人口10万人未満の地方都市にある、従業員50名以下の中小企業で、ここ数年とくに増えているのが、
「残業代は給料に含めて払っているつもりだったのに、未払い残業代を請求された」というトラブルです。
しかも厄介なのは、顧問社労士がいる会社でも普通に起きているという点です。
「専門家が見ているから大丈夫」と思っていたところに、突然、弁護士名で内容証明が届く。
これは決して珍しい話ではありません。
目次
1. 小規模企業で多い「残業代込み」の典型的な勘違い
未払い残業代トラブルの多くは、悪意ではなく勘違いから始まります。
- 固定残業代を入れているから問題ないと思っていた
- 役職者だから残業代はいらないと思っていた
- 基本給を高めに設定しているから残業代は含まれているつもりだった
- 社内では「残業代込み」という認識で運用していた
しかし、これらは法的にはほとんど通用しません。
2. 「固定残業代=払っている」は大きな誤解
固定残業代(みなし残業代)は、条件を満たしていないと無効になります。
小規模企業で特に多いNGパターンは次の通りです。
- 何時間分の残業代か明示されていない
- 基本給と固定残業代の区別がついていない
- 就業規則・雇用契約書に根拠がない
- 実際の残業時間が固定時間を超えているのに精算していない
この状態では、
「固定残業代として払っていたつもりの金額」は、
単なる基本給の一部として扱われる可能性が高いのです。
3. 顧問社労士がいてもトラブルが起きる理由
「顧問社労士がいるのに、なぜ?」と感じる経営者は少なくありません。
しかし、ここにも小規模企業ならではの落とし穴があります。
① 社労士が“実態”まで把握していない
顧問契約があっても、
- 実際の残業時間
- 現場の運用
- 管理職の働き方
まで細かく把握していないケースは非常に多いです。
書類上は整っていても、実態がズレていればアウトになります。
② 「昔からこうしている」が修正されない
小規模企業では、
「以前からこの給与体系でやってきた」
という理由で、制度を見直さないまま年月が経過しがちです。
法改正や判例の変化に対応しきれていないケースも少なくありません。
4. 弁護士から突然届く「未払い残業代請求」の現実
未払い残業代請求は、ある日突然やってきます。
- 退職後に弁護士へ相談
- タイムカード・スマホ記録・メール履歴を証拠として提出
- 過去2〜3年分の残業代を一括請求
請求額が、
- 1人で数百万円
- 複数人で1,000万円超
になるケースも珍しくありません。
ここで会社側が
「残業代は給料に含めていた」
「本人も納得していた」
と主張しても、証拠がなければほぼ通りません。
5. 特に危険な「管理職だから残業代不要」という思い込み
小規模企業では、役職をつけただけで
「管理職=残業代なし」
と扱っているケースが非常に多く見られます。
しかし、いわゆる「管理監督者」に該当するハードルはかなり高く、
- 権限が限定的
- 出退勤が一般社員と同じ
- 給与がそれほど高くない
といった場合、管理職でも残業代が必要と判断されやすくなります。
6. 小規模企業が今すぐ確認すべきポイント
① 固定残業代の設計が明確か
- 何時間分か明示されているか
- 基本給と分けて記載されているか
- 超過分の支払いルールがあるか
② 実際の労働時間を把握しているか
「管理していない」は通用しません。
実態があれば労働時間として扱われます。
③ 給与体系と現場運用が一致しているか
書類上はOKでも、運用がズレていればリスクになります。
まとめ:「払っているつもり」が一番危ない
未払い残業代トラブルの本質は、
「払っていない」ことよりも「払っているつもりだった」ことにあります。
固定残業代、管理職扱い、基本給の設計。
これらは一度ズレると、過去にさかのぼって大きな負担になります。
顧問社労士がいても、
実態と制度が一致していなければリスクは消えません。
小規模企業ほど、
「今までは大丈夫だった」
「問題になっていない」
という感覚が最大の落とし穴になります。
残業代は、労務の中でも特に“後から高くつく”分野。
早めに現状を確認し、勘違いを正しておくことが、最大のリスク対策です。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

