「支店の人数が少ないから、就業規則はいらないですよね?」
複数拠点を持つ会社から、よく出てくる質問です。特に本社と支店で人数差がある場合、「支店だけは対象外」と理解されがちですが、この認識には注意が必要です。結論だけを見ると正しい部分もありますが、実務では別の落とし穴が潜んでいます。
目次
結論:支店の従業員が9名なら、その支店単独では就業規則の作成・届出は不要
前提として、法人全体の従業員数が50名であっても、
ある支店の従業員数が9名であれば、その支店単独では就業規則の作成・届出義務はありません。
ここで重要なのは、
「支店だから不要」なのではなく、
「その事業場の従業員数が10人未満だから不要」
という点です。
この区別を誤解すると、後々トラブルや手続き漏れにつながります。
法律上の考え方:就業規則は「事業場ごと」に判断される
就業規則の作成・届出義務は、会社全体の人数ではなく、事業場ごとの常時使用する労働者数で判断されます。
・本社:従業員10名以上 → 作成・届出が必要
・支店:従業員9名 → 法律上は不要
この整理自体は正しいのですが、ここで「だから支店には就業規則はいらない」と判断してしまうと、実務上の問題が出てきます。
実務的な結論:本社と支店のルールが同じなら、一括で作成・届出したほうが良い
実務の現場では、
・勤務時間
・休日
・服務規律
・懲戒
などのルールが、本社と支店で共通になっていることがほとんどです。
この場合、
本社と支店をまとめて一つの就業規則として作成し、届出までしておく
ほうが、管理上もリスク面でも合理的です。
「支店は9名だから作らない」という判断をすると、次のような問題が起きやすくなります。
よくある実務上の落とし穴
① 認識がズレる
「支店では就業規則は不要」という理解が社内に広がると、
→ 従業員数が10名になっても作成・届出をしない
というケースが非常に多く見られます。
本来は「10名以上になった時点で必要」なのに、
「支店だから不要」という誤った認識にすり替わってしまうのです。
② 不公平感が生まれる
・本社には就業規則が置いてある
・支店には就業規則が置いていない
この状態は、従業員から見ると
「ルールがある人と、ない人がいる」
ように映ります。
特に、異動や応援勤務がある場合、
「どのルールが適用されるのか分からない」
という不満や不信感につながりやすくなります。
③ トラブル時に説明がしにくい
懲戒や労働条件の説明が必要になったとき、
「本社には規則があるが、支店にはない」
という状態は、説明が非常に難しくなります。
結果として、「なぜ支店だけ扱いが違うのか」という問題に発展しがちです。
どう整理するのが現実的か
実務上は、次の考え方が安全です。
・就業規則は原則として全社共通で作る
・事業場ごとの人数で「届出義務があるか」を判断する
・支店が9名でも、将来10名になる可能性があれば先に整えておく
・本社・支店のどちらでも閲覧できる状態にする
こうしておけば、
人数増加時の対応漏れ
ルールの不公平感
説明不足によるトラブル
をまとめて防ぐことができます。
まとめ:「支店だから不要」ではなく「人数で判断する」が正解
従業員9名の支店については、法律上は就業規則の作成・届出義務はありません。
ただしそれは、「支店だから」ではなく、「その事業場の従業員数が10人未満だから」です。
実務では、
・本社と支店でルールが同じ
・今後人数が増える可能性がある
のであれば、最初から一括で作成・届出しておくほうが、結果的に混乱が少なくなります。
形式上の義務だけで判断せず、
誤解が生まれにくい運用になっているか
という視点で考えることが大切です。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

