先月、ある顧問先から、給与計算に関する相談がありました。私はすぐに「勤怠管理の問題点」に気づきました。従業員は24名で、全員がパートさんです。勤怠システムの設定画面を一緒に見ていると、退勤の時刻だけ「15分単位で切り捨て」になっていました。17時14分に打刻しても、17時として計算される設定です。この会社は店舗を運営していて、17時に閉店し、パートさん全員が17時に終業します。
社長さんに理由をうかがうと、「残業はほとんどないし、終業のあとから打刻するまでは、パートさん同士で雑談しているだけです。労基署(労働基準監督署)から何か言われたら、そのときに直せばいいと思っています」とのことでした。雑談だけなら、その時間の賃金は払わなくてよいというのが原則です。ただし、打刻の記録が残っている以上、本当に雑談だけだったのかを、会社が説明できる状態にしておく必要があります。そのうえで言うと、「言われたら直す」は、会社にとって損な順番です。
今日は、なぜ「言われたら直す」が損な順番なのか、私の持論をお話しします。
目次
目次
- 相談の概要
- 労働時間の1日ごとの15分切り捨ては、労働基準法違反
- 労働時間の切り捨てが認められるのは、残業などの1か月の合計だけ
- 15分切り捨てで、会社は長い目で得をしていない
- 申告があると、過去にさかのぼって精算を求められることがある
- 終業から打刻までの時間に賃金を払うかは、何をしていたかで決まる
- 1分単位に直す3つの手順
- よくある質問
- まとめ
相談の概要
この会社の勤怠システムは、出勤の時刻はそのまま記録し、退勤の時刻だけを15分単位で切り捨てる設定でした。17時14分は17時、17時29分は17時15分になります。切り捨てられる時間は、毎回0分から14分のどこかです。
パートさんは24名で、1人あたりの出勤は月に平均15日、時給は1,200円です。切り捨てられる時間が0分から14分まで均等に出ると仮定すると、1日の平均は約7分になります。7分に15日を掛けると月に105分、1人あたり月2,100円です。24名分で、月に50,400円、1年で604,800円、3年で約181万円になります。切り捨てられた時間がすべて仕事の時間で、割増がつかない(時給どおりに払う)時間だったと仮定し、24名が3年間同じ条件で働いたとした概算です。遅延損害金などは含みません。
社長さんは、月に5万円台なら大きな問題ではない、というお考えでした。気にされていたのは、金額よりパートさんとの関係です。「1分単位にしたら、『終わったらすぐ打刻して帰ってね』と、毎日パートさんに注意する側になります。それが嫌なんです」。
労働時間の1日ごとの15分切り捨ては、労働基準法違反
結論から言うと、1日ごとに15分に満たない労働時間を切り捨てて、その分の賃金を払わないことは、労働基準法違反です。賃金は働いた分を全額払わなければならない、という第24条の原則に反するためです。
これは私の解釈ではなく、厚生労働省が事業主向けのリーフレット(令和6年9月版)に書いていることです。そこには、勤怠管理システムの端数処理機能で、1日の時間外労働のうち15分に満たない時間を一律に切り捨て、その分の残業代を払っていない、という例が違反例として載っています。この会社の設定は、切り捨てる仕組みの点で、この違反例とほぼ同じです。
「15分までなら大丈夫と聞いた」と話す経営者の方もいますが、厚生労働省が示している、労働時間の切り捨てが認められる例外は、次の章の、1か月の時間外・休日・深夜の合計を丸める場合だけです。
終業が17時で、17時14分に打刻して17時として計算される場合、切り捨てられる14分間は、どういう時間でしょうか。打刻の記録から、その人が打刻の時刻まで会社にいたことは分かります。ですが、仕事をしていたのか、私的に過ごしていたのかは、記録だけでは分かりません。仕事をしていた時間なら払う必要があり、仕事から離れた私的な時間なら払う必要はありません。分かれ目は、第6章で説明します。
労働時間の切り捨てが認められるのは、残業などの1か月の合計だけ
端数処理が一切認められないわけではありません。昭和63年3月14日の基発第150号(当時の労働省の通達)は、割増賃金の計算に限って、事務を簡単にするための例外を次の3つ認めています。
- 1か月の時間外労働、休日労働、深夜業のそれぞれの時間数の合計に1時間未満の端数があるとき、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる
- 1時間あたりの賃金額や割増賃金額に円未満の端数が生じたとき、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる
- 1か月の割増賃金の総額に1円未満の端数が含まれるときも、2つ目と同じように処理する
このうち労働時間を丸められるのは、1つ目だけです。対象は時間外・休日・深夜の1か月の合計に限られ、通常の労働時間には使えません。しかも切り捨てるのは30分未満だけで、30分以上は1時間に切り上げます。1日ごとに15分未満を切り捨てる方法とは、別の話です。
15分切り捨てで、会社は長い目で得をしていない
ここからは、会社の損得を考えます。第1章の月50,400円は、切り捨てた時間がすべて仕事の時間だった場合に、帳簿の上で浮く金額です。15分単位で切り捨てれば、毎日数分ぶんの人件費が浮くと考える経営者は多いです。ところが、現場で起きることは少し違います。パートさんの中に、いちばん得をする打刻の時刻を見つける人が出てくることがあります。
17時が終業で、15分未満は切り捨てだとします。17時10分に片付けが終わった人は、そのまま打刻すると、10分ぶんの賃金がつきません。でも、あと5分待てば17時15分になり、15分ぶんの賃金がつくと気づく人が出ます。すると、水を飲みに行ったり、棚を整えたり、レジの前で立ち話をしたりして、17時15分を過ぎてから打刻するようになります。会社が浮かせたはずの10分は浮かなくなり、働いていない5分を余計に払うことになります。
これが毎日、15分の区切りごとに繰り返されると、社長さんが見ていない時間に、時間をつぶす習慣が根づくことがあります。パートさんの側にも、「この会社は、こちらの時間を削っている」という気持ちが残ります。
切り捨てた時間が仕事の時間なら、未払いで違法です。あとから3年分をまとめて請求されることがあります。仕事の時間でなければ、もともと払う義務のない時間なので、切り捨てても節約にはなりません。仕事の時間なら、請求された時点で浮いたお金は消えます。仕事の時間でなければ、待ち時間のような別の損が出ます。どちらの場合も、15分切り捨てで会社が長い目で得をすることはありません。
申告があると、過去にさかのぼって精算を求められることがある
労基署の調査には、定期的に行う調査(定期監督)と、従業員の申告をきっかけにした調査(申告監督)などがあります。どちらの調査でも、労働時間の記録と賃金の支払状況が確認されることがあります。定期的な調査で指摘されずに終わっても、適法になったわけではありません。
退職した従業員などの申告があった調査では、タイムカードなどの勤怠記録と賃金台帳を突き合わせて、不足分を1分単位で計算し直し、同じ状況の従業員全員について、過去の分も払うよう是正勧告を受けることがあります。さかのぼる期間は、事案ごとに判断されます。
賃金の請求権の時効は、本来は5年ですが、当分の間の措置として3年です(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。申告があった場合、時効の範囲である最大3年分を目安に、計算し直しを求められることがあります。この会社の概算では、24名が3年間同じ条件で働いたとして約181万円です。切り捨てた時間がすべて仕事の時間だった場合の金額で、遅延損害金などは含みません。
申告のきっかけは、会社が選べません。この会社の社長さんは、「うちは今まで、従業員とのもめごとが一度もない」と話していました。もめごとがないのは、辞めていく人が本音を言わずに去っているだけかもしれません。「言われたら直す」の怖さは、労基署の是正勧告や従業員の請求の対象になりうる3年分が、いつまでも満額で残り続けることです。
先に直せば、新しい未払いが止まります。直す前の分は、時効にかかっていない範囲だけが残り、古い月から順に請求できなくなっていきます。ただし、残っている分は、直したあとも払う必要があります。直さなければ、古い月が時効にかかっても新しい月が加わるので、是正勧告や請求の対象になりうる3年分は満額のまま残り続けます。
終業から打刻までの時間に賃金を払うかは、何をしていたかで決まる
「雑談しているだけ」の時間に賃金を払うかどうかは、何をしていたかで決まります。労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。明確な指示がなくても、会社が事実上やらせている作業や、すぐ対応できるよう待機している時間は含まれ、仕事から離れた私的な時間は含まれません。
厚生労働省は、次のような時間は労働時間にあたると示しています。
- 会社に義務づけられた服装への着替えなど、仕事に必要な準備を事業場の中で行った時間
- 仕事が終わったあとの後片付け(清掃など)を、事業場の中で行った時間
- 会社から指示があればすぐ仕事に戻ることを求められ、仕事から離れられない状態で待っている時間
店舗の仕事なら、売り場の清掃、値引きシールの貼り替え、レジの締め、次のシフトへの引き継ぎが、終業のあとに回っていないかが分かれ目です。閉店後の店舗に1日立ち会って、終業時刻から打刻までの時間を実際に見てください。見ないまま「雑談だけ」と決めると、払うべき時間まで切り捨てることになりかねません。
1分単位に直す3つの手順
直す手順は、次の3つです。1つ目と2つ目は設定とルールというハード、3つ目は現場との対話というソフトで、この問題はどちらかだけでは解決しません。
- 勤怠システムの端数処理を、1分単位に設定します。設定画面の「丸め」や「端数処理」の項目で、出勤・退勤・休憩のすべてを1分単位にします。システムとは別に、表計算ソフトなどで集計し直している会社は、そちらの丸めも直します。
- 「仕事は終業時刻までに終えて、終わったらすぐ打刻して帰る」というルールを決めます。着替え、片付け、引き継ぎは終業時刻までに済ませ、終わらずに延びた作業は、その分を残業として打刻して賃金を払います。賃金規程には、労働時間は1分単位で計算すると書き、新しい施行日を明記します。従業員に周知し、常時10人以上の従業員を使う会社は、過半数代表者の意見を聴いて労基署に届け出ます。
- 時間内に仕事が終わる組み方を、現場と話し合って作ります。「終わったらすぐ打刻して帰ってください」と言うだけでは、パートさんには叱られたように聞こえます。閉店作業が毎日のように押すなら、作業の順番か人数を見直す話です。
社長さんが毎日注意する側にならないために必要なのは、3つ目です。時間内に終わる組み方ができていれば、注意しなくても、終わったらすぐ打刻して帰る形になりやすくなります。もちろん、1分単位にすると、システム上は打刻した時刻までが賃金の計算に入ります。仕事から離れた時間まで払うことにならないよう、2つ目のルールも要ります。ただ、最初に伝えるのは打刻を厳しくする話ではありません。働いた分がそのまま賃金になる、という話です。
よくある質問
Q. 終業のあと打刻するまでの雑談の時間にも、賃金を払う必要がありますか?
A. 仕事から離れた私的な雑談だけだったと言い切れるなら、払う必要はありません。ただし、その時間に着替え、片付け、引き継ぎ、すぐ動ける状態での待機が含まれていれば、労働時間です。終業から打刻までの時間は、会社にいたことが記録に残るので労働時間とみられやすく、私的な時間だったと説明できる根拠が必要です。
Q. 15分単位で「切り上げる」設定なら、問題ありませんか?
A. 実際に働いた時間より短くならない切り上げなら、違法ではありません。厚生労働省のリーフレットも、1日の労働時間を切り上げてその分の賃金を払うことは問題ないとしています。具体的には、出勤は実際より早い時刻に、退勤は実際より遅い時刻にそろえる場合です。ただし、「あと1分待てば賃金が15分ぶん増える」という動きは、切り上げでも起きます。私は、1分単位がいちばんシンプルで、会社も従業員も納得しやすいと考えています。
Q. 1分単位に直したら、過去の分も払う必要がありますか?
A. 切り捨てた時間が仕事の時間だった場合、その未払いは、直した時点で生まれるのではなく、働いた月の賃金の支払日に、すでに生じています。直しても支払い義務は消えません。時効にかかっていない分は、払う必要があります。そのうえで、人数と金額を試算し、精算の方法や時期をパートさんと話し合って決めます。
まとめ
この会社の社長さんには、まず1店舗の閉店後に立ち会って、終業時刻から打刻までの時間を一緒に見ることをお伝えしました。雑談だけなのか、片付けや引き継ぎが混ざっているのかが分かれば、さかのぼって精算する範囲も、パートさんへの伝え方も決まります。
労働時間を1日ごとに15分単位で切り捨てることは、法律で認められておらず、会社も長い目で得をしていません。まずは、勤怠システムの設定画面を開いて、退勤の時刻がどう丸められているかを確かめてみてください。直すなら、労基署に言われたあとより、次のシフト表を作る前のほうが、新しい未払いを早く止められます。社長さんが気にしていた「毎日注意する側」にならないために、打刻を厳しくするのではなく、時間内に終わる仕事の組み方を一緒に作ります。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る特定社労士が、一緒に整理します。

