AI研修を受講したのに、何も変わらなかった社長からの問い合わせ|姫路の生成AIアドバイザーのリアル現場日記①

AI研修を受講したのに、何も変わらなかった社長からの問い合わせ|姫路の生成AIアドバイザーのリアル現場日記①

2026年6月29日




社長「AI研修、行ったんですよ。去年。めっちゃ面白かったんですけど……戻ってきたら、何もできなかったです」

その言葉を聞いたとき、私は少しだけ間を置いた。

「何もできなかった」というのは、意欲がなかったのではない。能力がなかったのでもない。「何から始めればいいかわからなかった」のと、「やってみてもうまくいかないストレスに耐えられなかった」のだ。そして、わからないまま日常業務に飲み込まれ、1ヶ月が過ぎ、気づけば研修のことは遠い記憶になっていた。

これは珍しい話ではない。私がこれまで支援してきた中小企業の経営者のほとんどが、同じ体験をしている。研修を受けた企業の約9割が、1ヶ月後には「ほとんど何もしていない」という状態に戻る。

なぜそうなるのか。この記事では、ある社長との出会いを通じて、その構造を正直に書いてみたい。


目次

  1. 出会いは、ホームページへの問い合わせだった
  2. その社長の「日常」
  3. 「興味はあるけど、最初の一歩が……」
  4. 私自身も、挫折しかけた
  5. 研修後に何が起きるか
  6. 「わかった」と「できる」は別の話
  7. では、何が必要なのか
  8. よくある質問
  9. まとめ

出会いは、ホームページへの問い合わせだった

2026年4月、一通の問い合わせが届いた。

当社のホームページ経由だった。社長は、ブログやYouTubeでの発信をずっと見ていてくれていたらしい。「生成AIの話を、難しくなく書いてくれるから読んでた」と後から教えてもらった。

問い合わせの内容はシンプルだった。「AIを業務に活かしたいと思っているが、何から始めればいいかわからない。一度相談したい」。

この「何から始めればいいかわからない」という言葉、私はこれまで何十回、何百回と聞いてきた。AIに興味がある人は増えた。でも、実際に自社の業務に組み込めている人は、ほんの一部だ。多くの人が、この「わからない」で止まっている。

翌月、私はその会社を訪ねた。


その社長の「日常」

5月の午後、事務所に入ると、デスクの上に商品が積まれていた。

中古ブランド品を仕入れ、ネットオークションで販売する会社だ。ブランドバッグ、時計、アパレル——状態はものによってバラバラで、同じ商品でも傷の場所や程度によって価格がまったく変わる。だから、毎回「これはいくらか」を自分の目と感覚で判断しなければならない。

写真を撮り、状態を確認し、説明文を書き、相場を調べて価格を決める。その作業を、社長がほぼ一人でこなしている。

泉「1日、何件くらい出品してるんですか?」

社長「多いときで10件以上ですね。1件あたり15分くらいはかかりますかね……」

毎日、同じ作業を繰り返している。価格設定は手動。競合の落札相場を調べて、自分で判断して、入力する。商品の説明文も、毎回ゼロから書いている。

社長「効率化したいって思ってるんですよ、ずっと。でも何から手をつければいいのか……」

社長は苦笑いしながら言った。思っている。でも、何から手をつければいいかわからない。そのまま今日も、明日も、同じ作業を繰り返す。これが、私が支援に入る前の「日常」だった。


「興味はあるけど、最初の一歩が……」

泉「AIには興味ありますか?」

社長「めっちゃありますよ!去年、セミナーも行きましたし!」

泉「どうでしたか、そのセミナー?」

社長「面白かったです!ChatGPTとか、Claudeとか、こんなことができるんだって。でも……戻ってきたら、結局何もできなかったんですよね」

泉「何もできなかった、というのは?」

社長「何から始めればいいかがわからなくて。試してみたんですけど、自分の仕事に使おうとしたら、なんかうまくいかなくて。そのうちやらなくなりました……」

この会話を、私は何十回と経験してきた。

「AIに興味はある」——今の中小企業経営者のほとんどが持っている感覚だと思う。セミナーに行く人も増えた。YouTubeで勉強する人もいる。本を買う人もいる。でも、「最初の一歩が踏み出せない」か、踏み出しても「うまくいかなくてやめてしまう」。そのどちらかで止まっている企業が、圧倒的に多い。


私自身も、挫折しかけた

実は、私にも同じ体験がある。

生成AIのツールのひとつに「Claude Code」というものがある。業務の自動化に使えるツールで、使いこなせれば非常に強力だ。私はこれを習得しようと試みた。

最初は「細切れの時間でやってみよう」と思った。移動の合間に少し触る。打ち合わせの前後に試してみる。それを繰り返した。

全然うまくいかなかった。

少し進んでは詰まり、次に触れたときには前の文脈を忘れていて、またゼロから確認して——それの繰り返し。ストレスしかなかった。「これ、やめようかな」と本気で思った。

転機は、「1日、他のことは一切やらずに取り組んでみよう」と決めた日だった。丸1日、これだけに集中する。メールも電話も後回しにして、ひたすらやってみた。

その日に、道がひらけた。

細切れの時間では、文脈が積み上がらない。試行錯誤の流れが途切れる。「なんとなくわかってきた」という感覚が育たないまま、またゼロに戻る。それがストレスの正体だった。

多くの人は、一人だと挫折する。私がそうなりかけたように。

ただ、私が乗り越えられたのは、時間を作れたからだけではない。もっと根本的なところに、差があると思っている。

乗り越えるのに必要なのは、「1回本気でやって、ダメならあきらめる」という覚悟だ。でも9割の経営者には、この覚悟が持ちにくい。なぜか。生成AIがなくても、今の業務は回っているから。切迫感がなければ、本気にもなれない。

私の場合は、そもそも出発点が違った。

  • 生成AIが流行りはじめた初期から、有料版のChatGPTを触りまくっていた。AIへの慣れとストレス耐性が、すでにあった
  • Claude Codeの登場で「世界が変わる」と感じた。可能性と同時に、乗り遅れる恐怖も覚えた
  • もともとガジェットやITツール、業務効率化が好きで、新しいものへの抵抗感が低い
  • 「誰でもできることはしたくない」という気持ちが、昔から強い

この4つが重なっていたから、ストレスに耐えて続けられた。でもほとんどの経営者には、この条件が揃っていない。それは能力の問題でも意欲の問題でもなく、ただの「出発点の違い」だ。だからこそ、隣で一緒に進める人間が必要なのだ。


研修後に何が起きるか

「研修を受けたのに、なぜ何も変わらなかったのか」——これは受講者が悪いのでも、研修が悪いのでもない。

研修は「知識を届ける場」だ。受講中は学べる。理解もできる。感動もする。でも、会社に戻った瞬間から、現実が始まる。

メールが溜まっている。注文が来ている。今日出品しなければならない商品が積まれている。「AIを試してみよう」と思っても、「後でやろう」になる。後でやろう、が積み重なって、1ヶ月が経つ。

勇気を出して試してみると、今度は壁にぶつかる。

  • 「自分の業務にどう使えばいいかわからない」
  • 「出力が思っていたものと全然違う」
  • 「どこが間違っているのか、そもそも判断できない」
  • 「相談できる人が社内にいない」

ここで多くの人が「やっぱり難しい」という結論を出す。そしてフェードアウトする。一歩を踏み出した企業の9割が、ここで離脱する。これが現実だ。


「わかった」と「できる」は別の話

研修の問題は、「知識を渡して終わり」という構造にある。

「ChatGPTはこういうことができます」——わかった。
「プロンプトはこう書きます」——わかった。
「業務効率化のイメージはこうです」——わかった。

では、「あなたの今日の出品作業を、AIでどう変えますか?」——わからない。

そこなのだ。汎用的な知識と、自社の固有業務の間に橋を架けるのは、研修ではできない。自社の現場を知った人間が、一緒に考えなければできないことだ。

「AI研修に行きました。戻ったら何もできなかった」——この言葉は、何も社長の失敗ではない。研修という手段の、構造的な限界が出ただけだ。


では、何が必要なのか

この日の面談が終わったとき、私は社長にこう伝えた。

泉「次回、社長のPCを直接触らせてください。その日のうちに、動くものを作ります」

社長「動くもの、というのは?」

泉「今日教えてもらった出品作業——商品の写真を渡したら、タイトルも説明文も価格の目安も全部出てくる仕組みです。それを、その日のうちに」

社長「……本当にできるんですか?」

研修で「できます」と言われ続けて、戻っては何もできなかった経験がある。だから、信じ切れない。その慎重さは、正しい反応だと思う。

泉「やってみせます。うまくいかなかったら、その場で一緒に直しますから」

それが私の答えだった。

知識を渡すことが支援ではない。業務が変わる体験を、その場で一緒に作ること。それが、私が「伴走支援」と呼んでいるものの正体だ。

次回の記事では、この約束を果たしに行った日の前に、もう一つ触れておきたいテーマを書く。「なぜ、高額な研修が今も売れ続けているのか」——答えは助成金にある。そして、1億円超の助成金申請を手がけてきた私だからこそ言える、研修選びの本質を語りたいと思う。


よくある質問

Q. 大手がやっているAI講座を受講しようと思っていますが、どう思いますか?

A. 止めはしませんが、受ける前に一度立ち止まってほしいです。「その講座を受けたあと、自社の何が変わりますか?」という問いに答えられますか?漠然と「なんとなく勉強になりそう」なら、受けても1ヶ月後には何も変わっていない可能性が高い。研修を選ぶ基準は「助成金が出るか」でも「大手がやっているか」でもなく、「受けた後に自社の業務が変わるか」です。

Q. AIを試してうまくいかず、もう諦めかけています。どうすれば?

A. まず聞かせてください。「なぜAIを活用したいのか」「今、何で困っているのか」——これが明確になっていますか?ただ漠然と「AIが流行っているから」というだけなら、実はAIにこだわる必要はないかもしれません。なかなか一人では明確にできない(気づかない)とおっしゃる経営者も多いので、まずは「生成AIを使った課題解決のプロ」に相談されることをおすすめします。


まとめ

「AI研修に行ったのに、戻ったら何もできなかった」——これは能力の問題でも意欲の問題でもない。研修という手段の構造的な限界と、「一人で試行錯誤するしかなかった」という環境の問題だ。

私自身、細切れの時間でAIツールを習得しようとして、ストレスで挫折しかけた。多くの人が一人だと諦める。それが現実だ。

「自分もそうかもしれない」と感じた方は、ぜひ当社にご相談ください。次の記事では、高額研修が売れ続ける構造——助成金という”罠”について書きます。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。