「カスハラは顧客の問題だから、会社には責任がない」——そう思っているとしたら、裁判所の判断は全く逆です。
カスハラを放置した会社が、被害を受けた従業員から訴えられて敗訴した判例が複数あります。使用者は従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、カスハラへの無対応はその義務違反と判断されます。
今回は実際の裁判例をもとに、「何がアウトだったか」を整理します。
目次
目次
- 会社に課される「安全配慮義務」とカスハラ
- 裁判例①:繰り返しのクレーム電話を放置した会社
- 裁判例②:上司がカスハラ被害を「大げさ」と切り捨てた事例
- 裁判例③:カスハラによるメンタル疾患が労災認定された事例
- 判例から読み取れる「敗訴する会社」の共通点
- よくある質問
- まとめ
会社に課される「安全配慮義務」とカスハラ
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。これが「安全配慮義務」です。
安全配慮義務は、社内のハラスメントだけでなく、社外(顧客・取引先)からの行為についても適用されます。
つまり、顧客からのカスハラを「お客さまのことだから」と放置することは、安全配慮義務違反です。会社は従業員を守る義務を果たしていないとして、損害賠償責任を負います。
裁判例①:繰り返しのクレーム電話を放置した会社
【事案の概要】
小売業の会社において、担当従業員が特定の顧客から長期間にわたり、1回あたり1〜2時間に及ぶクレーム電話を複数回受け続けた。上長への報告は行っていたが、会社は「お客さまだから」と具体的な対応を取らなかった。従業員は精神的に追い詰められ、うつ病を発症して休職。その後、会社の安全配慮義務違反として損害賠償請求訴訟に発展した。
【裁判所の判断】
裁判所は、会社が従業員からの報告を受けながら何の措置も取らなかったことを問題視しました。「報告を受けた時点で、顧客への対応制限や担当者の変更などの措置を検討すべきだった」として、安全配慮義務違反を認定し、会社に損害賠償の支払いを命じました。
【ポイント】
「報告を受けた」だけでは不十分です。報告を受けた後に「具体的な対応を取ったか」が問われます。
裁判例②:上司がカスハラ被害を「大げさ」と切り捨てた事例
【事案の概要】
サービス業の会社において、従業員が顧客から暴言・土下座の強要を受けた。従業員は直属の上司に相談したが、上司は「そんなことよくあること」「あなたの対応が悪かったんじゃないか」と言い、会社として何も対応しなかった。従業員は職場への出社が困難となり、最終的に退職。会社に対して安全配慮義務違反・パワーハラスメントとして損害賠償を請求した。
【裁判所の判断】
上司の対応が「相談を受けた後に適切な対応を取らなかった」として、会社の安全配慮義務違反が認定されました。さらに、上司の「あなたの対応が悪かった」という発言が二次被害(二次的ハラスメント)にあたると判断され、慰謝料を含む損害賠償の支払いが命じられました。
【ポイント】
相談を受けた管理職が「大げさ」「あなたが悪い」と言うことは、二次被害として会社の責任を重くします。
裁判例③:カスハラによるメンタル疾患が労災認定された事例
【事案の概要】
介護施設において、利用者家族から長期間にわたり暴言・誹謗中傷を受け続けた介護職員が、うつ病を発症して休職。労働基準監督署に労災申請を行った事案です。
【労基署・裁判所の判断】
利用者家族からの行為が「業務上の強いストレス」に該当すると認定され、労災(精神障害)として認定されました。会社がカスハラ防止の体制を整えていなかった点も問題として指摘されました。
【ポイント】
カスハラによるメンタル疾患は、業務上の精神障害として労災認定され得ます。労災認定された場合、会社は労災保険の費用負担(メリット制)に影響が出る場合があります。
判例から読み取れる「敗訴する会社」の共通点
複数の判例を見ると、カスハラ問題で会社が敗訴するパターンには共通点があります。
- 報告を受けたが何もしなかった:従業員から相談があっても、具体的な対応を取らなかった
- 被害を軽視した:「よくあること」「お客さまだから」と判断し、対策を先送りにした
- 二次被害を起こした:上長が被害従業員に「あなたが悪い」と言い、さらにダメージを与えた
- 記録がなかった:被害の事実・対応の経緯が記録されておらず、会社側の対応を証明できなかった
- カスハラ対策の体制がなかった:就業規則・マニュアル・相談窓口のいずれも整備されていなかった
逆に言えば、これらを整えておくことが、会社を守ることになります。
よくある質問
Q. カスハラをした顧客に対して、会社から損害賠償請求することはできますか?
A. できます。顧客からの暴言・脅迫・名誉毀損などは不法行為(民法709条)にあたる場合があり、会社として損害賠償請求・刑事告訴が可能です。特に、従業員が身体的被害や重大な精神的被害を受けた場合は、弁護士を通じた法的対応を検討する価値があります。「お客さまだから泣き寝入り」する必要はありません。
Q. 過去にカスハラ被害を放置してしまいました。今からでも対策できますか?
A. 今からでも対策できます。重要なのは「今後どうするか」です。就業規則の整備・相談窓口の設置・マニュアルの作成を今から進めることで、今後のリスクを大幅に減らせます。過去の対応の問題は変えられませんが、これからの姿勢を変えることで、従業員の信頼を回復することもできます。
まとめ
カスハラ放置で会社が負けた判例から見えてくるのは、「報告を受けた後の対応」が最も問われるということです。
被害の相談を受けたら、必ず具体的な対応を取る。記録を残す。二次被害を起こさない。この3つが、会社を守るための最低限の行動です。
「従業員を守ることが、会社を守ること」——この順番を間違えないでください。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

