姫路の特定社労士が解説、残業が増えているのに成果が出ない社員への向き合い方

姫路の特定社労士が解説、残業が増えているのに成果が出ない社員への向き合い方

先日、あるクライアントの社長からこんな相談を受けました。

「残業が増えているんですが、業務量が増えているわけでも、仕事の質が上がっているわけでもないんです。ただ、時間だけが長い」

早めに切り上げるよう伝えても、なかなか改善されない。単純に「残業代がかさむ」という以上に、「なぜこの状態が続くのか」がわからず、もどかしさを感じている様子でした。

特にお盆前後など、周囲が繁忙期を終えて落ち着いている時期にもかかわらず、その社員だけ残業が続くという状況は、経営者にとって不可解に映るものです。「業務量が多いわけでもないのに、なぜ」という疑問が拭えないまま、日々が過ぎていく。このような相談は、実は中小企業の現場でとてもよくあるパターンです。


目次

  1. 「残業時間」ではなく「時間あたりの成果」を見る
  2. 事前申請制が、残業の中身を可視化する
  3. 標準時間の見える化が、評価の物差しになる
  4. よくある質問

「残業時間」ではなく「時間あたりの成果」を見る

残業時間だけを見ていると、本質を見誤ることがあります。見るべきは「時間」ではなく「時間あたりの成果」です。同じ業務を1時間で終える人もいれば、1時間半かけてしまう人もいます。この差が積み重なると、残業時間の差として表れてきます。

ただし、ここで気をつけたいのは、「サボっている」と決めつけないことです。本人が一生懸命やっているにもかかわらず、能力的な要因や経験不足で時間がかかっているだけ、というケースも少なくありません。経営者からすると見分けがつきにくいポイントですが、対応の仕方はまったく変わってきます。

残業が増えているという状態は、実は本人からの「サイン」であることが多いのです。業務量が処理しきれていない、モチベーションが下がっている、あるいは職場での居心地の良さを別の形で確保しようとしている——理由は人によって様々ですが、いずれにしても「時間だけが長い」という状態を放置すると、労務コストの増加だけでなく、本人の状態の悪化にもつながりかねません。

経営者としては、直接「残業が多いのはなぜか」と問い詰めたくなる場面かもしれません。しかし、正面から問い詰めると、本人は防御的になり、かえって本当の理由が見えなくなってしまいます。感情的な指摘ではなく、事実に基づいた仕組みで状況を把握することが、遠回りに見えて一番確実な方法です。

残業代というコストの面だけで語られがちなテーマですが、根本にあるのは「この状態を放置すると、本人のためにも会社のためにもならない」という視点です。処理しきれない仕事を一人で抱え込ませたまま時間だけが経過していく状態は、本人の疲弊にもつながりますし、周囲から見ても「あの人はいつも遅くまで残っている」という印象が固定化してしまいます。早い段階で仕組みを通じて事実を把握し、必要であれば業務量の調整に動くことが、結果的に双方にとって望ましい着地点になります。


事前申請制が、残業の中身を可視化する

対応策としてまず検討したいのが、残業の事前申請制です。無制限に残業ができる状態から、「なぜ残業が必要なのか」を本人に一度言語化してもらう仕組みに変えるだけで、本人自身が自分の仕事の進め方を振り返るきっかけになります。

事前申請制を導入する際のポイントは、罰則的な運用にしないことです。目的はあくまで「見える化」であり、「残業を禁止すること」ではありません。申請の理由欄に、その日何にどれくらい時間がかかりそうかを簡単に書いてもらうだけでも、本人が自分の業務を客観視するきっかけになります。

  • 今日、何の業務にどれくらい時間がかかりそうか、事前に見積もってもらう
  • 実際にかかった時間と見積もりのズレを、本人と一緒に確認する
  • ズレが大きい場合は、業務の進め方自体に課題がないかを一緒に考える

こうした小さな積み重ねが、残業の「常態化」を防ぐ第一歩になります。

また、事前申請制を導入する過程で、経営者自身の仕事の振り方を見直すきっかけにもなります。「先生のタイミングでどかどか仕事を振ってくる」と感じている従業員がいる場合、業務の依頼が一箇所に集中していないか、締め切りの伝え方が急すぎないかを、経営者自身が振り返る機会にもなるのです。


標準時間の見える化が、評価の物差しになる

あわせて有効なのが、業務ごとの標準的な所要時間を見える化しておくことです。「この仕事は本来どれくらいで終わるはずか」という基準がなければ、本人も、上司も、状況を正しく評価できません。

姫路のような中小企業の現場では、標準時間を定めるところまで手が回っていないケースが多いのが実情です。しかし、この基準がないまま「もっと早くやって」と伝えても、本人には具体的に何を改善すればいいのかが伝わりません。「標準的な時間はこれくらい」という共通の物差しを示すことが、感覚的な指摘を、具体的な改善のヒントに変えてくれます。

標準時間は、完璧な精度で作る必要はありません。まずは「だいたいこれくらい」という感覚を、経営者の頭の中から書面に落とし込むだけで十分です。それが、評価の透明性にもつながっていきます。

また、標準時間が見える化されると、経営者自身にとってもメリットがあります。従業員ごとの業務スピードの差が明確になり、「誰にどの仕事を任せるべきか」の判断がしやすくなります。特に、経験の浅いスタッフと、経験豊富なスタッフが混在している職場では、この見える化が業務の割り振りそのものを見直すきっかけにもなります。

標準時間を作る際は、最も経験のある社員の時間を基準にしすぎないことも大切です。ベテランのスピード感を新人に求めてしまうと、かえって現実離れした基準になり、誰も達成できないものになってしまいます。「まだ経験の浅い人でも、これくらいでできるようになってほしい」という、少し余裕を持った水準から始めるのが現実的です。

標準時間の設定は、一度作って終わりではありません。業務のやり方が変わったり、新しいツールを導入したりすれば、基準そのものを見直す必要があります。定期的に実績と照らし合わせながら、少しずつ精度を上げていく意識を持つとよいでしょう。

よくある質問

Q. 残業が多い社員に、直接「サボっているのでは」と聞いてもいいですか?

A. おすすめしません。本人が意図的にそうしているケースもゼロではありませんが、多くの場合、能力的な要因や業務の進め方の課題が背景にあります。まずは事前申請制や標準時間の見える化を通じて、事実ベースで状況を把握することから始めてください。決めつけによる指摘は、かえって関係を悪化させるリスクがあります。

Q. 残業の事前申請制を導入すると、従業員から反発されませんか?

A. 「管理されている」と感じさせない伝え方が重要です。目的は罰則ではなく、業務の見える化であることを丁寧に説明し、本人の負担軽減にもつながる仕組みであることを伝えてください。特に、標準時間とのズレが大きい業務については、本人だけの責任にせず、業務の割り振りや進め方自体を一緒に見直す姿勢を示すことが大切です。

Q. 事前申請制と就業規則の関係で、気をつけることはありますか?

A. 残業を事前許可制にすること自体は、就業規則や労使協定の内容と矛盾しない形で運用する必要があります。特に、36協定で定めた上限時間との整合性は必ず確認してください。制度を作る前に、現在の就業規則の記載内容を確認し、必要であれば整備し直すことをおすすめします。


まとめ

残業が増えているというサインは、本人のモチベーションや、組織の仕組みそのものに何かが起きている合図であることが多いものです。時間の長さだけを問題視するのではなく、事前申請制や標準時間の見える化を通じて、状況を客観的に把握することが解決の第一歩になります。

こうした仕組みは、一度作れば終わりではなく、運用しながら少しずつ調整していくものです。労務管理の視点と、本人への向き合い方の両方が噛み合って初めて、無理のない働き方へと変わっていきます。

中小企業では、こうした仕組みづくりに割ける時間や人手が限られていることも珍しくありません。だからこそ、完璧な制度を一度に作ろうとせず、まずは事前申請の様式ひとつ、標準時間の目安ひとつから始めてみることをおすすめします。小さく始めて、実際の運用を見ながら育てていくくらいの気持ちで十分です。

「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。