「就業規則はあります」——そう答える経営者は多い。でも、中身を見せてもらうと絶句することが珍しくありません。
これから紹介する7つの話は、すべて私が実際に見てきた本当のことです。フィクションではありません。
就業規則は、会社と社員を守る「最後の砦」です。それがまともに機能していない会社が、中小企業には驚くほど多い。自社は大丈夫か、今すぐ確認してほしいと思います。
目次
目次
- 実態①:10年以上、一度も改訂していない
- 実態②:ネットで拾ったテンプレートをそのまま使っている
- 実態③:有給休暇の「時季指定義務」が書かれていない
- 実態④:残業代の計算方法が曖昧で、争いになった
- 実態⑤:問題社員を懲戒できない規定になっている
- 実態⑥:副業禁止と書いてあるが、根拠が曖昧
- 実態⑦:ハラスメント対応規定が存在しない
- よくある質問
実態①:10年以上、一度も改訂していない
「いつ作りましたか?」と聞くと、「開業したとき…だから15年前ですね」という答えが返ってくることがあります。
労働基準法は、ここ10年で大きく変わっています。働き方改革(2019年)による残業上限規制・有給5日取得義務、同一労働同一賃金、育児介護休業法の改正、ハラスメント防止措置の義務化……これらを反映していない就業規則は、法的に問題のある内容を含んでいる可能性が高い。
「就業規則はある」と「就業規則が機能している」は、まったく別の話です。就業規則は、法改正のたびに見直すことが原則です。
実態②:ネットで拾ったテンプレートをそのまま使っている
「コストをかけたくなくて、ネットのテンプレートをそのままハローワークに出した」——これも実話です。
テンプレート自体が悪いわけではありません。問題は、「自社の実態と乖離した内容になっている」ことです。
例えば、テンプレートの「所定労働時間は8時間」と書いてあるのに、実際は7.5時間勤務の会社。「交通費は月上限◯円」と書いてあるが、実際は全額支給している会社。就業規則と実態が違うと、いざトラブルになったときに「規則を守っていない」と会社が不利な立場に立たされることがあります。
就業規則は「自社の実態を正確に反映したもの」でなければなりません。
実態③:有給休暇の「時季指定義務」が書かれていない
2019年4月から、年10日以上の有給休暇がある従業員に対して、会社は年5日以上の有給を取得させる義務が生じました(時季指定義務)。違反した場合、30万円以下の罰金です。
ところが、この規定を就業規則に追加していない会社がまだあります。就業規則への記載は義務です。
また、「有給は申請制」とだけ書いてある就業規則も問題です。申請がなかった場合に会社がどう対応するか、時季指定のルールをどうするかが書かれていないと、実務で困ります。「取らせなかった」として労基署から指導を受けるケースも出てきています。
実態④:残業代の計算方法が曖昧で、争いになった
「残業代は別途支給する」とだけ書かれている就業規則。どうやって計算するのか、固定残業代(みなし残業)がある場合の超過分はどうなるのかが明記されていない。
実際に退職した社員から「未払い残業代を請求する」という内容証明が届いた会社がありました。計算の根拠が就業規則に書かれていないため、会社側の主張が通りにくくなった、という実例です。
固定残業代を採用している会社は特に注意が必要です。「月◯時間分の残業代として◯円を支給する。超過した場合は別途支給する」という旨を明確に就業規則と雇用契約書の両方に記載することが、トラブル防止の基本です。
実態⑤:問題社員を懲戒できない規定になっている
「この社員、もうダメだ。解雇したい」——そう相談に来た経営者の就業規則を見ると、懲戒規定がほとんどない、または「会社が必要と認めた場合は懲戒する」としか書かれていない、ということがあります。
懲戒解雇は、就業規則に懲戒事由として明記されていなければ、原則として行えません。「この行為が懲戒対象になるとは知らなかった」という社員の主張が通ってしまうのです。
「問題行動のリスト」と「それに対応する懲戒の段階(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇等)」を就業規則に明記しておくことが、万一のときに会社を守る唯一の手段です。
実態⑥:副業禁止と書いてあるが、根拠が曖昧
「副業・兼業を禁止する」——そう書いてある就業規則は多い。でも、なぜ禁止なのかの合理的な理由がない場合、現在の法的な流れでは会社側が不利になることがあります。
政府は副業・兼業を原則「認める」方向を推進しています。無制限に禁止できる時代は終わりつつある。
認めない場合は「競業他社への就業」「守秘義務違反につながる副業」「本業のパフォーマンスに著しく影響する副業」等、禁止・制限の要件を具体的に書くことが必要です。「禁止」の一言だけでは、今後リスクになりえます。
実態⑦:ハラスメント対応規定が存在しない
パワハラ防止法(2020年大企業、2022年中小企業)が施行されて以降、中小企業もハラスメントの防止措置が義務となっています。ところが、就業規則にハラスメントに関する規定がまったくない会社がまだあります。
「うちはそういう会社じゃないから大丈夫」——そう言い切れる経営者ほど、危険です。
ハラスメントが起きたときに「就業規則にも規定がない」「相談窓口もない」では、会社の責任を問われることになります。最低限、①ハラスメントの定義・禁止事項、②相談・報告ルート、③調査・対応のプロセス、④懲戒処分の規定を就業規則に盛り込んでください。
よくある質問
Q. 就業規則の見直し、自分でできますか?
A. 雛形を参考にしながら、ある程度は自分で見直せます。ただし「法改正への対応」「自社の実態との整合性確認」「懲戒規定・ハラスメント規定の適正化」は専門的な判断が必要な部分です。見直した後に社労士に確認してもらうことを強くお勧めします。また、就業規則を変更した場合は労働基準監督署への届出が必要です(常時10人以上の場合)。
Q. 就業規則を社員に見せる義務はありますか?
A. あります。常時10人以上の事業場では就業規則の作成・届出義務がありますが、規模に関わらず「社員に周知させること」は法律上の義務です。「社長の引き出しの中にある」「要望があれば見せる」では不十分。職場の見やすい場所への掲示、または電子データで全員がアクセスできる状態にしておくことが求められます。
まとめ
「うちは就業規則がある」は安心の根拠になりません。今回紹介した7つの実態——古い・テンプレートのまま・法改正未対応・懲戒規定が甘い・ハラスメント規定なし——のどれかに当てはまっていませんか?
就業規則は、会社と社員の双方を守るものです。放置するほどリスクは高まります。「うちは問題ない」と思っているときこそ、一度プロに見てもらってください。
就業規則の見直し・整備に不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

