「うちは従業員30人くらいの規模だし、36協定はまだ必要ないのでは?」こうした相談は中小企業、とくに管理部門の人数が限られた企業から多く寄せられます。
しかし36協定(時間外・休日労働に関する協定届)は、企業規模を問わず、時間外労働や休日労働を命じる可能性がある会社にとって避けて通れない手続きです。
知らないうちに法律違反になっているケースも少なくありません。
この記事では、従業員数30人規模の会社における36協定の必須性と、実務上の注意点をわかりやすく解説します。
目次
結論:従業員が1人でも「残業させるなら」36協定の締結は必須
結論から言えば、従業員数に関係なく、時間外労働(法定労働時間を超える労働)や休日労働をさせる可能性がある会社は、必ず36協定を締結し、労基署に届け出る必要があります。
つまり、「従業員が30人だから必要」「50人を超えたら必要」といった人数基準は存在せず、残業を命じるかどうかが唯一の判断基準になります。
届出をしていない状態で残業をさせると、労働基準法違反となり、行政指導の対象になるうえ、最悪の場合は送検されるリスクもあります。
36協定が必要となる理由(法律の根拠と実務)
労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定められています。
しかし現実には、突発の案件や繁忙期対応で残業が必要になるため、例外的に時間外労働を認める仕組みが36協定です。
36協定のポイントは次のとおりです。
- 労働者代表と会社が書面で締結すること
- 時間外労働の上限を定めること
- 労基署へ届出しないと効力が発生しないこと
- 上限規制(原則月45時間・年360時間)の厳格化により、違反へのペナルティが強化されていること
とくに2019年の法改正後は、中小企業も含め上限規制が適用されています。「以前から残業しているから大丈夫」と思っている会社ほど、書類不備が見つかりやすい傾向があります。
よくある誤解:36協定は「一定規模以上の会社」だけが必要
従業員30人前後の企業でよくある誤解が、「うちは小規模だから36協定は不要」というものです。
しかし実際には次のような誤認が多く見られます。
- 誤解①:事務職だけの会社だから不要
→業務繁忙があれば事務職でも残業は発生します。 - 誤解②:シフト制なので関係ない
→シフト制でも法定労働時間を超えれば36協定が必要。 - 誤解③:就業規則に残業のルールを書いているので届出はいらない
→就業規則と36協定は全く別。届出がなければ残業命令の法的根拠がない。
このような誤認は、行政調査で「届出漏れ」として指導される典型例です。
実務での注意点:労働者代表の選出方法や上限管理に注意
36協定は書類を提出すれば終わりではなく、運用面での注意点も多くあります。
- 労働者代表は“会社側の指名”ではなく、選挙または投票で選ぶ必要がある
- 36協定の内容(上限時間)を守らなければ意味がない
- 特別条項付き協定は乱用すると指導対象になる
- 勤怠システムと36協定の時間が乖離しているとリスクが高い
- 36協定の内容は従業員へ周知が必要
とくに中小企業では労働者代表の選出方法が法令に沿っていないケースが非常に多く、形式的に締結しただけだと無効扱いされるリスクがあります。
士業・専門家の支援:書類作成だけでなく“運用設計”が重要
社労士などの専門家は、単なる36協定の作成・届出だけでなく、企業内の実態に応じた労働時間管理の運用設計までサポートできます。
- 正しい労働者代表の選出方法のアドバイス
- 残業状況の分析と上限規制への対応
- 特別条項が必要かどうかの判断
- 勤怠システムとの整合性チェック
- 行政調査に備えた文書整備(36協定、就業規則、勤怠記録等)
従業員30人規模の企業では、総務担当者が兼務であり、労働時間管理が煩雑になりやすいため、第三者のサポートが効果的です。
まとめ:従業員数に関係なく、残業が発生するなら36協定は必須
36協定は従業員数の大小とは関係なく、「残業・休日労働を命じる可能性があるか」で必要性が決まります。従業員30人規模の会社でも、日常的に時間外労働が発生しているなら、締結・届出は必須の手続きです。
適切に整備しておくことで、労務リスクを避けるだけでなく、従業員の働き方の見直しや生産性向上にもつながります。
迷った場合は、専門家に相談し、自社の状況に合った労働時間管理の仕組みを整えることが安心です。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

