小田急電鉄は2026年4月16日から、全70駅で、駅員の胸に「録画中」と表示されるウェアラブルカメラを導入しました。ITmediaビジネスオンラインが2026年9月8日に配信した記事によると、導入してからの3か月間、暴力を伴うカスハラは1件も起きていません。
私はこの記事を読んで、あのカメラは、会社が従業員に向けた「あなたを守ります」という宣言だと感じました。
目次
目次
- 小田急のカメラで、暴力を伴うカスハラが0件に
- 「録画中」は、お客さまと従業員の両方に向けた宣言
- AIが仕事を変える10年、店員に当たる人は減らない
- 2026年10月1日から、中小企業に義務になること
- カメラがなくてもできる、ハードとソフトの「守ります」
- よくある質問
- まとめ
小田急のカメラで、暴力を伴うカスハラが0件に
小田急は、トラブルへの対応や構内の巡回など、使う場面を決めたうえで全70駅にカメラを入れました。
ITmediaビジネスオンラインの取材に対して担当者が示した数字を見ると、前の年の同じ時期に6件あった暴力を伴うカスハラが、導入後の3か月では0件になっています。暴力を伴わないものも含めると、10件から5件に減りました。その5件も、すべて駅員がカメラをつけていない場面で起きたものです。
担当者は、期間が短く導入との直接の関係は分からないとしたうえで、駅員の心理的な負担が軽くなり、安心感が上がったことも効果として挙げています。私が一番大事だと思うのは、この安心感です。
同じ記事で紹介されている日本民営鉄道協会の集計では、鉄道の係員に対する暴力は、コロナ禍でいったん減ったあと、2025年度には590件と、コロナ前の2019年度の581件を上回る水準に戻っています。
「録画中」は、お客さまと従業員の両方に向けた宣言
あの「録画中」の表示は、2つの方向に向いています。
1つは、お客さまに向けてです。「この駅では、駅員への暴言や暴力を会社として見過ごしません」という意思表示になります。もう1つは、従業員に向けてです。「理不尽な客からのクレームには、あなた一人ではなく会社が向き合う」という約束になります。駅員の安心感が上がったのは、映像が残るからというより、会社が自分の側に立ってくれていると実感できたからだと、私は見ています。
そして私は、この宣言がこれからもっと必要になると考えています。
AIが仕事を変える10年、店員に当たる人は減らない
生成AIやAIエージェント、体を持って現実の世界で動く「フィジカルAI」、つまりロボットのようなものが広がれば、10年後には多くの人の仕事がなくなるとまで言われています。仕事がなくなった人の生活は、ベーシックインカムのような仕組みで支えればいい、という話もまことしやかに語られています。
実際にそうなるかどうかは、別の話です。ただ、仕事の形が大きく変わっていくなかで、人の幸福感は落ちていく可能性が高いと、私は予測しています。そうなれば、意味の分からない事件が起き、店員に当たる人も必ず増えていきます。
だからこそ、カスハラ対策は絶対に必要です。対策がなければ、人が働けない時代が来るかもしれないとさえ思っています。
これは遠い未来の社会の話ではなく、店頭や受付、電話口に人を立たせている中小企業にとっては、採用と定着そのものの話です。「理不尽な客が来たら、あなたが一人で耐えてください」という会社に、これから人は来ませんし、残りもしません。
2026年10月1日から、中小企業に義務になること
2026年10月1日からは、カスハラから従業員を守る方針を決めて社内に知らせることをはじめ、相談窓口の設置、カスハラが起きたときの対応手順、特に悪質なケースへの備えを整えることが、会社の規模を問わず義務になります。
お客さまに向けて方針を知らせることや、録音・録画を入れることは、義務ではありません。ただ、国の指針でも効果的な取り組みとして挙げられています。法律が求めているのは社内の体制で、それをお客さまに向けて言い切るかどうかは、社長が決めることです。
カメラがなくてもできる、ハードとソフトの「守ります」
中小企業が、専用のカメラを全員に配る必要はありません。カスハラ対策には、仕組みとしての「ハード」と、社長や上司の気持ちと行動である「ソフト」の両輪が必要です。
ハード(仕組み・決めごと)
- 店頭や受付に、「当社は従業員を大切にしています。暴言や威圧的な言動があった場合は、対応をお断りすることがあります」という趣旨の貼り紙を出す(クリニックや介護事業所のように、法律上サービスを断りにくい業種では、文言を個別に確認してから使う)
- 電話に「トラブル防止のため、通話を録音させていただきます」というアナウンスを入れる
- 困ったときに誰を呼ぶかを決めておく。小田急がカメラと一緒に、警備会社へ通報できる非常ペンダントを持たせているように、呼べば誰かが来る状態をつくる
- 理不尽な要求には一人で対応させず、上の立場の人が代わる、というルールを紙に書いて知らせる
ソフト(関わる人の気持ち・誠意)
朝礼で一言でいいので、社長の口から言ってください。「理不尽なクレームは、会社が対応する。あなた一人で抱えなくていい」。紙で回すと、この言葉は届きません。そして、実際にカスハラが起きたときに、社長や上司が本当に前に出ることです。宣言したのに守らなかった会社は、宣言しなかった会社より信用を失います。「守ると言っていたのに、結局あのとき誰も来なかった」。この経験を一度でもした従業員は、二度と会社を信じません。
貼り紙だけ出して、いざというとき社長が出てこなければ、あの貼り紙は嘘になります。社長がいくら本気でも、夜のシフトで誰を呼ぶのかが決まっていなければ、現場は一人で耐えるしかありません。ハードとソフトがそろって、初めて「守ります」は本物になります。
よくある質問
Q. 録音や録画を入れたら、従業員から「監視されているみたいだ」と言われました
A. そう受け取られるのは、目的が伝わっていないときです。先に、何のために入れるのかを社長の口から説明してください。「これは、あなたたちを守るための記録です。仕事ぶりの評価や、サボっていないかの確認には使いません」。
そして、言ったことを紙にも書いておきます。小田急がプレスリリースで「定めた目的以外では一切使用しません」と書き、使う場面を限定しているのも、同じ考え方です。何に使い、何に使わないかを先に決めて伝えておけば、同じカメラが「見張り」ではなく「お守り」に変わります。
Q. お客さまとのやり取りを録音・録画するときに、気をつけることはありますか
A. 決めておきたいのは3点です。録音・録画していることを相手に分かる形で示すこと、データを誰が管理していつ消すのか、何の目的で使うのかです。個人情報保護法などを守ることは、厚生労働省の指針でも求められています。
小田急では、データは駅長が管理し、約50時間分を超えると古いものから消える仕組みです。「録画中」の表示、駅長の管理、約50時間での上書き。この3つは、そのまま中小企業のルールの見本になります。
まとめ
小田急の「録画中」のカメラが守っているのは、映像ではなく、駅員が安心して窓口に立てる状態です。
AIで仕事の形が変わっていくこれからの時代、店員に当たる人は増えていくと私は見ています。だからこそ、中小企業に同じカメラは要らなくても、「守ります」の宣言は要ります。貼り紙と録音のアナウンス、誰を呼ぶかのルールというハードを整え、社長が自分の口で「会社が対応する」と伝えて、実際に前に出る。そのソフトまでそろった会社で、従業員は「ここなら続けられる」と感じます。
「当社はあなたを守ります」と言い切るのに、義務になるのを待つ必要はありません。どんな貼り紙が合うかは、業種やお客さまの層によって変わります。「うちは従業員を守る」と決め、そのやり方を考え続けている会社は、採用でも定着でも強くなります。
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。

