2026年5月21日、民事裁判の手続きが全面IT化されました。
訴状の提出、証拠のやり取り、判決の受け取りまで、すべてオンラインで完結できるようになりました。
「裁判なんて自分には関係ない」——そう思っている経営者ほど、この変化を見落としてはいけません。
訴訟のハードルが下がった今、未払い残業代・解雇・ハラスメントを巡るトラブルが、これまで以上に法的手段に発展しやすくなっています。
目次
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民事裁判「全面IT化」で何が変わったのか
改正民事訴訟法が2022年に成立し、段階的に施行されてきた裁判のIT化が、2026年5月21日をもって完全に施行されました。
主な変更点は次の通りです。
- 訴状のオンライン提出が可能に(弁護士はオンライン提出が義務化)
- 証拠・準備書面のデジタル共有(紙での郵送が不要に)
- 判決のオンライン受け取り(事前登録で電子送達)
- 口頭弁論のウェブ参加(裁判所に出向かずに参加可能)
これまでは裁判を起こすとなると、弁護士に依頼して、書類を揃えて、裁判所の窓口に持参して——という物理的なハードルがありました。
そのハードルが大きく下がりました。インターネット環境があれば、自宅から訴状を提出できる時代になったのです。
中小企業経営者が知るべき訴訟リスクの変化
「訴訟は大企業の話」——これは過去の話です。
裁判のIT化によって、訴訟を起こすコストと手間が減りました。これは裏を返せば、労働者が会社を訴えやすくなったということです。
これまで「面倒だから」「会社との関係が続くから」と諦めていた労働者が、より手軽に法的手段を取れるようになりました。
特に姫路・播州エリアの中小企業では、従業員との距離が近い分、「まさかうちの社員が」と思いがちです。しかし、距離が近いからこそ、感情的なトラブルに発展するケースも少なくありません。
「泣き寝入り」が「訴訟」に変わる時代
退職した従業員が「残業代が未払いだった」「不当に解雇された」と気づいた時、これまでは「今更どうしようもない」と諦めるケースも多くありました。
しかしオンラインで訴状を出せるようになった今、退職後1〜2年経ってから突然請求が来る可能性が高まっています。
訴えられやすくなる3つの場面
① 未払い残業代
残業代の未払いは、労働基準法上の時効が3年に延長されています(2020年4月以降分)。つまり、過去3年分の残業代を一括請求される可能性があります。
「固定残業代を設定しているから大丈夫」という認識は危険です。固定残業代が有効とされるには、明示すべき要件を満たす必要があり、設計が不十分なケースが多く見られます。
② 解雇・雇止めトラブル
「試用期間中だから」「有期契約だから」という理由で、簡単に辞めさせられると思っている経営者は少なくありません。しかし、解雇・雇止めには法律上の厳しい要件があります。
手続きを踏まずに「今日で終わりで」と伝えた瞬間、それは訴訟の種になります。
③ ハラスメント
パワハラ・セクハラなどのハラスメントは、民事上の損害賠償請求の対象になります。「厳しく指導しただけ」「みんなそうやってきた」という感覚は通用しません。
特に退職後に訴訟に発展するケースが増えており、在職中は何も言わなかった従業員が辞めてから動くというパターンも珍しくなくなっています。
今すぐできる「訴訟リスクを下げる」備え
訴訟リスクを下げる方法は、難しいものではありません。基本的なことを正しくやり続けることです。
① 就業規則を最新化する
就業規則が古いままになっていませんか?法改正に対応していない就業規則は、会社側の主張が通りにくくなる原因になります。特に解雇・ハラスメント・懲戒に関する規定は定期的な見直しが必要です。
② 労働時間を正確に管理する
「うちは自己申告制だから」は、残業代トラブルの際に会社を守りません。タイムカードや勤怠システムで客観的な記録を残すことが、最大の防御になります。
③ 問題が起きた時の記録を残す
遅刻・欠勤・ミス・指導の経緯。これらを記録しておかないと、いざという時に「言った・言わない」の水掛け論になります。日常の記録が、訴訟の際の証拠になります。
④ 解雇・退職時の手続きを丁寧に行う
退職の際に感情的になってしまう経営者は多いです。しかし、退職時の対応が後々の訴訟リスクを大きく左右します。退職合意書の締結、離職票の適切な発行、未払い賃金の精算——これらを丁寧に行うことが重要です。
よくある質問
Q. 訴状をオンラインで出されたら、会社側はどう対応すればいいですか?
A. 訴状が届いたら、まず答弁書の提出期限を確認することが最優先です。期限を過ぎると欠席裁判となり、原告の主張がそのまま認められる可能性があります。速やかに弁護士または社労士に相談し、対応方針を決めることをお勧めします。裁判のIT化により手続きはオンライン化されましたが、会社側の対応の重要性は変わりません。
Q. 少額の残業代請求なら、放置しても大丈夫ですか?
A. 放置は絶対にNGです。少額訴訟や労働審判など、手軽に使える制度が整っています。無視・放置すると会社側に不利な判決が出るだけでなく、遅延損害金が加算されます。また、他の従業員が同様の請求をするきっかけになるリスクもあります。
まとめ
民事裁判の全面IT化は、「訴訟を起こす側」だけでなく「訴えられる側」にとっても大きな変化です。
中小企業経営者が今すべきことは、シンプルです。
- 就業規則を最新の状態に保つ
- 労働時間を正確に記録する
- 問題のある言動・指導の経緯を記録する
- 退職時の手続きを丁寧に行う
「訴訟になってから考える」では遅いのです。日頃の労務管理が、最大の訴訟対策になります。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

