令和8年度の業務改善助成金の受付が、2026年9月1日に始まりました。
賃金の引上げと設備投資をセットで行った場合に、設備投資にかかった費用の一部が助成される制度です。ただし要件も期限も細かく決められていて、順番を間違えると1円も出ません。
そして兵庫県の会社が申請できるのは、2026年9月30日までです。全国一律の11月30日ではありません。
受付開始から数えても1か月ありません。今日は制度の中身と、実務で落ちやすい注意点を整理します。
目次
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兵庫の期限は9月30日。11月30日ではありません
令和8年度の申請期間は、2026年9月1日から、申請する事業所の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日、または2026年11月30日の、いずれか早い日までとされています。
兵庫県の地域別最低賃金は、2026年9月1日に兵庫労働局が改正を決定しました。8月4日の審議会答申どおり、56円引き上げて時間額1,172円、発効日は2026年10月1日です。ということは、その前日である9月30日が申請の期限になります。
賃金の引上げにも期限があり、こちらは「2026年9月1日から、地域別最低賃金の発効日の前日まで」で、11月30日という上限は付きません。申請期限とは別の定めですが、兵庫では結果的にどちらも9月30日に揃います。
ここに、多くの会社がはまる落とし穴があります。厚生労働省のリーフレットには、地域別最低賃金の発効に対応して事業場内最低賃金を引き上げる場合は、発効日の前日までに引き上げを完了する必要がある、と書かれています。
つまり「10月1日から時給を上げます」という、いちばん自然なやり方をすると対象外になってしまうので、9月30日までに引き上げを済ませておかなければなりません。たった1日の違いですが、この1日で数百万円が変わります。
要は、一番低い時給の人を50円上げる制度
制度の骨格は、この3つです。
- 事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げる
- あわせて、生産性向上につながる設備投資などを行う
- その設備投資にかかった費用の一部が助成される
ここで大事なのが「事業場内最低賃金」という言葉です。その事業場で一番低い時給、つまり社内で一番賃金が低い人の時給を指します。会社全体の平均ではありません。
ですから「うちは大きい会社じゃないから関係ない」という話にはならず、むしろパートやアルバイトが数人いる小さな会社ほど、この助成金の対象になりやすいことになります。
対象になるための条件は3つです。中小企業・小規模事業者であること(大企業と密接な関係を持つ、いわゆるみなし大企業は除かれます)。事業場内最低賃金が令和8年度の地域別最低賃金を下回っていること。そして、解雇や賃金引下げといった不交付事由がないことです。
申請は工場や事務所など事業所ごとに行うので、複数の拠点があればそれぞれ別に申請します。ただし同一事業所の申請は年度内1回までで、「まず1台入れて、様子を見てもう1台」はできません。
いくら出るのか。「600万円」は簡単には出ない
上限額は3つの要素で決まります。「いくら賃金を上げるか」「何人上げるか」、そして「事業場の規模が30人未満かどうか」です。
賃金の引上げ額で50円コース・70円コース・90円コースの3つに分かれ、そこに引き上げる労働者の人数が組み合わさって上限額が決まります。たとえば90円コースで8人以上なら450万円、10人以上(特例事業者の場合)なら600万円です。
見落とされやすいのが3つ目です。事業場の規模が30人未満なら、上限額が上乗せされます。たとえば90円コースで2〜3人なら150万円が240万円に、70円コースで2〜3人なら50万円が100万円に変わります。姫路の中小企業なら、上乗せされる側に入る会社が多いはずです。
助成率は引上げ前の事業場内最低賃金で変わり、1,050円未満なら5分の4、1,050円以上なら4分の3です。ただし兵庫県の会社は、実質すべて4分の3だとお考えください。兵庫の現行の地域別最低賃金は1,116円で、事業場内で一番低い時給がそれを下回っていれば、そもそも最低賃金法に違反していることになるからです。
実際に支給されるのは、費用に率を掛けた額と上限額を比べて安いほうです。たとえば事業場内最低賃金が1,120円の会社が8人を90円引き上げ、設備投資に600万円かけたとすると、600万円×4分の3で450万円。90円コース8人以上の上限も450万円ですから、450万円が支給されます。
対象になる設備投資は機械設備の導入だけではなく、POSレジの導入、リフト付き特殊車両、顧客管理のシステム化、国家資格者による業務フローの見直しといった経営コンサルティングも含まれます。
なお「特例事業者」に該当するのは2種類です。①事業場内最低賃金が1,050円未満の事業者(賃金要件)と、②原材料費の高騰などで申請前6か月間の平均利益率が前年度より3%ポイント以上低下している事業者(物価高騰等要件)で、②に該当する場合は通常は対象外のパソコンやタブレットの新規導入も助成対象になります。
上限額表の「10人以上」の区分は、特例事業者が10人以上の賃金を引き上げる場合に限られます。つまり最大600万円は、90円コース・10人以上・特例事業者という3つが揃って初めて出る数字です。兵庫では①が使えませんから、600万円を狙うなら②の物価高騰等要件に該当しているかどうかが分かれ目になります。
ここで落ちる、という失敗が3つ
制度そのものより、実務でつまずくポイントのほうが大事なので3つ挙げておきます。
失敗1:交付決定を待たずに設備を買ってしまう
この助成金は計画を立てて申請し、交付決定を受けてから設備投資を実施するという順番なので、先に買ってしまったものは対象になりません。「良い機械が見つかったので、とりあえず発注しました」というケースが、いちばん多い失敗です。
失敗2:引上げを複数回に分けてしまう
「まず30円上げて、来月あと20円」という分割は認められず、1回で引き上げる必要があります。資金繰りの都合で段階的に、と考えていた会社は設計を変えなければなりません。
失敗3:就業規則に書き忘れる
引き上げた後の事業場内最低賃金額と同額を、就業規則等に定めておく必要があります。時給表を書き換えただけで規則を直していない、という見落としが多いところです。
対象労働者の要件も整理しておきます。引き上げる労働者は週の所定労働時間が20時間以上の雇用保険加入者であることが必要で、そのうえで基準となる事業場内最低賃金の労働者は、雇入れから6か月を経過している人でなければなりません。人数にカウントされるのは、その人に賃金額を追い抜かれる労働者で、いずれも申請したコースと同額以上の引き上げが必要です。
日程でもうひとつ注意すべき点があります。事業完了期限は、原則として交付決定を受けた年度の1月31日です。交付決定を受けてから発注し、納品を受け、支払いまで済ませて1月31日ですから、実務でいちばん詰まるのはここです。ただし納入業者の都合で納品が1月31日以降になるなど、やむを得ない理由がある場合は、あらかじめ理由書を出しておけば3月31日まで延長される場合があります。
また、この助成金は予算の範囲内で交付されるため、申請期間の途中で募集が終了することがあります。9月30日まで待つ理由は、ひとつもありません。
よくある質問
Q. 今年すでに時給を上げてしまったのですが、間に合いますか
A. 難しいとお考えください。この助成金は、賃金の引上げも設備投資も「これから実施するもの」が対象です。9月1日より前の引き上げが対象外なのはもちろん、9月に入ってからでも、すでに実施してしまった分は対象になりません。まだ引き上げていない人がいれば、その方を対象に組み直せる可能性はあります。
Q. 助成金の申請代行をすると営業電話がありました。頼んでも大丈夫ですか
A. まず疑ってください。厚生労働省から委託を受けたと装って助成金の活用を勧誘する事業者がいる、という注意喚起が厚生労働省の公式サイトに掲載されています。厚生労働省や労働局が、特定の事業者に助成金の勧誘を委託することはありません。
手数料目的で、本来なら受けられない申請を提案されるケースもあります。不正受給と判断されれば返還だけでなく企業名が公表される可能性もありますから、持ちかけてきた業者ではなく、労働局か顧問社労士に確認してください。
まとめ
制度の要点は4つです。
- 兵庫県の申請期限は2026年9月30日。賃金の引上げも同日までに完了させる
- 事業場内で一番低い時給を50円以上引き上げ、あわせて設備投資を行う
- 交付決定を受ける前に設備を買うと対象外。順番を守る
- 事業完了期限は原則として交付決定年度の1月31日。予算の範囲内で早期に終了することもある
とにかく時間がありません。もともと設備投資を予定していて、最低賃金の改定で賃上げもしなければならない。この2つが重なっている会社は、細かいことを詰める前に、まず管轄の労働局へ問い合わせてください。
姫路で、中小企業の労務と採用定着のご支援をしています。
お困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)|姫路の社会保険労務士
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年9月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。
姫路を拠点に、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する伴走支援を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
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