パートや有期契約社員を雇用している企業にとって、「同一労働同一賃金」は避けて通れないテーマです。大企業の話だと思われがちですが、規模の小さい会社でも例外ではありません。むしろ、正社員と非正規社員の距離が近く、同じ仕事を任せているケースが多い企業ほど、影響を受けやすいのが実情です。ここで重要になるのが「同一労働同一賃金ガイドライン」の理解と実務対応です。
目次
同一労働同一賃金ガイドラインとは何か
同一労働同一賃金ガイドラインとは、正社員と非正規雇用労働者との間に、不合理な待遇差を設けてはならないという原則を具体的に示した指針です。法律そのものではありませんが、裁判や労働局の判断において重要な基準となります。
ポイントは、「同じ会社で働く労働者同士」の比較であること、そして「待遇差がある場合には合理的な説明ができるか」が問われることです。単に雇用形態が違うという理由だけでは、待遇差を正当化できません。
50名以下の企業が直面しやすい課題
規模の小さい企業では、「正社員だから何でもやる」「パートだから補助的業務」といった役割分担が曖昧になりやすい傾向があります。実際には、パート社員が正社員とほぼ同じ業務を担っているケースも少なくありません。
しかし、賃金水準や賞与、手当の支給有無に大きな差がある場合、説明ができなければ不合理と判断されるリスクがあります。特に通勤手当、家族手当、賞与、退職金などは、トラブルになりやすい項目です。
「不合理な待遇差」とは何か
ガイドラインでは、基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などについて、どのような場合に差が許され、どのような場合に問題となるのかが示されています。
判断の基準は、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」です。例えば、責任の重さや転勤の有無、将来的な役割の広がりなどが異なれば、一定の差は認められる可能性があります。
ただし、「昔からそうしている」「正社員だから当然」という説明では足りません。客観的に整理し、言語化できるかどうかが重要です。
説明義務への対応も重要
非正規雇用労働者から「なぜこの待遇差があるのですか」と求められた場合、会社には説明義務があります。ここで曖昧な回答をすると、不信感が高まり、紛争に発展する可能性があります。
実務上は、待遇差の理由をあらかじめ整理し、社内で共有しておくことが不可欠です。就業規則や賃金規程と実態が一致しているかも確認する必要があります。
対応の第一歩は「棚卸し」
対応の出発点は、現在の雇用区分ごとの業務内容と待遇を棚卸しすることです。誰がどんな仕事をしているのか、どの手当が支給されているのかを一覧にして比較します。
そのうえで、「なぜ差があるのか」を説明できない項目があれば、制度の見直しか、業務内容の整理が必要になります。単純に賃金を引き上げるだけでなく、役割や責任の再設計も検討対象です。
まとめ:放置するとリスクは大きい
同一労働同一賃金ガイドラインは、大企業だけの問題ではありません。少人数の組織でも、実態が伴っていなければ紛争リスクは十分にあります。
重要なのは、「差があるかどうか」ではなく、「差を説明できるかどうか」です。制度と実態を整合させ、合理的に説明できる状態をつくることが、安定した労務管理につながります。規模が小さいからこそ、今のうちに整理しておくことが将来のトラブル防止につながります。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

