宅配カスハラ4割超と2026年10月義務化 姫路の中小企業が1か月で整えるべき4ステップ

宅配カスハラ4割超と2026年10月義務化 姫路の中小企業が1か月で整えるべき4ステップ

「使えない」「アホ」。宅配の現場で、実際に投げつけられている言葉です。

読売新聞オンラインが2026年8月25日に報じた記事によると、厚生労働省が宅配業界を対象に初めて実施した実態調査で、過去3年間にカスタマーハラスメントを受けた経験があると回答した人は43%にのぼりました。約2万人を対象に2025年9月から10月にかけて行われ、9割を超える人から回答があった調査です。

内訳は電話窓口が74%、対面窓口が64%、配達員が32%。業界を絞らずに行われた2024年の調査では11%でしたから、宅配という現場に絞った途端、数字が大きく跳ね上がったことになります。

この報道が出たタイミングには意味があります。2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になるからです。宅配業界だけの話ではありません。電話窓口も、営業も、工事現場も、飲食店も、同じ義務を負います。残された時間は、およそ1か月です。


目次

  1. 「使えない」「アホ」 宅配の現場で起きていたことと、43%という数字
  2. 2026年10月1日、カスタマーハラスメント対策が全事業主の義務に
  3. 刑事罰はない。ただし「公表」と「過料」という出口がある
  4. 10月までの1か月でやること 中小企業の実務4ステップ
  5. 経営者からよく受ける質問
  6. まとめ 窓口を作る前に決めておくこと

「使えない」「アホ」 宅配の現場で起きていたことと、43%という数字

報道で紹介されていたのは、「使えない」「アホ」といった罵倒、細かい時刻指定、そして「もっと早くできないのか。午前中ギリギリで届けるなんて失礼だ」という言葉でした。

突出しているのは電話窓口の74%です。顔が見えない分だけ言葉が強くなるのは、宅配に限りません。電話受付がある会社なら、この数字はそのまま自社の話です。

記事の中では、大手宅配業者の委託を受けて関東地方で配達をしている40歳代の男性が、暴言を何度か経験したものの業務の委託を受けている立場なので被害を訴えにくいと語っています。面倒な取引先だと思われれば、契約を切られるかもしれない。一人の当事者の言葉です。

被害が起きていないのではなく、経営者のところまで届いていないだけ。相談がないことを「うちは平和だ」と読み違えると、対策が空振りします。


2026年10月1日、カスタマーハラスメント対策が全事業主の義務に

2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が事業主の義務となります。施行日は2026年10月1日。努力義務ではなく措置義務で、企業規模による猶予もありません。従業員数名の会社も、10月1日から同じ土俵に立ちます。

どこからがカスハラか 線を引く3つの要素

厚生労働省の指針は、職場において行われる次の3要素をすべて満たすものと定義しています。

  • ①顧客等の言動であること
  • ②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  • ③労働者の就業環境が害されるものであること

「顧客等」は購入者だけではありません。取引の相手方、駅・病院・学校・公共施設などの利用者、今後利用する可能性がある人も含まれます。電話やSNSなど、インターネット上のものも対象です。

要求の「内容」が問題になるもの

  • 要求に理由がない、商品・サービスと全く関係のない要求
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難な、または不可能な要求
  • 不当な損害賠償要求

要求の「手段や態様」が問題になるもの

  • 暴行・傷害などの身体的な攻撃
  • 脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要などの精神的な攻撃
  • 威圧的な言動、継続的・執拗な言動
  • 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

「職場」は自社の建物の中だけではない

見落とされやすいのが「職場」の範囲です。指針では労働者が業務を遂行する場所とされ、通常就業している場所以外も含まれます。取引先の事務所、打合せに使う飲食店、顧客の自宅も「職場」です。訪問や現場作業が中心の会社ほど注意が必要です。

守られるのは誰か パート・派遣社員・そして業務委託

対象となる「労働者」は正社員だけではありません。パートタイム労働者や契約社員も含め、雇用している労働者はすべて対象です。派遣社員を受け入れている場合は、派遣先の会社も労働者派遣法により雇用する事業主とみなされ、同じ措置が必要になります。相談を理由にその派遣社員の受入れを拒むことも禁止されます。

一方で、押さえておくべき線引きがあります。業務委託を受けている個人事業主は、この措置義務の対象に含まれていません。指針では、雇用する労働者以外の者(他社の労働者や個人事業主等)についても同様の方針を併せて示すこと、相談があれば必要な対応を行うよう努めることが「望ましい」と位置づけられているにとどまります。改正法の附則でも、フリーランスが受けた業務委託の現場で起きる顧客等の言動は、政府が今後検討する課題として積み残されました。

冒頭の配達員は、10月1日時点では法律の直接の保護から外れています。一人親方や業務委託スタッフと現場を回している会社では、線の内側だけを守るのか、契約形態にかかわらず守るのか、経営判断が問われます。

私自身は、当社で業務委託として働いてもらっているスタッフを、雇用しているスタッフと同じ重さで考えています。仕事の結果に責任を取るのは会社だからです。取引先がその人たちにハラスメントや誹謗中傷を行うことは、契約形態にかかわらず許しません。法的義務がなくても、指針が「望ましい」と書いているなら、やる価値はあります。

10項目、ひとつも省けない 事業主が講じる措置

指針では、事業主が必ず講じなければならない措置として次の内容が挙げられています。

  • ①カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
  • ②カスタマーハラスメントの内容およびあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知する
  • ③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
  • ④相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
  • ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する
  • ⑥被害者に対する配慮のための措置を行う
  • ⑦再発防止に向けた措置を講ずる
  • ⑧特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する
  • ⑨相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
  • ⑩相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

②であらかじめ定めておく「対処の内容」としては、管理監督者に対応方針の指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、本社・本部等へ情報共有して指示を仰ぐことが例示されています。共通しているのは、その場にいる従業員の判断に丸投げしないという一点です。周知の相手には管理職も含みます。

また、改正後の法第33条第2項では、労働者が相談したこと等を理由に解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定められました。⑩とあわせ、就業規則や関連規程にも定めを置いておくとよいでしょう。

自社の従業員や役員が他社の労働者に加害した場合、相手方から事実確認等への協力を求められれば、これに応じる努力義務があります。自社は被害者側にも加害者側にもなり得ます。あわせて顧客等の側にも、労働者の就業環境を害さないよう注意を払う努力義務が定められました。店頭掲示や取引先への方針周知の裏づけになります。

なお対策にあたっては、消費者の権利や、障害者差別解消法の合理的配慮の提供義務にも留意が必要です。カスハラ対応を口実に、正当な申し出まで門前払いしてよいわけではありません。


刑事罰はない。ただし「公表」と「過料」という出口がある

守らなかったらどうなるのか。必ず聞かれる質問です。結論から言うと、措置義務違反そのものに懲役や罰金といった刑事罰はありません。ただし、出口は2つあります。

1つは公表です。厚生労働大臣は事業主に助言、指導または勧告をすることができ、措置義務や不利益取扱いの禁止に違反している事業主が勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができます(改正後の法第42条)。

もう1つは過料です。行政から求められた報告をせず、または虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料に処せられます(改正後の法第51条)。刑事罰ではありませんが、行政上の制裁です。

金額より、採用市場への影響のほうが深刻です。社名が公表されれば、その情報は検索結果に残り続けます。人手不足の地域で、応募を考えた人が最初に目にする情報がそれになります。これが実質的なペナルティです。


10月までの1か月でやること 中小企業の実務4ステップ

残り1か月で現実的に整えられる順番で並べます。

ステップ1 方針を1枚の紙にする

社会通念上許容される範囲を超えた言動から従業員を守ること、該当する場合は毅然と対応すること。この2点を社長名で1枚にまとめ、朝礼で読み上げ、休憩室に貼る。就業規則や関連規程にも定めを置けば、①②と⑩の入口を同時に押さえられます。

ステップ2 相談窓口を「人の名前」で決める

「総務まで」ではなく「総務の○○さん、不在時は△△さん」と名前で決めてください。従業員が迷うのは窓口の有無ではなく、誰に言えばいいのかという一点です。社内に置きにくい場合は、社労士など外部の窓口を使う方法もあります。

ステップ3 「一人で対応させない」線引きを決める

何分を超えたら上長に代わるのか、どの言動が出たら打ち切るのか、どの時点で警察に通報するのか。ここを決めていない会社ほど、現場が我慢し続けます。基準を紙に落として初めて、従業員は安心して電話を切れます。

ステップ4 記録の様式を作る

日時、相手、内容、対応者、その後の措置。この5項目だけで構いません。事実関係の確認(⑤)も再発防止(⑦)も、記録がなければ検証できません。法的手続に発展したとき、会社を守るのもこの記録です。


経営者からよく受ける質問

Q1.うちは従業員5人の会社です。10月から本当に義務になりますか。

はい、なります。この措置義務に、企業規模による猶予期間は設けられていません。2020年6月に始まったパワーハラスメント防止措置では、中小企業は2022年3月31日まで努力義務、2022年4月1日から義務化という段階がありましたが、今回はその段階自体がありません。小規模だからこそ、方針1枚と窓口の指名から着手してください。

Q2.クレームとカスタマーハラスメントは、どう線引きすればよいですか。

改善のための指摘や正当な要望は、カスタマーハラスメントではありません。判断の軸は、要求内容が商品・サービスと関係がないか、契約上想定される範囲を著しく超えていないか、手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えていないかの3点です。内容と言い方を分けて評価すると、現場の判断がぶれにくくなります。迷う事案は記録して社内で検討してください。


まとめ 窓口を作る前に決めておくこと

2026年10月1日から、この対策は事業主の義務になります。方針、相談窓口、対処のルール、記録。やることは決まっており、1か月あれば形にできます。

ただ、窓口を作れば相談が来るかというと、来ません。過去に一度でも「上に言ったが、何も変わらなかった」という経験をした従業員は、次から窓口を素通りします。制度を整えること(ハード)と、日頃から話を最後まで聞き、報告してきた人をねぎらうこと(ソフト)。両輪が噛み合って初めて、仕組みは動き出します。

10月1日までに、一つだけ確かめてください。この1年で、顧客対応をめぐって従業員から上がってきた相談は何件あったか。ゼロなら、記録がないのか、相談そのものがないのか。対策づくりは、その切り分けから始まります。

参考記事:宅配業者に暴言「使えない」「アホ」「すぐ持ってこい」、業界4割超がカスハラ経験「被害訴えにくい」(読売新聞オンライン/2026年8月25日配信)