人を、会社はどう扱うか、という一点だ。指摘を封じ込めれば、その場は収まる。だが失った信頼は、簡単には戻らない。まずは自社の相談窓口が「誰が」「どこに」通報すればいいか、従業員が即答できる状態になっているか、今日一度確かめてみてほしい。

「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

筆者プロフィール

泉 正道(Masamichi Izumi)|姫路の社会保険労務士
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年8月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。

姫路を拠点に、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する伴走支援を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。

姫路の経営者様はもちろん、遠方の方もオンライン対応可能ですので、お気軽にご相談ください。

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