「残業代が支給されていない」と言われる前に——姫路の中小企業が整えるべき労働時間管理の基本

「残業代が支給されていない」と言われる前に——姫路の中小企業が整えるべき労働時間管理の基本




「残業代が支給されていません」「残業代をもらっていないんですが」
この一言が、ある日突然社員から出てくることがあります。

「そんなはずはない」と思う経営者がほとんどです。
でも、問題は「支給していない」ことよりも、「支給した証拠がない」「計算の根拠がない」ことにあります。

労働時間の管理は、採用や育成と並んで、中小企業の経営における「見えにくいリスク」のひとつです。
大手企業のように人事部があるわけではない。
でも、法律は会社の規模に関係なく適用されます。

今回は、労務トラブルになる前に整えておくべき労働時間管理の基本を、姫路の中小企業の現場に即してお伝えします。


目次

目次

  1. 「残業代トラブル」はなぜ起きるのか——よくある7つのパターン
  2. 「うちは大丈夫」は通用しない——実際に起きたケース
  3. まず確認:労働時間の「記録」はありますか?
  4. よくある誤解①——「みなし残業」を入れれば何時間でも大丈夫
  5. よくある誤解②——「休憩中は給料が出なくていい」は本当か
  6. 今すぐできる3つの整備ポイント
  7. よくある質問
  8. まとめ

「残業代トラブル」はなぜ起きるのか——よくある7つのパターン

残業代をめぐるトラブル——いわゆる「未払い残業代問題」——には、典型的なパターンがあります。
多くの場合、悪意はありません。知らなかったか、曖昧にしていたかのどちらかです。

パターン① 「申告制」の残業管理になっている

「残業する場合は事前申請してください」というルールを設けている会社は多いです。
問題は、申請せずに残業した場合に「その時間を会社が把握していない」ことです。
申請がなくても、会社が知り得る状況で働いていれば、残業代の支払い義務は発生します。
「申請しなかったから支払わなくていい」は、法的には通りません。

パターン② 「タイムカードを切ってから仕事している」

退社時刻のタイムカードを打刻した後も、実際には仕事をしているケースです。
「残業にならないように」という善意からの行動でも、実態として働いていれば賃金の支払い対象になります。
PC操作のログ、メールの送受信記録などで後から「実はあの時間も働いていた」と主張されることがあります。

パターン③ 「役職があるから管理監督者として残業代不要」

「係長だから」「店長だから」という理由で残業代を支給していない会社があります。
ただし、法律上の「管理監督者」の要件は非常に厳しく、役職の名称があるだけでは認められません。
「採用・解雇・賃金の決定権がある」「遅刻・早退・欠勤に対して制裁を受けない」などの実態が伴っていないと、管理監督者とは見なされません。

パターン④ 「所定労働時間が変わっても、残業の計算基準が変わっていない」

例えば、週40時間制に変更したのに、残業が発生するラインの計算が以前のままになっているケースです。
所定労働時間が変われば、残業の起算点も変わります。
就業規則を改定しても、実務の計算ルールが連動していなければ、知らないうちに未払いが積み上がっていきます。
「就業規則は直した」「計算ルールまでは確認していない」——このズレが、未払い残業代問題の温床になります。

パターン⑤ 「残業代の基礎単価を、基本給だけで計算している」

残業代の計算に使う1時間あたりの単価(基礎単価)を、基本給だけで算出している会社は少なくありません。
ただし、法律上は通勤手当・家族手当・住宅手当など一部の手当を除き、毎月定期的に支払われる手当はすべて基礎単価に含めなければなりません。
「役職手当」「職務手当」「皆勤手当」などを単価から外して計算していると、残業代の不足が生じます。
これは知らずにやってしまっているケースが非常に多く、社労士への相談で発覚することも珍しくありません。

パターン⑥ 「管理者が勝手に打刻している」

「残業時間を少なく見せたい」という気持ちから、上司や管理職が部下のタイムカードを代わりに打刻するケースがあります。
本人は善意のつもりでも、会社として黙認していた場合、「組織的な記録改ざん」と判断されることがあります。
実態として働いていた時間の残業代は当然支払い義務が生じますし、悪質と見なされれば行政指導や是正勧告の対象にもなります。
「現場の判断でやっていた」では、会社として責任を逃れることはできません。

パターン⑦ 「労働時間を10分・15分・30分単位で日ごとに切り捨てている」

「うちは15分未満は切り捨て」「30分単位で計算している」というルールを設けている会社があります。
法律上、1日ごとの時間の切り捨ては認められていません。
端数処理が許されるのは、1ヶ月の合計時間で30分未満を切り捨てる場合だけです(30分以上は1時間に切り上げ)。
「毎日5分・10分」の積み重ねも、3年分を遡及して請求されると、想定外の金額になることがあります。


「うちは大丈夫」は通用しない——実際に起きたケース

「うちの社員はそんなことを言わない」「今まで何十年も問題なかった」——そう言い切れる会社ほど、リスクを抱えていることがあります。
以下は、実際に相談・対応したケースの一部です(詳細は匿名化しています)。

ケース① 退職後に弁護士が介入——未払い残業代200万円を請求された

長年勤めた社員が退職。しばらくして、弁護士を通じて未払い残業代200万円の請求書が届きました。
在職中は一度も「残業代がない」と言わなかった社員でした。
ただ、タイムカードが残っていた3年分の記録を積み上げると、確かに計算が合わない。
「悪気はなかった」「ちゃんと支払っていたつもりだった」——でも、証拠がなければ反論できません。
最終的に和解で決着しましたが、弁護士費用・対応工数・精神的なコストは、会社にとって大きな打撃でした。

ケース② 運送業——毎月500万円規模の未払いリスクが潜んでいた

ドライバーの拘束時間と実労働時間の区分が曖昧になっていた運送会社。
実態を正確に洗い直したところ、毎月500万円超の未払い残業代リスクが存在していたことが判明しました。
「運送業は業界全体がそういうもの」という感覚でいたことが、何年にもわたる積み重ねを生んでいました。

ケース③ 建設業——月50万・80万単位で「知らなかった」が続いていた

建設業の現場では、作業前の準備時間・移動時間・後片付け時間が労働時間に含まれていないケースが多くあります。
複数の建設会社を確認したところ、月50万〜80万円規模の未払いリスクが確認されたケースが複数ありました。
「現場はそういうもの」「昔からそうだった」は、今の法律では通用しません。

これらは特別な話ではありません。
問題は「悪意があるかどうか」ではなく、「仕組みができているかどうか」です。
仕組みのない会社は、今この瞬間も同じリスクを抱えています。


まず確認:労働時間の「記録」はありますか?

2019年の働き方改革関連法の施行以降、会社は従業員の労働時間を客観的に把握・記録する義務があります。
これは中小企業も例外ではありません。

「客観的な把握」とは、自己申告ではなく、以下のような方法で確認することです。

  • タイムカード・ICカードによる打刻
  • PCのログイン・ログオフ記録
  • 入退室システムの記録

「社員を信頼しているから、自己申告で十分」という考え方は気持ちとしてはわかります。
ただ、トラブルになったとき、会社を守るのは記録だけです。
信頼と記録は、セットで持つものです。


よくある誤解①——「みなし残業」を入れれば何時間でも大丈夫

「固定残業代(みなし残業)を月給に含めているから、残業代は問題ない」と思っている経営者は多いです。
ただ、これには大きな誤解があります。

固定残業代は、あらかじめ設定した「みなし時間数」を超えた分の残業代は、別途支払う義務があります。
例えば「月30時間分の固定残業代を含む」と定めていた場合、実際に45時間残業したなら、超過した15時間分を追加で支払わなければなりません。

また、固定残業代が賃金の中にいくら含まれているかを、求人票・労働契約書・給与明細に明確に記載していない場合、制度自体が無効と判断されることがあります。

「固定残業代を入れているから安心」ではなく、「固定残業代を正しく設計できているか」を確認してください。


よくある誤解②——「休憩中は給料が出なくていい」は本当か

休憩時間は労働時間ではないため、賃金を支払わなくていい——これ自体は正しいです。
ただし、「実態として休憩できていたかどうか」が重要です。

例えば、こんなケースは問題になります。

  • 昼休みに電話対応をさせている(実態は労働時間)
  • 「休憩は1時間」と書いてあるが、実際は30分しか取れていない
  • 休憩室がなく、デスクで昼食を取りながら仕事をしている

「休憩」とは、会社の指揮命令から完全に解放されている時間のことです。
電話を待機しながら、緊急対応に備えながら取る「昼食時間」は、法的には休憩とは言えません。


今すぐできる3つの整備ポイント

難しいことから始める必要はありません。
まずこの3つを整えるだけで、リスクは大きく下がります。

  • ① タイムカードまたは打刻システムを導入する
    自己申告だけに頼らず、客観的な記録を残す仕組みを作ります。無料・低コストのアプリでも十分です
  • ② 固定残業代の時間数と金額を書面で明示する
    労働契約書と給与明細に「○○時間分の固定残業代○○円を含む」と明記します
  • ③ 残業の上限ルールを就業規則に定め、社員に周知する
    「残業は事前申請制」「上限は月○○時間」というルールを明文化します。口頭のみはトラブルの元です

「うちの社員はそんなことを言わない」という会社ほど、辞める直前に言ってきます。
トラブルは「仲がいいうち」には起きません。関係が壊れたタイミングで、一気に表面化します。


よくある質問

Q. 残業代を後から請求された場合、時効はありますか?

A. はい、あります。2020年の法改正により、未払い賃金(残業代を含む)の消滅時効は原則3年になりました(それ以前は2年)。つまり、3年分をさかのぼって請求される可能性があります。月10時間の未払い残業が3年続いていた場合、その総額は想像以上になることがあります。早めの整備が得策です。

Q. 労働基準監督署の調査はどんなきっかけで来ますか?

A. 大きく2つあります。ひとつは、辞めた社員や在職中の社員からの申告・通報。もうひとつは、労基署が業種・地域を選んで行う定期調査(臨検)です。特定の業種で問題が多い時期には、その業種全体を対象に調査が入ることがあります。「通報されない限り大丈夫」ではありません。


まとめ:トラブルが起きてからでは遅い。記録と仕組みが会社を守る

残業代トラブルを防ぐために、今日から確認してほしいことをまとめます。

  • 労働時間が客観的に記録されているか
  • 固定残業代の内容が書面で明示されているか
  • 「管理監督者」として扱っている社員の実態は、法的要件を満たしているか
  • 休憩時間が実態として確保されているか
  • 残業ルールが就業規則に定められ、社員に周知されているか

「支払う意思はある」「悪気はなかった」では、トラブルになったときに守ってもらえません。
会社を守るのは、日頃の記録と、正確に機能している仕組みです。

「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

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