「1on1、うちも導入したんです。それでも辞める人は辞めるんですよね」。姫路の経営者から、こういうご相談をよく受けます。
制度は入れました。時間も確保しました。それでも効果が出ません。多くの場合、原因は1on1をやっているかどうかではなく、その中身にあります。
今日は、1on1が形だけになってしまう3つの原因と、その直し方をお伝えします。
目次
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原因1:「進捗確認」で終わっている
1on1のはずが、蓋を開けると「あの案件どうなった」「あのタスク終わった?」という進捗確認の時間になっているケースが非常に多いです。
姫路市内のある製造業の工場で、実際にあったやり取りをご紹介します。班長が毎週水曜日の終業前に15分、若手の作業員と1on1の時間を設けていました。中身を覗いてみると、こんな会話が繰り返されていたそうです。「例の検査ライン、進んでる?」「はい、明日には終わります」「じゃあ次は溶接の方も頼むな」。それで終わり。15分のうち実際に会話が成立していたのは3分ほどで、残りは気まずい沈黙か、天気の話のような雑談で埋められていました。班長本人は「毎週ちゃんとやっている」という事実に満足していましたが、若手作業員からすれば、それは1on1ではなく単なる業務連絡の延長でしかありません。
同じことは飲食業や建設業の現場でも起きます。「今日のシフト大丈夫?」「現場の段取りは?」という確認だけで15分が終わり、本人が抱えている人間関係の悩みや、将来への不安には一切触れられないまま次の週を迎えます。厄介なのは、上司側に悪気がまったくないという点です。むしろ真面目に1on1をこなそうとしているからこそ、話しやすい業務の話題に無意識に逃げてしまいます。
進捗確認自体は必要です。ですが、それだけで終わってしまうと、本人の悩みや違和感を聞く場が別に確保されないまま、時間だけが過ぎていきます。1on1は、業務の話ではなく「その人自身」の話をする時間だという前提を、まず上司側が持つ必要があります。具体的には、「最近どう?仕事以外でも」「今の働き方で無理してることない?」といった、業務から一歩離れた質問をあらかじめ用意しておくだけでも、会話の質は大きく変わります。
原因2:上司の方が長く話している
録音して聞き返してみると分かることですが、1on1のはずなのに、上司が話している時間の方が圧倒的に長いケースは珍しくありません。アドバイスしたくなる、評価者としての立場が抜けない——理由はいろいろあります。
姫路のある飲食店で、こんな場面がありました。オーナーがホールスタッフと1on1をしていたところ、スタッフが「実は最近、シフトのことで少し不安があって」と切り出しました。その瞬間、オーナーは食い気味に「ああ、それなら大丈夫。来月から新しいシフト表にするから、もっと組みやすくなるよ」と答えてしまいます。スタッフは「あ、はい……」とだけ返し、それ以上は何も話さなくなりました。後になって分かったことですが、本当に不安だったのはシフトの組み方そのものではなく、家庭の事情で夜遅い時間の勤務が難しくなってきたことでした。オーナーは最後までそれを聞き出せないまま、1on1を終えていたわけです。
経営者や現場責任者は、日々の判断のスピードを求められる立場にあります。だからこそ、部下の話を最後まで聞く前に「答え」を出したくなってしまいます。ですが1on1の場では、この癖がそのまま裏目に出ます。相手が言い終わる前にアドバイスを差し込むと、本人としては「話を最後まで聞いてもらえなかった」という感覚だけが残り、次第に核心には触れずに当たり障りのない話しかしなくなっていきます。
部下が話し始めた瞬間に、つい先回りしてアドバイスしてしまう。それが繰り返されると、部下は「話しても結局アドバイスされるだけ」と学習し、本音を話さなくなります。1on1は「聞く」時間であって、「話す」時間ではありません。沈黙が続いても、すぐに埋めようとせず数秒待ってみる。それだけで、相手が自分の言葉で話し出すことは意外と多いものです。
原因3:その場限りで、組織に拾い上げる仕組みがない
3つ目の原因は、1on1が上司と部下の1対1で完結してしまい、そこで出た違和感やSOSが組織に共有されないことです。
「話しても何も変わらなかったので」——あるクリニックで、退職を申し出たスタッフが最後にそう言い残しました。数ヶ月前の1on1で、院長に「最近、患者さんとのコミュニケーションで少し悩んでいる」と打ち明けたことがあったそうです。院長はその場で「そうか、大変だな。無理しないでな」と労いの言葉をかけましたが、翌週の1on1でも、その次の1on1でも、この話題には特に触れませんでした。院長からすれば「ちゃんと聞いた」つもりでしたが、組織としては誰にも共有されず、何も拾い上げられていなかったのです。
このクリニックに限らず、建設業の現場監督と職人、製造業の班長と作業員の関係でも、まったく同じ構図が繰り返されます。1対1の場は「安心して話せる場」であると同時に、放っておくと「そこで消化されて終わる場」にもなりやすいものです。話を聞いた上司個人の記憶にしか残らず、他の管理職や経営者には一切伝わりません。本人が異動や配置転換を望んでいたとしても、その情報が人事権を持つ立場まで届かなければ、状況は何も変わらないままです。
上司が「よし、聞いた」で終わらせてしまうと、本人としては勇気を出して話したのに、何も変わらないという経験だけが残ります。個人の傾聴力に頼るのではなく、深刻な違和感が出たときに次につなげるエスカレーションのルートを、組織としてあらかじめ決めておく必要があります。もちろん、聞いた内容をすべて筒抜けにしてよいわけではありません。「この種類の相談は、本人の同意を得たうえで人事に共有する」という線引きを事前に伝えておくことで、安心して話せる場と、組織として拾い上げる仕組みは両立できます。
ハード×ソフトで1on1を機能させる
ハードの面では、1on1の頻度・簡単な記録・エスカレーションのルートを制度として決めておきます。「感じたことがあれば上司から人事に共有する」という一文があるだけでも、その場限りの1on1にはならなくなります。
記録といっても、大がかりなシステムは要りません。エクセル1枚に「日付・話した内容の要点・フォローが必要かどうか」の3項目だけを書き残す、という程度で十分に機能します。姫路の顧問先でも、この程度の簡易な記録表を導入しただけで、「前回話していた件、その後どう?」と上司から自然に切り出せるようになり、部下側も「ちゃんと覚えていてくれている」という安心感を持てるようになった事例があります。仕組みは複雑にするほど続かなくなります。まずは続けられる最低限の形から始めることが大切です。
ソフトの面では、上司側の「聞く力」を鍛えるトレーニングが欠かせません。アドバイスを我慢して、まず最後まで聞き切る。それだけで、部下の話す量は驚くほど変わります。
ここで見落とされがちなのは、聞く力は根性や意識だけでは身につかないという点です。生まれつき聞き上手な人もいれば、放っておくと数分でアドバイスしたくなる人もいます。だからこそ、「最初の5分は質問だけ」「相手が話し終わるまで口を挟まない」といった、行動レベルのルールに落とし込んで練習する必要があります。ハードで仕組みを作り、ソフトでその仕組みを動かす人を育てる。この両輪が揃って初めて、1on1は制度として定着していきます。
よくある質問
Q. 1on1の時間がどうしても取れない中小企業は、どうすればいいですか
A. 毎週30分が理想ですが、まず月1回15分からでも構いません。大切なのは頻度よりも、その短い時間を「進捗確認」ではなく「本人の話を聞く時間」として守り切ることです。
Q. 上司が「聞く」より「話す」方が得意なタイプです。どう改善すればいいですか
A. 意識を変えるだけでは難しいことが多いです。1on1の最初の5分は質問だけをする、というルールを決めるなど、行動レベルで縛る工夫が効果的です。仕組みで支えることで、聞く姿勢は後から習慣になっていきます。
Q. 1on1の内容を人事や経営者に共有すると、部下との信頼関係を損なうのではと心配です
A. ご心配は当然ですが、こっそり共有するから信頼が崩れるのであって、あらかじめルールとして伝えておけば問題は起きにくいものです。「体調や人間関係で深刻な悩みが出た場合は、あなたの了承を得たうえで人事にも共有します」と最初の1on1で本人に説明しておくだけで構いません。隠れて共有することと、合意のうえで共有することはまったく別の話であり、後者は本人にとって「一人で抱え込まなくていい」という安心材料になります。
録音して、聞き返してみてほしい
1on1を導入したこと自体は、間違いではありません。問題は、「やっていること」に満足して、中身を検証していないことです。進捗確認になっていないか、上司が話しすぎていないか、出てきた違和感が拾われる仕組みがあるか。この3点を見直すだけで、1on1は本来の力を発揮し始めます。
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筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)|姫路の社会保険労務士
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年9月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。
姫路を拠点に、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する伴走支援を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
姫路の経営者様はもちろん、遠方の方もオンライン対応可能ですので、お気軽にご相談ください。

