先日、姫路市の隣町にある自動車整備工場にお伺いしたときのことです。事務所でお茶をいただいていると、社長が少し間を置いてから「実は、検査員のAさんが年内で辞めることになりまして」と切り出されました。
この工場は従業員12名ほどで、ここ5年間、入社も退職も1人もありませんでした。Aさんが辞める理由は、親御さんの介護のため、来年の春までに県外の実家へ戻ることになったからです。誰が悪いわけでもありません。ですが、車検の検査を任せていた人が抜けるということは、工場の売上がそのまま止まりかねないということでした。
「どこかにいい人はいませんかね」と頭を下げる社長を見ながら、私は、普段から支援先にお伝えしていることを、改めて書いておこうと思いました。
今日はそれについて、私の持論をお話しします。
目次
目次
- 相談の概要
- 欠員が出てから出す求人は、給料と条件の勝負になる
- 求人を出し続けるから、たった1人に絞った原稿が書ける
- 3年後・5年後の組織図から欲しい人を逆算する
- 会社の強みと弱みを書き出し、弱みは強みに言い換える
- 良いことばかりの求人原稿には、中途半端な人しか集まらない
- よくある質問
- まとめ
相談の概要
5年間誰も辞めなかったのは、社長が社員を大事にしてきた証拠です。私も「この工場は落ち着いていますね」と何度もお話ししてきました。ただ、裏を返せば、この工場は5年間、一度も求人を出していなかったということでもあります。
Aさんは、車検の最後の検査を任されていた人です。整備士は他にもいますが、検査まで任せられる人はAさん1人でした。Aさんが抜けたあと、工場の中で検査ができる人がいなければ、1台ずつ運輸支局へ持ち込むしかなくなり、受けられる車検の台数は一気に減ります。12月の勤務最終日まで、残りはたった3か月です。
社長は、すぐにハローワークと求人サイトに募集を出すと言われました。ところが、5年前に使った求人票を引っぱり出してみると、書いてあるのは「整備士募集、経験者優遇、アットホームな職場です」の数行だけ。社長はそれを見ながら、「給料は、ディーラーさんにはどうやっても勝てませんからね」とため息をつかれました。
この工場にとって救いだったのは、2年前から整備専門学校の実習生を受け入れていたことです。実習に来た学生は、工場の中も、社長の人柄も、1か月かけて自分の目で見ています。ですが、新卒が入ってくるのは早くても来年の4月です。12月に空く穴には間に合いません。
欠員が出てから出す求人は、給料と条件の勝負になる
人が辞めると決まってから慌てて求人を出すのは、当然のことです。社長は、現場を止めないために必死です。ですが、欠員が出てから出す求人には、どうしても避けられない弱点があります。
急いでいるので、「3か月以内に来てくれるなら、誰でもいい」という気持ちになります。誰でもいいと思って書いた原稿は、「経験者優遇」「未経験歓迎」「アットホームな職場」と、誰にでも当てはまる言葉で埋まっていきます。誰にでも当てはまる原稿を読んだ求職者が、何を比べて会社を選ぶかと言えば、給料と休日と家からの距離です。そうなると、求人は給料と条件だけの勝負になり、中小企業は大手にまず勝てません。
仮にその勝負で1人採れたとしても、その人は条件で会社を選んだ人です。条件で選んだ人は、もっと条件の良い会社が見つかれば、また条件で移っていきます。欠員を埋めるための採用は、次の欠員をつくる採用になりやすいのです。
良い人は、会社の都合のいいタイミングで転職を考えてくれるわけではありません。本当に来てほしい人が仕事を探し始めるのは、その人の人生のタイミングです。今は足りているから求人を止める、辞める人が出たから求人を出す、というやり方では、その人が探しているときに、こちらの求人が出ていない可能性のほうが高いのです。
私が「人が足りているときこそ、求人を出し続けてください」とお伝えしているのは、この勝負に最初から乗らないためです。
求人を出し続けるから、たった1人に絞った原稿が書ける
求人を出し続けることの一番の良さは、急がなくていいことです。急がなくていいから、「あなたにしか書いていないよ」と言えるほど、めちゃくちゃ狭い原稿で勝負できます。たとえば整備工場なら、「整備士募集、経験者優遇」ではなく、次のような書き出しになります。
「ディーラーで毎日同じメーカーの車ばかり触っていて、自分の腕が上がっている実感がない20代後半の整備士さんへ。うちには、軽トラックから20年前の輸入車まで、地元のお客さまの車がそのまま入ってきます。1台を受付から納車まで任せるので、3年あれば、どんな車を持ち込まれても慌てない整備士になれます」
この原稿に応募してくる人は、多くありません。1件も来ない月もあるでしょう。それでいいのです。応募してきた人は、原稿を読んで「これは自分のことだ」と思って来ているので、面接で話が噛み合いますし、入社してから「思っていたのと違った」と言われることも少なくなります。急いでいるときに、ここまで狭い原稿を書く勇気は出ません。出し続けているから書けるのです。
3年後・5年後の組織図から欲しい人を逆算する
ただし、狭い原稿は、準備なしには書けません。「この人だけに来てほしい」と言い切るには、その「この人」が誰なのかを、社長が先に決めておく必要があります。そのために私が支援先で必ずお願いしているのが、3年後と5年後の組織図を書くことです。
整備工場の例で言えば、今の社長が58歳なら、5年後は63歳です。そのとき工場長は誰なのか。検査ができる人は何人いるべきなのか。今いる12名がそれぞれ5年後に何歳になり、どの役割を担っているのか。紙に名前を書き込んでいくと、必ず空いている箱が出てきます。その空いている箱が、これから採るべき人です。
空いている箱が見えると、「いつまでに、どんな人が、何人要るのか」がはっきりします。検査ができる人が2人いる体制を3年後までにつくると決めていれば、Aさんが辞めると聞いた日に慌てる必要はなかったかもしれません。組織図は、欠員が出てから見るものではなく、求人を出し続けるための設計図です。冒頭の工場が2年前から整備専門学校の実習生を受け入れてきたのも、すぐには実らない種まきという意味では、求人を出し続けることと同じです。12月の穴には間に合いませんが、来年4月の新卒採用では、その種まきが必ず効いてきます。
組織図のような仕組みの部分を、私はハードと呼んでいます。組織図がないまま求人を出し続けても、毎回「誰でもいい」原稿に戻ってしまいます。
会社の強みと弱みを書き出し、弱みは強みに言い換える
欲しい人が決まったら、次は「その人から見て、うちの会社はどう見えるか」を考えます。ここで必ず、会社の強みと弱みを両方書き出してもらいます。強みだけを書き出すと、どの会社も「人間関係が良い」「やりがいがある」で終わってしまうからです。
冒頭の整備工場で弱みを書き出すと、「給料はディーラーより低い」「設備が新しくない」「人数が少ないので、1人が休むと忙しい」といった言葉が並びます。社長としては、できれば隠しておきたいことばかりです。ですが、この弱みは、見方を変えると強みにもなります。人数が少ないから、入って半年の社員でも社長に直接「この工具を買ってほしい」と言える。設備が新しくないから、古い車の整備ができる腕が身につく。こうした言い換えを、リフレーミングと言います。
大事なのは、リフレーミングは弱みを隠すことではないという点です。「給料はディーラーより低いです」と正直に書いたうえで、「その代わり、3年で検査員の資格を取れるよう、講習の費用と勉強の時間は会社が持ちます」と書く。弱みから目をそらさずに、だから何をしているのかまで書くことで、はじめて弱みが強みとして伝わります。
良いことばかりの求人原稿には、中途半端な人しか集まらない
求人原稿で一番大事なのは、とにかく「うちはこうですよ」と、本当のことを書くことです。良いことばかり書いた原稿には、中途半端な人しか集まりません。これは、私がこれまで支援先の求人を見てきて、一番強く感じていることです。
「アットホーム」「風通しが良い」「やりがいがある」は、求職者から見れば、どの会社の求人にも書いてある言葉です。どの会社にも書いてある言葉を読んでも、求職者は何も感じません。感じないまま、給料と休日を比べて応募してきます。そして入社してから、「アットホームって書いてあったのに、社長は口数が少ないし、3月は毎日残業だった」と感じて、辞めていきます。
反対に、「3月は車検が集中するので、残業が月30時間ほどになります」「社長は口下手ですが、工具の相談には必ず乗ります」と書いてある原稿を読んだ人は、どう感じるでしょうか。少なくとも、「この会社は、入ったあとも嘘をつかないだろう」と感じるはずです。その安心感で応募してきた人は、3月の残業を知ったうえで入ってくるので、「聞いていなかった」と言って辞めることはまずありません。
原稿に本当のことを書くのがハードだとすれば、面接で社長がそれを自分の言葉で話すのがソフトです。原稿には正直に書いてあるのに、面接で社長が「うちは残業なんてほとんどないよ」と言ってしまえば、全部台無しです。原稿と社長の言葉が一致していて、はじめて求職者は「ここで働く自分」を想像できます。
よくある質問
Q. 人が足りているときに求人を出して応募が来たら、採用枠がないので断ることになりませんか?
A. 3年後・5年後の組織図で空いている箱に当てはまる人なら、採用を前倒しすることを考えてください。本当に欲しい人には、こちらの都合のいいタイミングでは二度と会えないかもしれません。当てはまらない人であれば、理由をきちんと伝えて丁寧にお断りし、「また機会があればご連絡してもよいですか」とつながりを残しておきます。
Q. 求人を1年中出し続けると、掲載費用がかかりすぎませんか?
A. ハローワークの求人は無料で出せますし、自社のホームページに採用ページを作っておけば、毎月の掲載料はかかりません。有料の求人サイトは、組織図で決めた「この時期までに採りたい」という時期に絞って使えば十分です。出し続けるのは広告ではなく、本当のことを書いた原稿だと考えてください。
Q. 求人原稿に会社の弱みを書くと、応募が減りませんか?
A. 減ります。ですが、減るのは、弱みを知ったら入社後に辞めていたはずの人です。応募の数より、入社後に辞めない人が来ることのほうが大事です。弱みを書くときは、必ず「その代わり、会社は何をしているのか」を一緒に書いてください。
まとめ
冒頭の整備工場は、5年間誰も辞めなかった、とても良い会社です。それでも、検査員が1人辞めるというだけで、売上が止まりかねない状況になりました。安定しているときほど、人は採用のことを考えなくなります。ですが、人が辞めるのは、会社が悪いときだけではありません。介護、転居、結婚と、社員の人生のタイミングで、ある日突然やってきます。
だからこそ、求人は欠員が出てから出すのではなく、人が足りているときから出し続けてください。3年後・5年後の組織図から本当に欲しい人を決め、強みも弱みも含めて本当のことを書いた、「あなたにだけ来てほしい」と言える原稿で待つ。そういう会社にこそ、良い人は集まり続けると私は考えています。
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