「就業規則にSNSのことは書いてあるけど、BeRealは想定していなかった」
今、多くの中小企業がこの状態にあります。
10年前に作ったSNS規定は、BeRealのような「ランダム通知・即時投稿型」アプリを想定していません。
第1回で事件の全貌を、第2回で法的リスクを解説しました。
今回は「では、就業規則をどう整備するか」を、実際の条文の構成を参考に具体的にお伝えします。
目次
目次
- ポイント① 禁止行為を具体的に列挙する
- ポイント② 就業時間中の利用を明確に制限する
- ポイント③ 即時投稿型SNSを概念でくくって禁止する
- 条文の構成例——実際のSNS規定はどうなっているか
- 規定整備で見落としがちな3つのこと
- よくある質問
- まとめ
ポイント① 禁止行為を具体的に列挙する
SNS規定でまず必要なのは、「何をしてはいけないか」を具体的に書くことです。
「SNSの適正利用」という曖昧な表現だけでは、社員は何がNGか判断できません。
禁止行為として明記すべき主な内容は以下の通りです。
- 会社・同僚・顧客・取引先への中傷・誹謗
- 技術上・営業上・経営上の機密情報の発信
- 個人情報(顧客・患者・スタッフ)の撮影・掲載・共有
- 会社の信用を失墜させる内容の投稿
- 院内・職場内の設備・様子の無断撮影と投稿(就業時間外・休憩中も含む)
- 著作権・商標権・肖像権の侵害
特に「職場内の撮影禁止」は、時間帯(就業中・休憩中・残業中)を問わず規定することが重要です。
BeRealの通知は就業時間中だけに来るとは限りません。
ポイント② 就業時間中の利用を明確に制限する
「就業時間中はSNSを使ってはいけない」——これを明文化している会社は意外と少ないです。
休憩時間の取り扱いも含めて、以下のように整理する必要があります。
- 就業時間中(休憩時間を除く):業務と無関係な個人SNSの閲覧・投稿・反応(いいね等)をすべて禁止
- 休憩時間中:利用は可能ですが、院内・職場内の設備・患者・スタッフ・診療の様子の撮影・投稿は禁止
- 就業時間外・職場内:会社の事前承認なく、職場の様子を撮影・投稿してはなりません
「休憩中は自由では?」と思う社員もいます。しかし、休憩中に職場内で患者の顔が映り込んだBeRealを投稿すれば、それは個人情報漏洩です。休憩中の自由と、職場内での撮影禁止は、別の問題として整理する必要があります。
ポイント③ 即時投稿型SNSを概念でくくって禁止する
「BeRealを禁止する」と就業規則に書いても、次のアプリが登場すれば再び規定の穴になります。
そこで重要なのが、「即時投稿型SNS」という概念でくくることです。
例えば以下のように定義します。
「特定のタイミングで強制的に撮影・投稿を促す仕組みを持つSNS(ランダムな通知により即時の撮影・投稿を求めるアプリケーション)」
この定義であれば、BeRealが名前を変えても、類似アプリが登場しても、規定の射程内に収まります。
禁止の範囲として明確にしたい点は以下の通りです。
- 在職中の当該アプリのインストール禁止
- 既にインストール済みの場合、周知後14日以内にアンインストール
- 就業時間中・休憩中・就業時間外を問わず、在職中は原則として利用禁止
「在職中の全面禁止はやりすぎでは?」と感じる経営者もいるでしょう。
しかし、BeRealはランダム通知という仕組み上、「職場外でだけ使う」という自己管理が構造的に難しいアプリです。通知が来た瞬間が職場にいる時間と重なる可能性が毎日あります。だからこそ、インストール自体を禁止するという判断が合理的になります。
条文の構成例——実際のSNS規定はどうなっているか
以下は、今回の問題を踏まえて整備したSNS規定の構成例です。
(実際の条文は事業所の状況に合わせて専門家と確認のうえ整備してください)
- 第1項:ソーシャルメディア利用時の遵守事項(禁止行為の列挙)
- 第2項:就業時間中の個人SNS利用禁止・休憩時間中の撮影制限
- 第3項:即時投稿型SNS(BeReal等)の在職中の利用原則禁止・インストール禁止・14日以内のアンインストール義務
- 第4項:違反した場合の懲戒処分・損害賠償請求の根拠
- 第5項:会社による利用状況確認の権限(防犯カメラ映像・勤怠記録等)
ポイントは、第3項で「即時投稿型SNS」を独立した項目として設けていることです。
通常のSNS禁止規定と切り分けて定義することで、会社の意図と範囲が明確になります。
規定整備で見落としがちな3つのこと
① 労働基準監督署への届出
常時10人以上の労働者を使用する事業所は、就業規則を労働基準監督署に届け出る義務があります。変更した場合も同様です。届出していない規定は、法的効力が弱くなることがあります。
② 過半数代表者の意見聴取
就業規則を作成・変更する際は、労働者の過半数を代表する者(または過半数労働組合)の意見を聴取し、意見書を添付しなければなりません。「同意」ではなく「意見聴取」でよいですが、手続きを省略してはいけません。
③ 「不利益変更」への対応
社員がすでに慣行としてSNSを職場で使っていた場合、その利用を制限する規定を新たに加えることは「不利益変更」に当たる可能性があります。丁寧な説明と合理的な移行期間が、トラブルを防ぐ鍵になります。
よくある質問
Q. スマートフォンを業務でも使う社員がいます。私有端末の利用制限はできますか?
A. 可能です。就業規則で「業務と無関係なアプリの使用制限」や「職場内での私有端末利用ルール」を定めることができます。業務端末と私有端末を分けて管理する仕組みを整備する方法もあります。ただし、プライベートの利用まで全面禁止することには限界があるため、「職場内・就業時間中」に絞った制限が現実的です。
Q. 就業規則のSNS規定は、パート・アルバイトにも適用されますか?
A. 就業規則の適用範囲として明記されていれば、パート・アルバイトにも適用されます。特に、顧客情報や患者情報に接する機会がある職種(受付・接客・医療補助など)では、雇用形態を問わず同等のルールを適用・周知することが重要です。
まとめ
SNS規定の整備は、3つのポイントで考えてみてください。
- ① 禁止行為を具体的に列挙——「適正利用」だけでは伝わりません
- ② 就業時間中の利用制限を明文化——休憩中の撮影禁止も含めて整理する
- ③ 即時投稿型SNSを概念でくくって禁止——BeRealだけでなく次のアプリも射程に入れる
ただし、規定を作るだけでは足りません。
次回(第4回)では、最も重要な「社員への伝え方・周知の方法」を取り上げます。
ルールは「なぜ作ったのか」を伝えてこそ、守られます。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

