生成AIで「就業規則チェック」をやってみた——実際の使い方と正直な限界

生成AIで「就業規則チェック」をやってみた——実際の使い方と正直な限界

2026年6月12日




「ChatGPTに就業規則を読み込ませれば、問題点を指摘してくれるんじゃないか?」

経営者からよく聞くようになった質問です。確かに、生成AIの進化は目覚ましい。就業規則のような文書を読んで分析することも、技術的には可能になってきています。

今日は、実際に当社(C&P社労士法人)で生成AIを就業規則チェックに活用してみた経験をもとに、「はまる部分」と「正直な限界」を両方お伝えします。


目次

  1. 「AIで就業規則チェック」への期待と現実
  2. 当社が実際にやっていること——AIを活用できる前提条件
  3. 正直な精度:AIは約70%、残り30%は経験が必要
  4. 「AIに読み込ませるだけ」では何が足りないのか
  5. まとめ:AIは補助ツール。使いこなすには土台が必要

「AIで就業規則チェック」への期待と現実

就業規則は、会社と従業員の関係を規定する重要な文書です。古いまま放置されている、法改正に対応できていない、実態と乖離している——こうした問題を抱えている中小企業は少なくありません。

「でも、社労士に頼むとお金がかかる」「まず自分でざっくりチェックしたい」という気持ちはよく理解できます。そこでAIの出番、というわけです。

では、実際に就業規則をAIに読み込ませると何が起きるでしょうか。

試してみると、AIは「法定記載事項が揃っているか」「表現として曖昧な箇所はないか」といった表面的な確認は一定レベルでこなします。法律の条文と照らし合わせた基本的なチェックは可能です。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。


当社が実際にやっていること——AIを活用できる前提条件

当社では、就業規則チェックに生成AIを実際に活用しています。ただし、普通の使い方ではありません。

当社が長年の支援で蓄積してきた、独自のチェックポイントと判断基準をAIに事前に学習させた上で使っています。

どういうことか。就業規則の問題は、法律の条文に違反しているかどうかだけでは判断できません。「この表現は将来トラブルになる」「この会社の業種・規模では、この条項は現実的に運用できない」——こうした判断は、実際に多くの中小企業を支援してきた経験から生まれるものです。

当社はそのノウハウを言語化し、AIに読み込ませることで、より精度の高いチェックを実現しています。

ただし、これは一般の経営者にはまず再現できません。「専門的なノウハウを言語化してAIに学習させる」という作業自体に、深い専門知識が必要だからです。


正直な精度:AIは約70%、残り30%は経験が必要

ここが最も正直にお伝えしたい部分です。

当社のように独自ノウハウを学習させた上で使っても、AIによる分析の正確度は約70%程度です。

残り30%は、私が直接ヒアリングをして初めて見えてきます。

なぜか。就業規則の問題は、文書を読むだけでは見えない部分にあることが多いからです。

  • 「規則にはこう書いてあるが、実際の運用はどうなっているか」
  • 「この会社には、過去にこういうトラブルがあったのか」
  • 「経営者はどんな考え方で会社を運営しているか」
  • 「従業員との関係性は、今どういう状態か」

これらはAIが読み取れない情報です。ヒアリングを通じて初めて浮き彫りになる問題点を、AIは見落とします。

70%の精度は決して低くありません。でも、就業規則は30%の見落としが後々の大きなトラブルに直結することもある領域です。「AIで確認したから大丈夫」という油断が、一番危険です。


「AIに読み込ませるだけ」では何が足りないのか

「とりあえずChatGPTに就業規則を貼り付けて、問題点を教えてもらおう」という方法はよく見かけます。これで何もわからないわけではありませんが、信頼できる分析には程遠いと思ってください。

足りないのは3つです。

① 専門知識のベース

AIが出してくる「問題点」が本当に問題なのか、過剰反応なのかを判断するには、法律と実務の知識が必要です。AIの回答をそのまま鵜呑みにすることの危険性は、医療や法律の分野と同じです。

② 会社の実態情報

就業規則は文書だけで評価できません。実際の運用、会社の文化、過去のトラブル経緯——これらをAIは知りません。文書上は問題なくても、運用が違えば意味がない。

③ 優先順位の判断

AIは「問題かもしれない点」を並べることはできますが、「何から手をつけるべきか」の優先順位は出せません。緊急度の高い問題と、後回しにしてもよい問題の判断は、経験がなければ難しい。


よくある質問

Q. AIを使えば、社労士に頼まなくてもよくなりますか?

A. 少なくとも今の段階では、代替にはなりません。AIは「確認の補助」には使えますが、「これで十分」とはなりません。当社でもAIを活用していますが、あくまで経験を持つ私のヒアリングと組み合わせて使っています。AI単体で完結する業務ではありません。

Q. AIで就業規則をチェックする前に、何か準備することはありますか?

A. 試してみること自体を止めません。ただし、「AIで確認したから大丈夫」と思わないことが前提です。AIの出力はあくまで「気になる点のリスト」として扱い、専門家に相談する前の整理材料として使うのが適切です。


まとめ:AIは補助ツール。使いこなすには土台が必要

生成AIは、就業規則チェックの分野にも確実に入ってきています。当社でも活用しています。

しかし正直に言うと、AIは「補助ツール」です。使いこなすには、専門知識・実務経験・ヒアリング力という土台が必要です。

「AIに読み込ませれば解決する」という期待は、今の段階では現実とズレがあります。AIを過信することなく、まず専門家に相談するのが、結果的に一番の近道です。

「うちの就業規則、本当に大丈夫だろうか」と気になっているなら、ぜひ当社にご相談ください。AIも活用しながら、経験を持つ目線でしっかりチェックします。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。