2026年5月、厚生労働省がカスタマーハラスメント対策に関するQ&Aを公表しました。
「どこからがカスハラか」「どこまで対応すればいいか」——企業が抱える疑問に、行政が具体的な指針を示した形です。
2026年10月1日、カスタマーハラスメント対策が事業主の法的義務になります。残り約4ヶ月。準備できていますか?
目次
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カスタマーハラスメントとは何か
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客・取引先・利用者などから受ける、社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動により、従業員の就業環境が害されることです。
具体的には以下のような行為が該当します。
- 長時間にわたるクレームや怒鳴り、暴言
- 土下座や謝罪文の強要
- SNSでの拡散・炎上させると脅す
- 事実と異なる苦情を繰り返す
- 過剰な値引きや無償対応の要求
- 担当者への個人攻撃・つきまとい
「お客様のご要望だから」「クレームは丁寧に対応するものだから」という感覚で、カスハラを黙認・放置してきた職場は少なくありません。しかし、それが従業員を消耗させ、離職や休職につながっています。
2026年10月義務化の内容 ― 企業に求められる3つの措置
改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から全事業主に以下の措置が義務付けられます。
① 方針の明確化と周知・啓発
「カスハラを許容しない」という会社の方針を明確にし、従業員に周知すること。就業規則や社内ルールへの明記が求められます。
② 相談体制の整備
カスハラを受けた従業員が相談できる窓口を設けること。小規模企業であっても、「まず上司に報告」という流れを明確にしておくことが最低限必要です。
③ 発生後の迅速な対応
カスハラが発生した場合の対応手順をあらかじめ定めておくこと。「誰が対応するか」「どこまで対応するか」「どこから断るか」を組織として決めておきます。
違反しても即座に罰則があるわけではありませんが、行政指導の対象になります。また、対応が不十分で従業員がメンタル不調・離職した場合、会社の安全配慮義務違反として民事上の責任を問われるリスクがあります。
厚労省Q&Aで明確になった「カスハラの判断基準」
2026年5月に公表された厚労省Q&Aでは、「どこからがカスハラか」という実務上の疑問に対する指針が示されました。
判断の2軸:「要求の正当性」と「手段・態様」
カスハラの判断は、次の2軸で行います。
- 要求内容の正当性:そもそもの要求が妥当かどうか
- 手段・態様の相当性:要求の仕方が社会通念上許容されるかどうか
たとえば、「商品に問題があったので返金してほしい」という要求は正当です。しかし、「返金しないなら店を潰してやる」「お前の家族を調べてやる」という手段は許容されません。
逆に、要求内容が不当(例:無料でサービスしろ)であれば、穏やかな言い方であってもカスハラになり得ます。
中小企業がつまずきやすいポイント
① 「お客様は神様」文化との葛藤
長年「クレームは全力で対応する」という文化を持つ企業では、「断っていい」「対応を打ち切っていい」という判断がしにくいです。しかし、カスハラを許容し続けることは、従業員を守れない会社として人材が離れる原因になります。
② 就業規則への明記が追いついていない
「カスハラ対策」を就業規則に盛り込んでいる中小企業はまだ多くありません。10月までに就業規則を改定し、「カスハラへの対応方針」と「従業員の相談窓口」を明記することが必要です。
③ 「誰が判断するか」が決まっていない
現場の従業員が一人でカスハラに対応し、判断も一人で行う体制では、従業員を守れません。「これ以上の対応は上司判断」というルールをあらかじめ決めておくことが重要です。
よくある質問
Q. 「お客様は神様」という文化のある職場はどう変わるべきですか?
A. 「お客様を大切にする」ことと「カスハラを受け入れる」は別のことです。正当なクレームには誠実に対応し、社会通念を超えた要求には毅然と断る——この両立が求められます。まず経営者自身が「従業員を守る」という姿勢を明確にし、現場に伝えることが変化の第一歩です。
Q. 従業員数が少なくても義務化の対象になりますか?
A. はい、規模に関係なくすべての事業主が対象です。従業員が数人の小規模事業者であっても、方針の明確化と相談体制の整備が求められます。小規模であれば「まず上司(または経営者)に相談する」という流れを就業規則か社内ルールに明記するだけでも、一定の対応になります。
まとめ
カスハラ対策の義務化まで、残り約4ヶ月です。
今すぐやるべきことは3つです。
- 就業規則に「カスハラを許容しない方針」を明記する
- 相談窓口(担当者・連絡先)を決めて周知する
- カスハラ発生時の対応手順をマニュアル化する
「難しそう」と後回しにしている間に、疲弊した従業員が辞めていきます。従業員を守ることが、会社を守ることにつながります。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

