従業員数50名以下の会社が抱えやすい「未払い残業」リスクと対応策

従業員数50名以下の会社が抱えやすい「未払い残業」リスクと対応策

未払い残業代の問題は、
「悪意がある会社」で起きるものではありません。

実際には、
人手不足の中で現場と経理を必死に回している会社ほど、気づかないうちに未払いを抱えている
というケースが非常に多くあります。

特に人数が少ない会社では、
「今まで問題になっていないから大丈夫」
という感覚のまま、リスクが積み上がっていきます。


1. 未払い残業が起きがちな企業の特徴

未払い残業代を抱えている会社には、かなりはっきりした共通点があります。

  • 手計算やExcelで自社計算している
  • 税理士に給与計算を任せている
  • 顧問社労士がいない
  • 所定労働時間の定義を理解していない
  • 残業単価の計算方法を理解していない
  • 就業規則がない、または労働時間・休憩の記載がない
  • 雇用契約書を交わしていない
  • 労働時間を10分・15分・30分単位で切り捨てている
  • 勤怠の打刻を本人にさせていない

これらが1つでも当てはまる場合、
未払い残業が「起きていない可能性」の方が低いと考えた方が現実的です。


2. 「税理士に任せている=安心」ではない

給与計算を税理士に依頼している会社は多いですが、
ここに大きな誤解があります。

税理士は、
渡された勤怠データをもとに計算するのが基本です。

つまり、

  • そもそも労働時間の集計が正しいか
  • 残業の定義が合っているか
  • 就業規則と整合しているか

まではチェックされていないケースがほとんどです。

計算が合っていても、
前提が間違っていれば未払いは発生します。


3. 特に多いのが「所定労働時間」の勘違い

未払い残業の相談で、最も多いのが、
所定労働時間の理解不足です。

・8時間を超えたら残業
・月160時間を超えたら残業

こうした曖昧な認識で運用している会社は要注意です。

就業規則で定めた所定労働時間を超えた時点で、
割増の対象になるケースは少なくありません。

ここを誤ると、
「残業代を払っているつもり」でも、
実際には足りていない状態が続きます。


4. 時間の「切り捨て」はほぼ確実にアウト

10分単位、15分単位、30分単位での切り捨て。
これは、未払い残業代の温床です。

たとえ慣習でも、
労働時間の切り捨ては原則認められません。

毎日の数分でも、
数年分を積み上げれば大きな金額になります。

退職後にまとめて請求されると、
経営へのインパクトは想像以上です。


5. 建設業で特に多い「移動時間」の未カウント

筆者の経験上、
建設業の7割近くが何らかの未払いを抱えています。

理由は非常にシンプルで、

「朝、会社に出勤してから現場に移動する時間」

を労働時間としてカウントしていないケースが多いためです。

会社の指示で集合し、
業務として移動している以上、
労働時間と判断される可能性は高くなります。

この部分を見落としていると、
未払いは簡単に膨らみます。


6. 実際にあった未払い残業の金額感

未払い残業代は、
想像以上の金額になることがあります。

  • 月80万円の未払いが3年間で3,000万円超
  • 月30万円の未払いが積み重なっていたケース

いずれも、
「そこまでのつもりはなかった」
という会社です。

日々の小さなズレが、
時間とともに致命傷になります。


7. 労働基準監督署の指摘は「本番」ではない

労働基準監督署の調査や是正勧告で、
「なんとか乗り切った」
と感じる経営者もいます。

しかし、正直に言うと、
監督署の指摘はまだ優しいです。

本当に厳しいのは、

労働者や退職者が、弁護士を通じて請求してきた場合

です。

この場合、
数百万円単位の請求は覚悟した方が良いでしょう。

会社の言い分が通る余地は、ほとんどありません。


8. 小規模企業が今すぐやるべき対応策

① 労働時間の定義を整理する

所定労働時間・残業の考え方を明確にする。

② 勤怠は本人打刻を原則にする

管理者の手書き・後付けはリスクが高すぎます。

③ 就業規則と雇用契約書を整える

ない、または形だけの状態は非常に危険です。

④ 「今いくら未払いがあるか」を把握する

見ないふりをせず、現状を把握することが最優先です。


まとめ:未払い残業は「放置した期間」で決まる

未払い残業代の問題は、
起きた瞬間よりも、放置した年数でダメージが決まります。

人数が少ない会社ほど、
「うちは大丈夫」という感覚が最大のリスクになります。

今まで問題になっていなくても、
それは運が良かっただけ、というケースは珍しくありません。

未払い残業は、
経営に直結する数少ない労務リスクです。

早めに整理し、
正しい前提で運用に切り替えることが、
結果的に会社を守る一番の近道になります。

筆者プロフィール

泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2025年現在、延べ100社以上の中小企業を支援。
採用・定着・労務に関する相談は累計2,000件超。

徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。

姫路播州採用定着研究所
C&P社労士法人 公式サイト
C&P社労士法人 公式サイト
Facebook