就業規則にSNS規定を整備した。BeRealも禁止した。
それで終わり——ではありません。
ルールは「なぜ作ったのか」を伝えてこそ、守られます。
このシリーズの最終回では、SNS規定を社員に「伝える」ことの重要性と、具体的な説明の方法をお伝えします。
特に、Z世代の若手社員に響く言葉で伝えるための視点を、実際のメッセージをベースに紹介します。
目次
目次
- なぜ「周知」が一番重要なのか
- Z世代に伝わる言葉で説明する
- 経営者が伝えるべきメッセージの核心
- 周知の方法——記録を残すことが命綱
- 「プライベートまで縛らない」という姿勢が信頼を生む
- よくある質問
- まとめ——シリーズを振り返って
なぜ「周知」が一番重要なのか
西日本シティ銀行のBeReal事件の後、複数の専門家が共通して指摘していることがあります。
「銀行にはSNSに関するルールがなかったわけではない。問題は、社員がそのリスクを理解していなかったことだ」——。
就業規則に書いてある=社員が理解している、ではありません。
入社時に就業規則を渡して「読んでおいてください」では、誰も読みません。
法的な観点でも、就業規則の「周知」は効力の要件です(労働基準法第106条)。
掲示・交付・社内システムへの掲載など、社員がいつでも確認できる状態にしなければなりません。
さらに、「知っているか・理解しているか」の確認と記録が、トラブル時の会社の防衛線になります。
Z世代に伝わる言葉で説明する
「BeRealは禁止です。就業規則第○条を読んでください」
これでは伝わりません。
Z世代は、ルールを頭から「守れ」と言われても行動が変わりにくいです。
「なぜそのルールがあるのか」「自分に何が関係するのか」が腑に落ちたとき、初めて行動が変わります。
伝え方の3つのポイントです。
- 具体的な事例から入る:「西日本シティ銀行で実際にこんなことが起きた」と事実を見せる
- 「あなた自身が守られる」という視点で話す:「会社を守るためだけじゃない。あなたを守るためでもある」
- リスクの大きさを数字で示す:「数百万〜数千万の損害賠償を個人で負う可能性がある」という現実
感情的に叱るのではなく、事実とリスクをフラットに伝えることが、Z世代には響きます。
経営者が伝えるべきメッセージの核心
SNS規定を整備した際、社員への説明でぜひ伝えていただきたいメッセージがあります。
——「なぜ、ここまでBeRealを規制しないといけないのか。
それは会社を守るためでもあるし、みなさんを守るためでもあります。
万が一、みなさんがルールを破り、仕事中にBeRealを使って、情報漏洩などして、会社が損害賠償請求されたとき——
会社は損害の全部もしくは一部をみなさんに請求することになります。
そんなことはしたくない。だから、利用自体をやめてほしい。
ただ、そのリスクを理解したうえで使うなら、プライベートの使用までは止めません。」——
このメッセージには、3つの要素が入っています。
- 会社を守るだけでなく、社員を守るためという視点
- 違反した場合の具体的なリスク(損害の全部もしくは一部の請求)
- プライベートまでは縛らないという信頼の姿勢
「管理したい」のではなく「守りたい」——このスタンスが、Z世代の心を動かします。
周知の方法——記録を残すことが命綱
口頭で説明するだけでは不十分です。
「言った・言わない」の水掛け論を防ぐためにも、記録を残すことが必須になります。
推奨する周知の方法
- 入社時研修での説明:新入社員に対して、就業規則の説明と合わせてSNS規定を解説します。確認書への署名をもらいましょう
- 既存社員への周知文書の配布:規定を新設・改定した場合、全社員に説明文書を配布し、受領のサインをもらいます
- 朝礼・ミーティングでの口頭説明:文書配布と合わせて、経営者または管理職が直接説明します。議事録に残しておきましょう
- スマートフォンの提示確認(任意):アンインストールの確認を行う場合、強制ではなく任意の提示協力として依頼します
「周知した記録」があることで、万が一トラブルが発生した際に「会社は適切な措置を講じていた」と主張できます。これが会社の防衛線になります。
「プライベートまで縛らない」という姿勢が信頼を生む
SNS規定を厳しくしすぎると、社員は「監視されている」「信用されていない」と感じます。
特にZ世代にとって、SNSはコミュニケーションの基盤です。
大切なのはバランスです。
- 職場内・就業時間中の制限 → 合理的なルールとして明確に
- プライベートでの利用 → リスクを理解したうえで本人の判断に委ねる
「リスクを分かったうえで使うなら、プライベートまでは止めない」——
この一言が、強制ではなく理解を促すメッセージになります。
信頼関係のある職場では、社員は自発的にルールを守ります。
ルールを「押しつける」のではなく、「一緒に守る」文化を作ることが、SNS問題の本質的な解決につながります。
よくある質問
Q. 社員に「BeRealを使っているか」確認することはプライバシー侵害になりますか?
A. 就業規則で確認の根拠を定め、「任意の提示協力」として依頼する形であれば、プライバシー侵害には当たりにくいとされています。ただし、強制的なスマートフォンの提出・全データの確認は別問題です。あくまで「アンインストールを確認させてほしい」という任意の依頼にとどめ、強制しないことが重要です。
Q. 社員から「なぜBeRealだけ禁止するのか、他のSNSとの違いは?」と聞かれたらどう答えますか?
A. 「ランダムな通知で、2分以内に前後カメラで即時投稿するという仕組みが問題だ」と説明してください。通常のSNSは自分で撮影タイミングを選べますが、BeRealは通知が来た瞬間に撮影するため、背景への意図せぬ映り込みを防ぐことが構造的に難しいという特性があります。「使い方の問題ではなく、仕組みの問題」として伝えると納得を得やすくなります。
まとめ——シリーズを振り返って
全4回のシリーズを通じて、伝えてきたことをまとめます。
- 第1回:BeReal炎上事件は「他人事」ではない。Z世代の社員がいる職場すべてが当事者です
- 第2回:SNS情報漏洩は会社の法的責任を問われます。社員への損害賠償請求という現実もあります
- 第3回:就業規則の整備は3つのポイントで。即時投稿型SNSを概念でくくって禁止する
- 第4回:ルールは「なぜ作ったか」を伝えてこそ守られます。社員を守るためのメッセージを届けましょう
就業規則の整備と、社員への丁寧な説明。
この2つがセットになって初めて、職場のSNSリスクは本当に下がります。
「うちの就業規則、BeRealに対応できているか確認したい」
「社員への説明文を一緒に作りたい」
そんな方は、ぜひご相談ください。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

