前回の記事では、中古ブランド品・アパレルのネット販売を手がける社長との出会いと、「わかった」と「できた」の間にある深い溝について書いた。
今回は、社長の会社を実際に訪問した日の話をする……前に、どうしても触れておきたいテーマがある。
「なぜ、高額なAI研修が今も売れ続けているのか」という問いだ。
私は過去に200件以上、累計1億円を超える助成金、累計5億円を超える補助金の申請を手がけてきた、ある意味「元・助成金、補助金のスペシャリスト」だ。その立場から言わせてほしい。研修が「なぜ売れるか」の本質を理解せずに研修を選ぶと、お金も時間も両方失う。
目次
目次
- 高額AI研修が売れ続ける理由——答えは「助成金」にある
- 助成金の仕組みと「研修ビジネス」の関係
- 200件超・累計6億円の申請実績を持つ私が言える、研修選びの本質
- AI分野の研修が特にタチが悪い理由
- 「助成金対象かどうか」より「価値があるかどうか」
- よくある質問
- まとめ
高額AI研修が売れ続ける理由——答えは「助成金」にある
「AI研修を受けたけど、何も変わらなかった」
これは、私が支援している経営者から繰り返し聞く言葉だ。受けた研修の金額を聞くと、50万、100万、300万……という数字が飛び出してくる。
「それで、業務は変わりましたか?」と聞くと、「正直、変わっていないです」という答えが返ってくる。
では、なぜそんな研修が売れるのか。
答えは明確。助成金が出るからだ。
企業が研修を受けると、「人材開発支援助成金」をはじめとするいくつかの助成金が活用できる。研修費用の一部が国から戻ってくる仕組みだ。たとえば50万円の研修でも、実質負担が15〜20万円になるケースがある。
そこに研修会社はうまく乗っかっている。「助成金を使えばお得に受講できます」というセールストークで、本来の研修の価値を問わずに契約が取れる構造が生まれている。
助成金の仕組みと「研修ビジネス」の関係
私は2019年まで「助成金・補助金申請のスポットだけ」で仕事をやってきた(今の自分から考えると信じられない)。だから、助成金そのものを否定しているわけではない。うまく活用すれば、企業の研修コストを大きく下げられる有効な制度だ。
ただ、この制度を悪用した「研修ビジネス」が横行していることも事実だ。
構造はこうだ。
- 研修会社が「助成金対象」の研修プログラムを設計する
- 「実質負担が少ない」「お得」という切り口で営業する
- 企業は「お得なら受けておこう」と申し込む
- 研修が終わる。助成金が入る。研修会社は満足。
- でも企業の業務は何も変わっていない
この構造に気づかないまま、「助成金対象の研修」を選んでしまう経営者が後を絶たない。
そして、こうした構造が行き着く先に何が起きるかを示す象徴的な事件がある。エッグフォワード事件だ。人材開発や研修を手がける大手企業が、人材開発支援助成金を不正受給したとして問題になった。出席実態のない研修を「受講済み」として申請するなど、制度の抜け穴をついた不正が明るみに出た。社会的信頼度の高そうな大手企業でさえ、助成金ビジネスの構造にからめ取られればこうなる。「大手だから安心」は幻想だ。
結局、助成金と補助金で一番得をするのは申請企業ではなく、メーカーや事務局だと断言する。ただ、この話は長くなるので、別の機会に詳しく話す。
さらに言うと、「助成金対象になる」ためにはある程度の要件を満たす必要がある。たとえばカリキュラムの体系性、時間数、受講者数など。これらの要件を満たすために設計された研修は、往々にして「汎用性が高く、自社固有の課題に対応していない」ものになりがちだ。
200件超・累計6億円の申請実績を持つ私が言える、研修選びの本質
私自身、クライアント企業の助成金申請を通じて、研修の「中身」を何十件も見てきた。
率直に言う。助成金申請のためだけに設計された研修には、共通する特徴がある。
- カスタマイズがない。どの企業が受けても同じ内容。自社の業務フローや課題は一切考慮されない
- フォローアップがない。研修が終わったら終わり。「受けた後どうなったか」を確認する仕組みがない
- スピード感がない。助成金は、計画届を出して、認定されるのが早くて1ヶ月、平均2ヶ月かかる。AIの世界はたった1日で常識が変わる。助成金を受けるためには「2ヶ月前の遅れた内容」を教わるという事。これではビジネスの現場で使い物にならない
- 現場に入らない。講義室でスライドを見るだけ。自社PCを触ることも、自社業務を試すこともない
私自身、企業に研修をする機会は多々あるが、当社の研修を助成金対象にしたことは一度もない。
当社の研修を助成金対象にするのはとっても簡単で、正直、研修も売りやすくなる。たとえば、下記のようなスキームだ。
- AI研修を4名に対して200万円でやりましょう
- そのうち120万円が助成金対象になりますが、助成金申請は当社がやります(報酬はゼロ)
- かつ、いつもの顧問料・月10万円も半年間0にしますね
- なので、実質●●万円で研修が受けられますよ
これをやれば、相当受注しやすくなる。じゃあ、なぜ私がこれをやらないか?それは単純明快で、クライアントのためにならないからだ。
私が支援の現場で大切にしているのは、「その研修を受けた後、自社の何が変わるか」をゴールに置くことだ。これが明確でない研修は、お金をかけるべきではない。たとえ助成金で実質負担がゼロになるとしても。
AI分野の研修が特にタチが悪い理由
一般的な労務や会計の研修は、法律が変わらない限りある程度の鮮度を保てる。しかし、AI分野は別だ。
ChatGPTが世に出たのが2022年末。Claude、Gemini、各種AIエージェント……ツールは毎月のように新しいものが登場し、前月の「常識」が今月には「古い」になる。
半年前に作られたAI研修のカリキュラムが、今の現場に通用するか?正直、怪しい。ツールのUIが変わっていることもある。機能が追加されて、研修で習った「これは今のAIにはできない」ということができるようになっていることもある。
あるクライアント経営者がこんなことを言っていた。
社長「去年のAI研修で『これは画像を読めない』って習ったんですが、今は読めるんですよね?」
泉「はい、もう読めます。しかも精度も上がってます」
社長「じゃああの研修、半分くらい古い話だったってこと……?」
泉「そうですね。AI分野は進化が早すぎて、1年前の内容は”歴史”になっていることがあります」
社長は苦笑いしていた。研修費用は30万円だったそうだ。
AI研修には、「作った時点では正しかったが、今は古い」という陳腐化リスクが常につきまとう。それを知らずに「助成金があるから」と受けてしまうのは危険だ。
「助成金対象かどうか」より「価値があるかどうか」
私はクライアントに、研修を選ぶときにひとつだけ問いを持ってほしいとお願いしている。
「助成金が出る出ない関係なく、本当に経営者や従業員の時間とお金をかける価値のある研修なのか?」
この問いに「YES」と答えられない研修に、お金を払う必要はない。助成金対象かどうか、大手が開催しているかどうか、著名な講師かどうか——そういった条件は、この問いの前には全部二次的だ。
価値があるかどうかだ。助成金対象かどうかは関係ない。
これは私の信念であり、支援の軸だ。200件以上・累計6億円を超える助成金・補助金申請を手がけてきた私だからこそ、言えることがある。助成金は企業の学習投資を支援するためにある。研修会社のビジネスを支援するためにあるのではない。
本当に自社の業務を変えたいなら、「助成金が出るか」ではなく「受けた後に何が変わるか」を基準に選んでほしい。
次の記事でいよいよ、あの社長の会社に実際に訪問した日の話をする。
「社長のPCを直接触り、当日動くものを作る」——それが私の支援の全てだ。
よくある質問
Q. 助成金を使ったAI研修は、全て意味がないということですか?
A. そうではありません。助成金を活用しながら、かつ業務改善に直結する質の高い研修も存在します。大切なのは「助成金が出るかどうか」で選ばないこと。「受けた後に自社が変わるか」を確認してから選ぶこと。助成金はあくまで「コストを下げる手段」であって、「研修を選ぶ理由」にしてはいけません。
Q. AI研修を選ぶとき、具体的に何を確認すればいいですか?
A. 最低でも次の3点を確認してください。①研修後のフォローアップはあるか(受けっぱなしにならないか)、②自社の業務に合わせたカスタマイズはあるか(汎用内容だけでないか)、③カリキュラムの更新はいつか(AI分野は半年で陳腐化するので)。この3点に明確な答えが出ない研修は、慎重に検討すべきです。
まとめ
高額なAI研修が売れ続けている理由は、内容が優れているからではなく、助成金の仕組みに乗っかっているからだ。
研修を受けること自体は悪くない。問題は「なぜその研修を選んだか」だ。「助成金が出るから」という理由だけで選ぶと、お金を使って何も変わらない、という結果が待っている。
200件以上・累計6億円を超える助成金・補助金申請を手がけてきた私だからこそ、はっきり言える。助成金対象かどうかより、価値があるかどうかだ。
AI研修選びに迷っている方、または「受けたけど何も変わらなかった」と感じている方は、ぜひ一度当社にご相談ください。現場に入り、実際に業務が変わる支援をしています。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

