姫路の特定社労士が解説|「時給100円」のブラックインターンは他人事ではない——インターン生が「労働者」になる境目と、中小企業の受け入れ方

姫路の特定社労士が解説|「時給100円」のブラックインターンは他人事ではない——インターン生が「労働者」になる境目と、中小企業の受け入れ方

2026年9月18日

2026年9月12日、読売新聞オンラインが「ブラックインターン」の被害を報じました。就業体験のはずが、学生への指導はほとんどなく、成果報酬型で計算すると時給は100円ほど。記事には900件を超えるコメントがつき、その多くは、学生の弱い立場につけ込む企業への怒りでした。

私も読んで腹が立ちました。ただ、この話を「悪質な会社がやったこと」で片づけてしまうと、中小企業が本当に気をつけるべきところを見落とします。今日はそれについて、私の持論をお話しします。


目次

  1. 「時給1,300円」のはずが、手元に残ったのは月5,000円
  2. インターン生が「労働者」になるかどうかは、呼び名では決まらない
  3. 「君たちの大学では就活の勝ち組になれない」——違法かどうかより先に問われる一言
  4. 悪気のない「社会勉強」が、いちばん気づかれにくい
  5. 求人倍率8.98倍の中小企業は、学生から選ばれる側にいる
  6. インターン生に「何を持って帰ってほしいか」、受け入れる前に言えるか
  7. よくある質問
  8. まとめ

「時給1,300円」のはずが、手元に残ったのは月5,000円

記事に登場するのは、二人の女子学生です。

一人目は、都内の私立大学に通う4年生(22歳)です。3年生だった2025年春の3か月間、就職支援会社の長期インターンに参加しました。きっかけは、サークルやアルバイトで目立った活躍をしていない、就活でアピールできることがない、という焦りでした。募集要項には「マーケティングに携われる」と書かれていましたが、実際の仕事はリストを見ながら学生に電話をかけ、就職相談を勧めることでした。

報酬は時給1,300円のはずでしたが、ふたを開けてみると、個別面談に来た人数に応じた成果報酬型でした。週3日、1回3〜4時間働いて、手元に入ったのは1か月でたった5,000円です。それでも「エントリーシートに書くには3か月は必要」というSNSの体験談を信じ、最後まで我慢しました。本人は「単純作業だけで、学びは何もなかった」と振り返っています。

二人目は、九州の大学に通う3年生です。学生が主催する就活勉強会に参加したところ、主催していたのは実は就職支援会社のインターン生で、学生を集めること自体が業務の一環でした。その場で社長が「君たちの大学では就活の勝ち組になれない。我が社の長期インターンで学べば、大手企業に就職できる」と呼びかけ、彼女は長期インターンへの参加を決めました。

すると今度は自分がイベントを企画するよう指示され、集客ノルマまで課されました。周りに声をかけると、「ネズミ講みたいで怪しい」と離れていった友人もいました。精神的に追い詰められた彼女は大学に通えなくなり、就活も休んでいます。

大学側も手を打っていて、大東文化大学は2026年度、ブラックインターンに関する学生からの相談が例年より増えたことを受け、ホームページに典型例を載せて注意を呼びかけています。中央大学も「学生を単なる労働力として扱う企業もある」として、キャリアセンターへの相談を勧めています。


インターン生が「労働者」になるかどうかは、呼び名では決まらない

まず、法律の話を整理しておきます。「インターンシップという名目なら、どんな内容でも賃金を払わなくてよい」とは限りません。

旧労働省(現・厚生労働省)は、1997年9月18日付の通達(基発第636号)で、インターンシップの学生が労働基準法上の「労働者」に当たるかどうかの考え方を示しています。実習が見学や体験的なもので、会社から業務の指揮命令を受けているとはいえない場合は、労働者に当たりません。一方で、直接生産活動に従事するなど、作業による利益や効果が会社に帰属し、会社と学生の間に使用従属関係があれば、労働者に当たるとされています。つまり、中身が会社の業務で、会社の指揮命令を受けているなら、呼び名がインターンでも学生は労働者になりうるのです。判断は、個々の実態に即して行われます。

労働者に当たれば、原則として最低賃金法や労働基準法、労災保険が適用され、時間外労働があれば割増賃金も必要です。「成果報酬型だから最低賃金は関係ない」という理屈も成り立ちません。出来高払いでも、その期間の賃金総額を総労働時間で割った額が最低賃金を下回れば、差額を払う必要があります。兵庫県の最低賃金は現在1,116円で、2026年10月1日から1,172円に上がります。

リストを見て電話をかけ続ける仕事や、イベントの集客は、見学や体験というより、会社の売上に直結する業務です。記事の中で労働問題に詳しい鯵坂和浩弁護士も、単純作業や雑務が業務に組み込まれていて学びの機会が少ない場合は労働者として扱われ、企業には適正な賃金や残業代の支払い義務が生じると指摘しています。


「君たちの大学では就活の勝ち組になれない」——違法かどうかより先に問われる一言

時給100円は、法律の問題です。ですが、私が記事を読んで一番引っかかったのは、金額ではありませんでした。社長が学生に向けた、あの一言のほうです。

この言葉そのものを取り締まる法律はありません。それでも、相手の自己評価を先に下げておいて、「うちに来るしかない」と思わせるやり方は、人を雇う側が使ってはいけない手口だと私は考えています。

学校名で人の伸びしろが分かるなら、採用面接はとっくに5分で終わっています。中卒で国立高専を半年で辞めた私が社労士をやっているくらいですから、人の伸びしろは、会ってみないと分かりません。あなたの会社では、履歴書の学校名だけで、会う前に判断していないでしょうか。


悪気のない「社会勉強」が、いちばん気づかれにくい

この記事を読んで「うちはそんなひどいことはしていない」と感じた経営者の方は多いと思いますし、実際その通りだと思います。ただ、似た構図は悪意のない会社でも起きます。たとえば、次のような場面を想像してみてください。

  • 夏休みに、取引先の大学生の息子さんを「社会勉強」として1週間預かる
  • 人手が足りないので、初日だけ説明して、2日目からは倉庫の片付けや発送作業を手伝ってもらう
  • 終わったら交通費だけ渡して、「いい経験になったでしょう」と送り出す

社長に悪気はなく、むしろ面倒を見てあげたつもりでいます。ですが、2日目からの中身は、会社の業務を無給で手伝ってもらっている状態に近く、先ほどの通達の考え方に照らせば、労働者として扱うべき場面になりかねません。何より、その学生は何も学べないまま帰り、「あの会社には就職したくない」と友人に話すかもしれません。ブラックインターンを他人事として読むと、この構図に気づけないのです。


求人倍率8.98倍の中小企業は、学生から選ばれる側にいる

記事には、もう一つ見逃せない数字が載っていました。大手の求人検索サイトの運営会社によると、2026年春に卒業した大学生などの求人倍率は、従業員300人未満の企業で8.98倍、従業員5,000人以上の企業では0.34倍でした。学生から見れば大企業は狭き門で、中小企業は選択肢がいくらでもあります。中小企業のほうが、学生から選ばれる側にいるということです。

同社の調査では、2026年春の卒業生の7%が2か月以上の長期インターンに参加していて、2年前の3倍強に増えています。学生は「周りと差をつけたい」と焦っていますし、大学も保護者も、インターンを募集する会社をこれまで以上に慎重に見るようになるでしょう。まっとうに受け入れている会社まで、同じ目で見られることになります。

インターン生を「安く使える人手」と見た瞬間に、中小企業は採用の土俵から自分で降りることになります。インターンの期間は、数日でも数か月でも、学生がその会社で働く自分を想像する時間であり、会社にとっては採用定着のいちばん最初の入口です。


インターン生に「何を持って帰ってほしいか」、受け入れる前に言えるか

では、受け入れる前に何を用意しておけばいいのか。制度(ハード)と、担当者の関わり方(ソフト)に分けて整理します。

紙に書いておくこと

  • 何を体験してもらうのか、目的と1日ごとの中身
  • 会社の業務として作業をしてもらうなら、雇用契約と、最低賃金以上の賃金
  • 担当者の名前と、毎日の振り返りの時間
  • 募集案内に書く内容と、実際にやってもらうことが一致しているか

最後の項目は、一人目の学生が見た募集要項に「マーケティングに携われる」と書かれていた話、そのものです。案内に書いたことと実際にやらせることがずれた瞬間に、学生の信頼は壊れます。

担当者と話しておくこと

  • 初日に「この期間で、あなたに何を持って帰ってほしいか」を言葉で伝える
  • 1日の終わりに、学生が感じたことを学生自身の言葉で話してもらう
  • 最終日に、良かった点と伸ばせる点を具体的に伝える
  • 学生の不安を煽る言葉や、学校名で決めつける言葉を使わない

紙の上で整えても、担当者が「適当に手伝ってもらって」と丸投げすれば中身は変わりませんし、担当者の人柄だけに頼っていると、人が替わった年に崩れます。受け入れる目的を現場の社員にも伝え、社員が自分の仕事を自分の言葉で学生に語れる余地を残しておくと、学生は「この会社の人は、仕事の話を楽しそうにする」という印象を持ち帰ってくれます。


よくある質問

Q. 無給のインターンは、それだけで違法になりますか?

A. 無給であること自体が、直ちに違法になるわけではありません。会社の見学や、社員から仕事の説明を聞く、体験として簡単な作業をしてみる、といった内容で、業務の指揮命令を受けていなければ、一般的には労働者に当たらず、賃金の支払い義務も生じないと考えられます(最終的には実態で判断されます)。問題になるのは、呼び名はインターンでも、中身が会社の業務になっている場合です。迷ったときは、「この学生がいなかったら、この作業を社員かアルバイトに頼んでいたか」と自問してみてください。答えが「頼んでいた」なら、雇用契約を結んで賃金を払う前提で考えるほうが安全です。

Q. 知り合いの大学生に、夏休みだけ手伝ってもらうのはインターンになりますか?

A. 手伝ってもらう内容が会社の業務であれば、インターンではなく短期のアルバイトとして考えるべきです。知り合いだから、短期間だから、という理由で雇用契約や賃金の支払いを省いてよいことにはなりません。労働条件を書面で示し、最低賃金以上を支払い、労災保険の手続きが済んでいるかを確認しておくことが、学生本人と、紹介してくれた知人との関係の両方を守ります。


まとめ

「時給100円」のブラックインターンには、法律の問題とモラルの問題が重なっています。法律の面では、呼び名がインターンでも、中身が業務なら労働者として賃金を支払う必要があります。モラルの面では、「君たちの大学では就活の勝ち組になれない」のように、相手の不安を煽って囲い込む言葉は、払うものを払っても消えない傷を残します。

そして、これを遠い会社の話として読むと、悪気のない「社会勉強」が同じ構図になっていることに気づけません。中小企業にとって、インターンは学生を安く使う場ではなく、学生から選ばれるための最初の場です。

社長自身が本気になって「学生から見て、うちのインターンはどう見えているだろう」と問い続けてほしいのです。

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