評価制度を作れば社員のモチベーションが上がる、は幻想——9割が形骸化する本当の理由を姫路の特定社労士・採用定着士が解説

評価制度を作れば社員のモチベーションが上がる、は幻想——9割が形骸化する本当の理由を姫路の特定社労士・採用定着士が解説




「評価制度を作ったら、社員のモチベーションが上がりますよ」——そういう話をよく耳にします。でも、私が実際に見てきた現場は正反対でした。

評価制度を導入した会社の9割以上が、数年で形骸化します。評価シートは棚に眠り、面談は「やった」というアリバイのためだけに存在し、社員は「評価なんて意味がない」と思いながら黙々と働いている。

なぜこうなるのか。そして「評価制度を作る前に考えるべきこと」は何か。現場を見てきた社労士として、正直に話します。


目次

  1. 評価制度が形骸化する、本当の理由
  2. 「評価制度の目的」を間違えている会社が多すぎる
  3. 社員は文句を言わない——だから経営者は気づかない
  4. 20人以下の会社に評価制度は必要か?
  5. どうしても作るなら「A4一枚」から始める
  6. よくある質問

評価制度が形骸化する、本当の理由

形骸化するパターンは決まっています。

  • 評価項目が多すぎて、評価する側が疲弊する——「誠実さ」「チームワーク」「主体性」「コンプライアンス意識」…何十項目もある評価シートを毎回真剣に埋められる管理職はいない
  • 評価の軸がブレる——評価者によって点数がバラバラ。「うちの上司は厳しい」「別の部署は甘い」という不満が生まれる
  • 評価の結果が賃金にちゃんと反映されない——「Aをもらっても給料が変わらなかった」という経験が積み重なると、誰も評価を信じなくなる
  • 面談が形だけになる——「何か目標はありますか?」「頑張ります」「お疲れ様でした」で終わる15分の面談。これを「評価制度を運用している」とは言えない

そして最大の問題は、「いい評価項目・評価シートを作ること」に全エネルギーを使い、本来大事なはずの傾聴・承認・対話が完全に置き去りになることです。

評価制度の「仕組み(ハード)」を作ることに夢中になって、「人との関わり(ソフト)」を忘れる。結果、誰のモチベーションも上がらない。上から言われて時間を消費しているだけの制度が出来上がる。

だったら最初からやらない方がいい、と私は思っています。


「評価制度の目的」を間違えている会社が多すぎる

評価制度を作ろうとする経営者に「何のために作るんですか?」と聞くと、多くの場合こう答えます。「社員のモチベーションを上げるため」「公平に評価したいから」。

それ自体は悪くない。でも、評価制度の本来の目的は「会社の方向性に沿って社員を育てること」です。

評価は手段です。目的は「社員の成長」と「会社の成長を連動させること」。それが最終的に賃金に反映されることで、社員は「頑張れば報われる」と感じる。

でも世の中には、賃金に結びつけることだけを目的にした評価制度もあれば、賃金とは切り離した「面談制度」として運用している会社もある。どちらが正しいかは会社によって違います。

大事なのは「なぜ評価制度を入れるのか」の目的が明確であること。目的がないまま「他の会社がやってるから」「コンサルに勧められたから」で作った評価制度は、高確率で形骸化します。


社員は文句を言わない——だから経営者は気づかない

ここが最も厄介な問題です。

評価制度が形骸化していても、社員はほとんど文句を言いません。

なぜか。「評価が下がるかもしれない」「言ったところで変わらない」「波風を立てたくない」——こうした空気の中で、社員は黙って評価制度に付き合います。心の中では「意味ないな」と思いながら、評価シートを埋めて、15分の面談をこなして、また次の1年間を過ごす。

経営者は「ちゃんと評価制度が機能している」と思い込む。でも実態は、誰のモチベーションも上がっていない。そしていつの間にか「また辞めた」という事態が起きる。

評価制度が「うまく回っているかどうか」は、アンケートや直接対話でしか分かりません。「評価制度について正直に話してほしい」という場を意図的に作らない限り、問題は表面化しないのです。


20人以下の会社に評価制度は必要か?

私の考えをはっきり言います。

働く場所が一箇所で、従業員が20人以下の会社なら、評価制度はなくていいと思っています。

社長が全員を直接見られる規模であれば、「社長の一存で判断する」で十分機能します。「あの人は頑張っている」「この人は伸びている」を社長が感じたまま評価し、賃金や昇進に反映する。それで十分です。

むしろそのほうが、社員は「ちゃんと見てもらえている」と感じやすい。シートに点数を付けられるより、社長から直接「最近の仕事ぶり、いいよ」と言われる方が、人間として嬉しいのは当然です。

評価制度が本当に必要になるのは、社長が全員を直接見られなくなる規模——大体30〜50人を超えてきたあたりからです。それまでは「社長の目と言葉」が最強の評価制度です。


どうしても作るなら「A4一枚」から始める

「それでも評価制度を作りたい」「賃金と連動させたい」という場合、私がお勧めするのはA4一枚(またはA3一枚)のシンプルな評価シートです。

ポイントはこれだけです:

  • 評価項目は5〜7個まで(多くても10個以内)
  • 「何をどうすれば高評価か」が一目で分かる記述にする
  • 評価後の面談では「点数の説明」より「次にどうするか」の対話に時間を使う
  • 評価結果を賃金に反映するルールを先に決めておく(後から決めると不信感につながる)

複雑な評価シートは、絶対に続きません。作った瞬間から形骸化への道を歩み始めます。シンプルであることが、継続の条件です。

そして忘れないでほしいのは、評価制度の「形(ハード)」より、傾聴・承認・対話の「質(ソフト)」の方が、社員のモチベーションに直結するということです。


よくある質問

Q. 評価制度なしで賃金をどう決めればいいですか?

A. 小規模の会社では「社長が感じた貢献度・成長度・会社への姿勢」を軸に決める経営者が多いです。大事なのは「なぜその賃金にしたか」を社員に説明できること。評価シートがなくても、「あなたのここが成長した、だから上げる」という対話ができれば、社員は納得しやすいです。

Q. 評価制度を廃止したいけど、社員の反発が心配です。

A. 廃止前に社員の本音を聞くことが先決です。「今の評価制度、正直どう思いますか?」と聞いてみてください。多くの場合「正直、意味を感じていませんでした」という答えが返ってきます。廃止に反発するより、廃止を歓迎する社員の方が多いことが多い。廃止後に「代わりにどうするか」を一緒に考えるプロセスが、むしろ信頼を高めます。


まとめ

評価制度を作ればモチベーションが上がる、は幻想です。9割以上が形骸化する現実の中で、無理やり複雑な制度を作っても、誰も得をしません。

20人以下なら社長の目と言葉で十分。どうしても作るなら、A4一枚のシンプルな形から始める。そして評価シートの「形」より、傾聴・承認・対話の「質」に時間を使う。それが人が育つ組織の条件です。

人事制度・評価制度について不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。