人口10万人未満の地方都市にある、従業員50名以下の中小企業では、
「36協定は毎年出しているから大丈夫」
「書式どおりに作っているから問題ない」
と考えられがちです。
しかし実務の現場では、36協定“そのもの”よりも、周辺の手続きミスが原因でトラブルになるケースが非常に多く見られます。
特に多いのが、過半数代表者の選出を誤ったことによるトラブルです。
36協定は、内容だけでなく「誰と、どうやって結んだか」まで含めてチェックされます。
形式的に済ませていると、後から無効扱いされるリスクもあります。
目次
1. 36協定トラブルは「内容」より「手続き」で起きる
中小企業の36協定トラブルは、
- 残業時間の上限を超えていた
- 特別条項の運用が雑だった
といった分かりやすい違反よりも、
「そもそも協定が有効に成立していなかった」
というケースで問題になることが多いのが実情です。
その最大の原因が、過半数代表者の選出方法です。
2. 過半数代表者を間違えると、36協定は無効になる
36協定は、
「労働者の過半数で組織する労働組合」または
「労働者の過半数を代表する者」
との間で締結する必要があります。
ところが、従業員50名以下の企業では労働組合がないケースがほとんどです。
そのため、多くの企業が「過半数代表者」を選ぶことになります。
ここで次のような対応をしてしまうと、アウトです。
- 社長が「〇〇さんでいいよね」と指名する
- 管理職・役員クラスを代表者にしている
- 毎年同じ人を何となく代表者にしている
- 選出した記録が一切残っていない
会社が指名するのは絶対にNGです。
この時点で、36協定は「適法に結ばれていない」と判断される可能性があります。
3. なぜ「会社が指名した代表者」は認められないのか
理由はシンプルです。
36協定は、労働者側の意思を反映させるための制度だからです。
会社が代表者を指名してしまうと、
- 本当に労働者の意見を代表しているのか
- 会社の意向が強く反映されていないか
という点で、制度の前提が崩れてしまいます。
たとえ本人が「別に構いません」と言っていたとしても、
選出プロセスが民主的でなければ無効と判断されるリスクがあります。
4. 正しい過半数代表者の選び方(民主的に行う)
過半数代表者の選出は、難しく考える必要はありません。
重要なのは、「民主的に」「会社が関与しすぎない形で」行うことです。
例えば、次のような流れで十分です。
- 過半数代表者を選ぶ目的を説明する
- 立候補、または推薦を募る
- 投票・挙手・書面などで過半数の支持を確認する
- 結果を簡単に記録として残す
完璧な選挙のようにする必要はありませんが、
「従業員が主体的に選んだ」ことが分かる形が不可欠です。
5. 「毎年同じ人だから大丈夫」は危険
中小企業でよくあるのが、
「去年と同じ人だから、今年もそのままでいい」
という対応です。
しかし、次のような点を確認せずに続けるのは危険です。
- 今も過半数代表者として適任か
- 管理監督者に該当していないか
- 本人が理解した上で引き受けているか
形式的に名前だけ使っていると、
監督署の調査や労働者からの指摘で問題になることがあります。
6. 過半数代表者トラブルが引き起こす現実的なリスク
過半数代表者の選出を誤ると、次のようなリスクが連鎖的に発生します。
- 36協定そのものが無効とされる
- 残業がすべて違法扱いになる
- 未払い残業代を請求される
- 是正勧告・指導の対象になる
- 社内の不信感が高まる
特に少人数企業では、ひとつの指摘が経営に直結するダメージになりやすい点に注意が必要です。
まとめ:36協定は「誰と、どう結んだか」が最重要
36協定を巡るトラブルは、
「残業時間が多いか少ないか」以前に、
手続きが正しく行われているかどうかで判断されます。
過半数代表者の選出は、
民主的に行う
会社が指名しない
記録を残す
この3点が最低限のルールです。
地方の中小企業ほど、「これくらい大丈夫だろう」という感覚運用になりやすいですが、
36協定は一度つまずくと、取り返しがつかないトラブルに発展する分野でもあります。
形式だけ整えるのではなく、
中身とプロセスを正しく理解して運用することが、
36協定トラブルを防ぐ最大のポイントです。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

