過去3回にわたって、中古ブランド品・アパレルのネット販売を手がける社長への生成AI実装支援の現場を書いてきた。
第1回は、AIセミナーに行ったのに「戻ったら何もできなかった」という社長との出会い、そして「わかった」と「できた」の間にある深い溝について。第2回は、高額AI研修が今も売れ続ける理由——助成金という”罠”と、研修選びの本質について。第3回は、実際に社長の会社を訪問し、PCの前に座って仕組みを作った初日の話を書いた。
今回は、その最初の訪問から約3週間後の話をさせていただく。
目次
目次
- 3週間後のオンライン面談
- 社長が自分でアレンジを始めていた
- 「自信がついた」という言葉の重さ
- 次のフェーズへ——問い合わせ対応の自動化
- 伴走支援のゴールは「依存」ではなく「自走」
- よくある質問
- まとめ
3週間後のオンライン面談
支援の流れを整理しておく。1回目の訪問では、Claude Codeの初期設定・全体把握と課題の整理・社長の判断基準の確認・Claude Codeの実装まで進めた。翌週、2回目の訪問では1回目の続きを実装し、最初の課題の8〜9割が解決した。そして、2回目の訪問から2週間後——進捗確認のオンライン面談を設定した。
正直、少し緊張していた。「使えています!」という報告であれば嬉しい。でも「うまくいっていない」「途中で止まってしまった」という話もあり得る。支援者として、それを怖れながらも、正面から聞かなければならない。
泉「その後、実際に使えていますか?」
社長「使えてます!毎日使ってます!」
泉「それは良かった!何か詰まったところはありましたか?」
社長「最初は10点をまとめて処理しようとしてうまくいかなかったんですが、出品する分だけに絞って処理する方式にしたら、安定しました!」
泉「それ、自分で気づいて修正したんですか?」
社長「そうです!最初は『あれ、なんでうまくいかないんだろう』ってなって、いろいろ試してみたら、量の問題だったんだなと分かって」
これは想定以上の報告だった。
社長が自分でアレンジを始めていた
話を聞いていくと、社長はツールを「使えるようになった」だけでなく、自分でどんどん改善していた。
- 最初は10点まとめて処理しようとしたが、出品分だけに絞る方式に自分で切り替えた
- 商品名やブランドのコンテキストをプロンプトに加えることで、読み取り精度が上がると気づいた
- スクリーンショット撮影の頻度が大幅に減り、作業時間が短縮された
私が教えたのは「最初の型」だけだ。その後の改善は、全部社長が自分でやっていた。
泉「それ、すごいことですよ。『詰まったら諦める』じゃなくて、『なぜ詰まったのかを考えて、自分で解決した』ということですから」
社長「そうなんですかね?でも、ベースを作ってもらえたので、あとは触りながら分かってきた感じです」
「ベースを作ってもらえたので」——この言葉が全てだと思う。何もない状態からひとりで試行錯誤するのと、動く土台がある状態から触っていくのとでは、挫折率がまったく違う。
「自信がついた」という言葉の重さ
面談の終わり際、社長がこんなことを言った。
社長「ベースができれば、自分でアレンジできるという自信がつきました!」
この「自信がついた」という言葉を、私は軽く聞き流せない。
生成AIに挑戦して挫折した経験がある人ほど、「自分にはできない」という思い込みが強くなる。その思い込みは、次の挑戦を始める前から邪魔をする。「どうせまたうまくいかない」と感じてしまうから、一歩が出なくなる。
だから、「自信がついた」という状態を作ることが、私の支援の最初のゴールだ。ツールが使えるようになることではなく、「自分でアレンジできる」という感覚を持てるようになること。そこまで届いて、はじめてスタートラインに立てる。
そこで私は、半分冗談で聞いてみた。
泉「社長がここまでできるようになったし、私の支援はもういらないですよね(笑)」
社長「いやいや、めっちゃいります!0→1をやってくれたからアレンジできただけで、他にも課題はたくさんありますから!」
この返しが、嬉しかった。「0→1」という言葉がまさに的を射ている。「0」とは単に「何もない状態」ではない。生成AIに興味はあったのに、何もできないまま止まっていた状態——そこから抜け出すことも含んでいる。自分でアレンジできるようになることと、最初の土台を作れることは、別の話だ。土台があるから改善できる。土台のないところに、改善は生まれない。
次のフェーズへ——問い合わせ対応の自動化
面談の後半、次のフェーズの話になった。
詳細は企業秘密もあるので書けないが、社長から次の課題を話してもらった。某SNSを通じて届く問い合わせ対応の効率化だ。お客さんから写真が届き、それを見て状態を判断し、返答する——この一連の流れに、毎日かなりの時間を取られているという。
社長「これがなんとかなったら、かなり助かるんですが……」
泉「やれるか分かりませんが、次回の訪問でやってみましょう。まず小さく試して、動くことを確認してから広げていく方針で」
社長「お願いします!楽しみにしてます!」
「楽しみにしてます」——この言葉が出るクライアントとの仕事は、気持ちがいい。最初の訪問では「当日できるんですか?」と半信半疑だった社長が、今は次の支援を自分から楽しみにしている。不安より期待のほうが大きくなっている。それは、最初の一歩を一緒に踏み出した結果だと思っている。
ここで、私の仕事のスタンスについて触れておく。私はクライアントに提案する前に、「絶対できます」と言ったことが一度もない。むしろ「おそらくできると思うが、やってみないと分からない」と必ず伝えている。なぜなら、お客さんが言っていることと、現場で実際に起きていることが違うケースが多いからだ。だから確約はできないし、これからもしない。
なぜこんな話をするかというと、別の顧問先でこんな出来事があったからだ。約2年前、あるシステム会社が「絶対に当社の業務システムを入れたら良くなります」と強気で売り込んできた。当社顧問先はその会社を信頼してシステム構築を依頼、開発を進めた。ところが、2年経っても全く形にならなかった。むしろ「前のシステムのほうが正確で速い」という悲惨な結果に。かかった費用は数千万円。怒った社長は、その企業に対して損害賠償請求を検討しているという。
「絶対」と言う人間を信用してはいけない。現場を見ずに「絶対できます」と言える人間は、失敗したときに「想定外でした」と言う人間だ。
伴走支援のゴールは「依存」ではなく「自走」
このシリーズを通じて伝えたかったことを、最後にまとめる。
私の伴走支援のゴールは、クライアントに「ずっと頼ってもらうこと」ではない。「自分でアレンジして、自分で改善していける状態」を作ることだ。
今回の社長は、3週間で自分でアレンジを始めた。詰まっても自分で考えて解決した。次のフェーズに向けて、自分から提案してきた。これが理想の流れだ。
支援者として私がやるべきことは、「動く土台を作る」「詰まったときに一緒に考える」「次のステップを一緒に設計する」——この3つだけだ。あとは社長が自分でやる。そのほうが、社長にとっての「できた」が本物になる。
今後はこの企業に月1回訪問しながら、生成AIはもちろん、労務・経営・組織づくりなど、社労士の枠を超えた支援を続けていく。社長がそれを希望しているし、尊敬できる社長なので、私も隣で伴走支援したいと心から思っているからだ。
よくある質問
Q. 支援終了の目安はありますか?
A. 私が決めることではありませんが、しいて言うなら、社長自身が「課題が全部解決できた」「泉の支援がなくても自分でできる状態になった」と感じたときではないでしょうか。私は常にお客様に「支援がいらなくなったらいつでも言ってください」とお伝えしています。ただ、生成AIに限らず、ほとんどのお客様が、1〜4ヶ月の短期プロジェクトの後、顧問契約(経営・労務・DXまで何でも対応)を希望されます。
Q. 生成AI以外の経営課題も相談できますか?
A. はい、むしろそちらが本業です。採用・定着・労務管理・評価制度・組織づくり……社労士として3,000件超の相談実績があります。「お試しの意味でも、まずは短期で生成AI支援や労務環境の整備をさせていただき、希望があれば経営全体に関わっていく」というのが当社で一番多いスタイルです。「ツールの専門家」ではなく、「経営者の伴走者」として関わっています。
まとめ
4回にわたるシリーズを通じて、一人の社長との支援の現場を書いてきた。
「AI研修に行ったのに何も変わらなかった」という状態から、「自分でアレンジして改善できる」という状態まで。課題解決にかかった期間は約1ヶ月。泉の準備時間・訪問時間は合計約8時間。社長に使っていただいた時間はわずか3時間だ。
有料の研修を受けても、この変化は起きていなかった。私が現場に行き、現場の声を聞きながら、社長のPCを直接触ったから起きた変化だ。
もう一度言うが、生成AIの研修を受けても、ほとんどの企業が何も変わらない。
「うちも同じ状況かもしれない」と感じた経営者の方は、ぜひ一度当社にご相談ください。まずは話を聞かせてください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

