「育児・介護休業法の改正、うちはもう対応したよ」
そう言い切れる経営者は、どれくらいいるでしょうか。
この改正、実は一度で終わっていません。
2025年4月に第一波、10月に第二波と、段階的に施行されてきました。
「聞いたことはある」「たぶん対応した」——そのレベルでは、もう足りない段階に来ています。
今回は、この改正が「いつ」「何が」変わったのかを時系列で整理します。
姫路の中小企業経営者に、今この瞬間に見てほしい内容です。
目次
目次
- 1991年から続く「育児・介護休業法」の改正史
- 2024年5月——改正法成立。何を変えようとしたのか
- 2025年4月——第一波。現場に最初の変化が来た
- 2025年10月——第二波。「働き方の選択肢」が義務になった
- 2026年現在——「対応したつもり」の落とし穴
- 就業規則・運用の点検チェックリスト
- よくある質問
- まとめ
1991年から続く「育児・介護休業法」の改正史
この法律、実は30年以上前に生まれています。
1991年に「育児休業法」として成立し、その後1995年に介護休業の規定が加わって現在の名称になりました。
そこから今日まで、10回以上の改正が重ねられています。
少し振り返るだけでも、これだけの変化があります。
- 2009年——育児休業の対象拡大、短時間勤務制度の義務化
- 2017年——育児休業の最長2年への延長
- 2021年——育児休業取得率の公表義務(大企業)、雇用環境整備の義務化
- 2022年——「産後パパ育休(出生時育児休業)」の創設。子どもの生後8週間以内に最大4週間取れる、父親向けの新しい休業制度
「法改正ってそんなに頻繁にあるの?」と思った方、そうなんです。
社会の変化に合わせて、この法律は常に動き続けています。
そして2024年、またひとつ大きな改正が成立しました。
2024年5月——改正法成立。何を変えようとしたのか
2024年5月、育児・介護休業法の改正法が国会で成立しました。
背景にあるのは、2つの深刻な現実です。
ひとつは、子育て世代の「小1の壁」問題。
育児休業や保育園の支援は充実してきたのに、子どもが小学校に上がった途端に働き続けられなくなる。
学童保育の時間、急な体調不良、学校行事——これまでの制度では守れなかった場面が多すぎた。
もうひとつは、介護離職の急増。
年間約10万人が介護を理由に仕事を辞めています。
その多くは「制度があることを知らなかった」「相談できる雰囲気がなかった」という理由でした。
会社が何もしなければ、ベテラン社員はある日突然「辞めます」と言ってくる。
この2つを解決するために、法律が動きました。
そして変更は、一気にではなく、2025年に2段階に分けて施行されることになったのです。
2025年4月——第一波。現場に最初の変化が来た
2025年4月1日、改正法の第一弾が施行されました。
この時点で、以下の3つが義務になっています。
① 子の看護休暇——「小学校就学前」から「小学校3年生修了」へ
これまでは未就学児(保育園・幼稚園の子ども)が対象でした。
改正後は、小学校3年生が終わるまで(おおよそ9歳)が対象になりました。
取得できる事由も広がっています。
「病気のとき」だけでなく、感染症予防のためのワクチン接種や、学校行事への参加も認められるようになりました。
さらに、取得単位がこれまでの「半日」から「時間単位」でも使えるように。
「うちには子育て中の社員はいない」と思っている会社ほど要注意です。
30代の主力社員が、実は小1・小2の子を持つ親だった——そういうケースは姫路の中小企業でもよくあります。
② 残業免除の対象——「3歳未満」から「小学校就学前」へ
「残業を免除してほしい」と申し出を受けたとき、会社はこれを拒否できません。
この権利、改正前は3歳未満の子を持つ社員だけのものでした。
改正後は、小学校に上がる前(6歳)までの子を持つ社員に広がりました。
「うちは残業してもらわないと仕事が回らない」——この言葉をよく聞きます。
ただ、それは特定の人に仕事が集中している状態のサインでもあります。
この変更を「困った話」で終わらせず、業務の分散と仕組み化を見直すきっかけにできた会社は、結果として離職率が下がっています。
③ 40歳以上の社員への介護制度「個別周知・意向確認」が義務化
介護離職を防ぐために、会社は40歳に達した社員に対して個別に、介護休業や介護短時間勤務の制度を案内し、「利用するつもりはあるか」を確認することが義務になりました。
「掲示板に貼ってある」「入社時に渡した書類に書いてある」では足りません。
一人ひとりに個別に伝え、意向を確認し、その記録を残す。
それが義務です。
介護を抱えた社員が「こんな制度があったのか」と気づくタイミングを、会社が先に作ることが求められています。
2025年10月——第二波。「働き方の選択肢」が義務になった
4月の対応でひと息ついた頃、今度は10月1日に第二弾が施行されました。
「まだあるの?」と感じた経営者も多かったと思います。
④ 3歳未満の子を持つ社員に「柔軟な働き方」の選択肢を提示する義務
3歳未満の子を育てている社員に対して、会社は以下のような複数の選択肢を提示しなければなりません。
- 短時間勤務制度
- 始業・終業時刻の変更(フレックスタイム制、時差出勤など)
- テレワーク(業務上対応できる範囲で)
- 保育施設の設置・利用補助
「テレワークができる職種ではない」「うちには短時間勤務の仕組みがない」という業種もあるでしょう。
ただ、この義務は「すべての選択肢を用意しなければならない」ではなく、
「いくつかの選択肢を提示して、社員が選べる状態にする」ことを求めています。
何も提示しなかった場合が問題です。
製造業や飲食業でも、事務処理の一部を在宅にする、時差出勤を認めるだけで選択肢になります。
提示した記録も残してください。
⑤ 現場仕事で短時間勤務が難しい場合——テレワークが代替措置として認められた
「現場に人がいないと成り立たない仕事だから、短時間勤務は無理だ」
そういう会社向けに、テレワークを代替措置として活用できる仕組みが整備されました。
全面的なテレワークでなくてもかまいません。
「現場作業はできないが、日報の作成や発注業務は自宅でできる」というレベルでも、代替措置として認められます。
「うちには関係ない」ではなく、「できる部分から考える」という姿勢が今は求められています。
2026年現在——「対応したつもり」の落とし穴
2段階の施行が終わった今、多くの会社が「一通りやった」という感覚を持っています。
ところが、現場を確認すると「制度はあるが運用されていない」状態が少なくありません。
よくある「対応したつもり」の落とし穴、3つを挙げます。
- 就業規則は改定したが、社員への周知が一度もされていない
改定した規則を棚に入れたまま、社員は旧ルールで動いている。 - 40歳以上への個別周知・意向確認の記録がない
「口頭で言った気がする」では記録にならない。何年何月に誰に案内したかが残っていないと意味がない。 - 選択肢を提示したが、社員が何を選んだかの記録がない
「提示した」だけでは不十分。社員が選んだ内容と日付が残っていることが必要。
トラブルになったとき、問われるのは「制度があったかどうか」ではありません。
「実際に運用されていたかどうか」です。
記録のない対応は、していないのと同じと見なされることがあります。
就業規則・運用の点検チェックリスト
今からでも遅くありません。以下の項目を一つずつ確認してください。
- □ 就業規則に子の看護休暇の対象年齢(小学3年修了まで)と取得事由の拡大が反映されているか
- □ 就業規則に残業免除の対象(小学校就学前まで)が反映されているか
- □ 40歳以上の社員への介護制度の個別案内を実施し、記録が残っているか
- □ 3歳未満の子を持つ社員への柔軟な働き方の選択肢提示を実施し、記録が残っているか
- □ 改定した就業規則を社員全員に周知しているか(書面・メール・説明会など)
ひとつでも「できていない」にチェックが入ったなら、今すぐ動いてください。
「いつかやる」は「永遠にやらない」に変わります。
よくある質問
Q. 従業員が10人以下の会社でも、今回の改正はすべて対象になりますか?
A. はい、育児・介護休業法は従業員数に関わらず原則すべての会社に適用されます。「うちは小さいから関係ない」という例外はありません。ただし、就業規則の労基署への届出義務(常時10人以上)など、規模によって異なる部分もありますので、自社の状況に合わせて確認することをおすすめします。
Q. 2025年4月・10月の両方に未対応のまま来てしまいました。今から対応しても意味はありますか?
A. 意味はあります。むしろ、気づいた今がもっとも大切なタイミングです。未対応のまま放置し続ければ、社員からの申し出を拒否した際のトラブルや、行政指導のリスクが高まります。就業規則の整備と記録の仕組みを今から整えることで、リスクを大きく減らすことができます。
まとめ:波はすでに2回来ています。今問われるのは「運用できているか」です
改正育児・介護休業法の施行スケジュールを振り返ります。
- 2024年5月——改正法成立。育児支援の拡充と介護離職防止を柱に据えた
- 2025年4月——第一波。看護休暇の拡大・残業免除の拡大・介護周知の義務化
- 2025年10月——第二波。柔軟な働き方の選択肢提示とテレワーク代替措置の義務化
- 2026年現在——「制度があるか」ではなく「運用されているか」が問われる段階
「対応した」と「運用できている」は別物です。
就業規則の改定だけで終わっていないか、記録は残っているか——今一度、現場の実態を確認してください。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

