2026年9月23日、東京商工リサーチが、鳶工事業の倒産が2026年1月から8月までで110件に達したと発表しました。前年の同じ時期より26.4%多く、100件を超えたのは2010年以来、16年ぶりです。倒産した会社の91.8%は従業員10人未満の会社で、鳶職人を含む建設躯体工事の仕事の有効求人倍率は7.94倍。仕事を探している人1人に、8件近い求人が集まっている計算になります。
東京商工リサーチは、採用が難しいことに加えて、高い技能と経験が要る仕事であることが、若手を育てる足かせになっていると分析しています。ですが、建設業のお客さんを何社も見てきた私は、職人不足だけが倒産の原因だとは思っていません。人が来ない会社には、鳶に限らず共通していることがあるからです。
今日はそれについて、私の持論をお話しします。
目次
目次
- ニュースの概要
- 人が来ない会社は、欠員補充しかしていない
- 人が来ない本当の原因は、社長に経営理念がないこと
- 経営理念が分からない社長が、自分に問いかけるべき3つの質問
- 経営理念がない会社は、採用も育成も後手後手に回る
- 若手が集まる会社は、経営理念をもとに3年後・5年後から逆算して準備している
- 求人原稿は、給料や仕事内容より先にWhyを書く
- よくある質問
- まとめ
ニュースの概要
鳶職人は、足場を組み、鉄骨を建て、建設現場の骨組みをつくる仕事です。「現場の花形」と呼ばれてきた仕事ですが、東京商工リサーチの集計では、2026年1月から8月までの倒産(負債1,000万円以上)が110件に上りました。1月から8月の期間でこれまで最も多かったのは、リーマン・ショックの翌年、2009年の105件で、今年はそれを上回っています。単純に計算すると、年間では165件前後になります。
倒産の原因は、売上不振が78件、赤字の積み重ねが24件で、業績不振が9割を超えています。資本金1,000万円未満の会社が98件、従業員10人未満の会社が101件と、倒産したのはほとんどが小さな会社です。人手不足が原因の倒産も19件と、前年の同じ時期の10件からほぼ倍に増えました。そのうち従業員の退職がきっかけになったものは、前年の3件から7件に増えています。
私が一番気になったのは、同じ記事の後半にある数字です。5期分の決算を比較できる鳶工事業者1万5,941社で見ると、売上高の合計は3兆2,165億円で4期連続の増収、純利益の合計も前の期より24.4%増えています。業界全体では仕事も利益も増えているのに、潰れているのは小さな会社なのです。完工高が1億円未満の会社では37.5%が赤字で、10億円から50億円の会社の赤字率7.0%と比べると、差ははっきりしています。東京商工リサーチは、大手・中堅と中小・零細では、採用と価格交渉の力に差がついていると指摘しています。
倒産の直接の原因は、9割が業績不振です。ただ、業界全体の仕事は増えています。その中で小さな会社だけが業績を落としているのは、仕事を受けたくても、会社がそれをこなす人を採れず、育てられず、せっかく入った人にも辞められているからではないか。私は、ここに鳶に限らない中小企業の問題があると考えています。
人が来ない会社は、欠員補充しかしていない
建設業のお客さんを見ていて、よく目にするのは、採用が常に欠員補充になっていることです。職人が1人辞めたら、慌ててハローワークに求人を出す。求人票は前に出したものをほぼそのまま使い回していて、仕事の内容の欄には「足場の組立・解体」「未経験者歓迎」と数行書いてあるだけ、ということも珍しくありません。
そのうえで、社長はこう言います。「昔はハローワークに出せば採れたんやけどな」。昔は採れた、というのは事実だと思います。ですが、7.94倍という数字は、求職者の側が8件近い求人の中から会社を選べる、ということです。求職者が選ぶ側に回ったのに、会社の求人は昔のまま何も変わっていないのです。
若い人は、ハローワークの求人票だけで会社を決めません。スマートフォンで会社名を検索し、ホームページがあるか、どんな人が働いているか、Googleの口コミに何が書かれているかまで見ています。そこで何も出てこない会社、数行の求人票しかない会社は、候補にすら入りません。
人が来ない本当の原因は、社長に経営理念がないこと
では、なぜ求人票を書き直さないのか。私は、書き直したくても、書けることがないのだと考えています。
求人票に本当に書くべきなのは、「この会社は何のために仕事をしているのか」と「この会社に入ったら、自分はどうなれるのか」です。ところが、人が来ない会社の社長に聞いてみると、欲しい人材がはっきりしていません。なぜこの仕事をしているのか、と聞いても、答えが返ってこない社長が少なくありません。そもそも、経営理念がないのです。
大手から仕事をもらい、その日の現場をこなして稼ぐ。体を張る仕事を真面目に続け、何十年も会社を守ってきたこと自体は、立派な実績です。ですが、「仕事があるから、こなしている」だけでは、若い人に「うちに来てほしい」と言える理由になりません。
経営理念が分からない社長が、自分に問いかけるべき3つの質問
経営理念と言われても、何を書けばいいのか分からない。そういう社長は、次の3つを自分に問いかけてみてください。
- あなた(経営者)は何のために今の仕事をしているのか?
- 今の仕事を通じて、あなたは社会やお客さんの何を解決したいのか?
- 他社と御社の違いは何なのか?(御社でなければならない理由)
額に入れて飾るような立派な言葉は要りません。「この地域の建物を、地元で育った職人の手で建てたい」「元請から、あそこの足場なら安心やと言われる会社でいたい」。社長がふだん口にしている言葉の中に、答えはたいてい入っています。この3つの答えが、刺さる求人原稿を書くうえでの核となります。
経営理念がない会社は、採用も育成も後手後手に回る
経営理念がない会社は、採用の順番も逆になります。とにかく仕事がある。社長自身の手が回らなくなる。だから人を雇う。そこで考えるのは「いくらで雇えるか」だけで、何の準備もしていないのですから、求人で示せるものは賃金の額しか残っていません。賃金の額だけで勝負すると、7.94倍の市場では、完工高で何十倍も違う大手・中堅の会社にまず勝てません。
こうした会社は、採用だけがうまくいっていないわけではありません。経営そのものがザルで、キャッシュフローもザル、経営計画もありません。採用は、本来いちばんの経営課題です。それなのに、そこへの意識がまったくない。経営計画がないということは、採用計画も育成計画もないということで、これでは採用も育成もうまくいくはずがありません。
従業員10人未満の会社で若手が辞めていく最後の理由は、育てる環境がないことです。親方が現場を回しながら、横について新人に教えてくれるなら、まだマシなほうです。実際には横で教えることもなく、「とりあえずやってくれ」と言うだけ、という現場が珍しくありません。新人は何を覚えればいいのか分からないまま、1年経っても自分が何をできるようになったのか分からず、辞めていきます。退職がきっかけの倒産が3件から7件に増えたのは、件数としては小さな数字ですが、私がお客さんの現場で見ている実感とも重なります。
本当は、社長自身が職人で、横について仕事を教えてもらえる環境は、新人にとってめちゃめちゃありがたいものです。社長から直接技術を教われるのは、大手にはまねのできない、中小企業のいちばんの強みです。その強みを使わずに「とりあえずやってくれ」で済ませてしまうのは、本当にもったいないことです。
若手が集まる会社は、経営理念をもとに3年後・5年後から逆算して準備している
一方で、同じ建設業でも、同じくらいの規模でも、若手が集まり、辞めない会社はあります。そういう会社の社長は、自分が何のためにこの仕事をしているのかを言葉にしたうえで、3年後、5年後から逆算して、前もって準備をしています。
3年後に現場を何班回したいのか。そのために、いつまでに職長を何人育てる必要があるのか。だとすれば、今年は何人採って、誰が教えるのか。こうして逆算していくと、欠員が出る前に採用を始めることになりますし、欲しい人材も「3年後に職長を任せられる20代を1人」というところまで決まっていきます。
人が集まる会社は、時代の変化にも敏感です。生成AIの台頭で、事務の仕事がAIに置き換わると言われる中、体を動かして手に職をつけるブルーカラーの仕事の人気が、今とても高まっています。人気が高まるということは、当然、人の取り合いも激しくなるということです。実際に、「うちは月収100万円出すよ」と打ち出す中小企業も、どんどん現れています。
そこで、「そんなの俺はもらってねえから、払わないよ」と考えるのか。それとも、時代がこうなのだからチャンスだと捉え、100万円払ってでも人を採って仕事を取ったほうが儲かる、と考えられるのか。ただただ「入ったばかりのやつに月100万円なんてありえない」で終わらせるのか、3年後・5年後の売上と利益から逆算して、払える額と払う理由を考えるのか。この逆算思考があるかどうかが、決定的な違いです。
そして、従業員がどうすれば成長できるのか、評価制度をどうするのかも、従業員の目線で考えています。私は、会社の仕組みを「ハード(制度・ルール)」と「ソフト(日々の対話や声かけ)」の両輪で考えるようにお伝えしています。何ができるようになったら日給がいくら上がるのかを紙に書いて見せるのが、ハードです。そのうえで、親方や社長が月に1回は新人と話をして、「この前の現場、よう段取りできとったな」と、できるようになったことを言葉にして伝えるのが、ソフトです。約束が紙に書いてあり、それを日々の声かけで確かめられるから、若手は「この会社でもう少し頑張ってみよう」と感じます。
求人原稿は、給料や仕事内容より先にWhyを書く
求人原稿は「Whyから始めよ」と言われます。私の書籍でもお伝えしていますが、応募者の心を動かすのは、給料や仕事内容の前に書かれた「なぜ、この会社はこの仕事をしているのか」です。
20歳の若者の立場で考えてみてください。「未経験者歓迎、日給1万2,000円〜」とだけ書かれた会社と、「地元の建物を、地元で育った職人の手で建てる。そのために、3年で一人前の鳶職人に育て、5年後には職長として現場を任せたい」と書かれた会社があれば、どちらに話を聞きに行くかは明らかです。後者の会社は、給料の額を一言も書いていません。何のために働くのかと、入った後の自分の姿を、応募する前に見せているのです。
従業員10人未満の会社に、大手と同じ採用サイトをつくれとは言いません。ですが、求人原稿を書く順番を変えることは、お金をかけずに社長1人でできます。
- 経営理念(Why):4章の3つの質問への答えを、原稿の核として書く
- 欲しい人材:その経営理念に共感して、一緒に働いてほしいのはどんな人かを書く
- 入社後の姿:1年目・3年目・5年目にどうなれるのか、誰が教えるのか、何ができたら給料がいくら上がるのかを書く
- 給料や仕事内容:最後に書く
給料や仕事内容しか書いていない求人は、給料の額で比べられて終わります。Whyから書いた求人は、「この会社で働く自分」を応募者に想像させることができます。
よくある質問
Q. 従業員が5人ほどの会社で、経営理念と言われても大げさな気がします。それでも必要ですか?
A. 必要です。むしろ、5人の会社ほど欠かせません。大きな会社のような立派な言葉でなくて構いません。何のためにこの仕事をしているのか、お客さんの何を解決したいのか、うちでなければならない理由は何か。この3つに社長が答えられれば十分です。社長が自分の言葉で話せることが、若い人にとっては一番の安心材料になります。
Q. ハローワークの求人票は書ける欄が限られています。どこにWhyを書けばよいですか?
A. 書く場所は、仕事の内容の欄でなくても、どこでも構いません。大事なのは、できるだけ早い段階で目に入ることです。ハローワークの求人票は1枚目と2枚目に分かれていますが、2枚目に書くのではなく、1枚目の早い段階で見てもらえるように書いてください。そうしないと、ただ労働条件が並んだだけの、誰にも刺さらない求人原稿にしかなりません。書き切れない分は、会社のホームページやSNSに載せ、求人票からそこへ案内する形にしてください。
まとめ
鳶工事業の倒産は、2026年1月から8月までで110件と、16年ぶりに100件を超えました。倒産した会社の91.8%は従業員10人未満です。業界全体では売上も利益も増えているのに、小さな会社から潰れています。
職人が少ないのは事実です。ですが私の見立てでは、人が来ない会社は欠員補充しかしておらず、その根っこには、社長に経営理念がないことがあります。だから求人票に書けることがなく、「いくらで雇えるか」しか考えられず、採用も育成も後手後手に回ります。同じ7.94倍の中でも若手が集まる会社はあり、差がつくのは、若い人が求人を見て「ここで働く自分」を想像できるかどうかです。
まずは3つの質問に答えて、経営理念を言葉にしてください。そして求人原稿は、給料や仕事内容より先に、そのWhyから書き始めてください。
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