先日、姫路市内の会社の定例面談で、総務を担当している方から相談を受けました。この会社は今年から、従業員が年間休日を「108日」か「123日」のどちらかから選べる制度を始めています。来年のカレンダーを作るために、全員に希望を聞いて、選び終えたところでした。
ところが、賞与をどうするかが決まっていません。夏の賞与は、判断を先送りして、前の年と同じ額で払いました。今年の冬の賞与で、休日を多く選んだ人と少なく選んだ人に、差をつけるのかどうかが、次の課題になっています。今日はこれについて、私の持論をお話しします。
目次
目次
- 相談の概要
- 休日が多い人は、同じ月給でも時給が高くなる
- 原則は、給与も賞与も働く時間の割合で差をつける
- すでに給与を下げないと伝えているなら、給与を据え置いて賞与で調整する
- 賞与の差は、年間の所定労働日数の割合で計算する
- 計算方法は、賃金規程に書く
- 差をつける理由は、前もって全員に説明する
- よくある質問
- まとめ
相談の概要
この会社は、従業員が20人ほどです。休日が多い選択肢を選んでも、月給は下げない方針で、制度を始めました。
・年間休日を、108日か123日から、従業員が選ぶ
・給与は、どちらを選んでも変えない
・夏の賞与は、前の年と同じ額で払い、差をつけなかった
・来年の休日を選んでもらう朝礼で、「給与は変えないが、賞与で差をつける」という方針を説明した(計算方法は、まだ決まっていない)
・休日が少ないほうを選んだ人から、「なぜ休日が多い人と、給与が同じなのか」という声が出た
従業員同士は、給与や賞与の額を、お互いに話しています。差をつけるにしても、つけないにしても、理由を説明できないままでは、不満が残りやすくなります。
休日が多い人は、同じ月給でも時給が高くなる
まず、不満の原因を数字で確認します。月給を時給に直すときは、月給を、1か月の平均所定労働時間で割ります。時給に直すときの月給には、家族の人数や住居費に応じて支給される手当や、通勤手当などを含めません。割増賃金の計算などで使われる、一般的な換算方法です。最低賃金を確認するときは、含めない手当の範囲が少し違います。
1か月の平均所定労働時間は、(365日から年間休日を引いた日数)に、1日の所定労働時間をかけて、12か月で割って求めます。年間日数は、年によって変わりますが、ここでは365日で計算します。
1日の所定労働時間が8時間、月給が30万円の従業員で、休日が108日の人と、123日の人を比べてみます。
・108日の人:(365日 − 108日)× 8時間 = 2,056時間。12か月で割ると、1か月の平均は約171.33時間。30万円 ÷ 171.33時間 = 約1,751円
・123日の人:(365日 − 123日)× 8時間 = 1,936時間。12か月で割ると、1か月の平均は約161.33時間。30万円 ÷ 161.33時間 = 約1,860円
月給が同じでも、休日が15日多い人の時給は、約109円高くなります。年間では、働く時間が120時間も違うのに、給与が同じだからです。休日が少ないほうを選んだ人が、「休日が多い人より、自分のほうが多く働いているのに、同じ給与なのはおかしい」と感じるのは、自然なことです。
原則は、給与も賞与も働く時間の割合で差をつける
では、どうすれば納得を得られるのか。私の原則は、給与も賞与も、フルタイムを100%として、働く時間の割合で差をつけることです。
週40時間のフルタイムの月給が30万円の会社で、週30時間で働く人は、働く時間がフルタイムの75%です。月給も、30万円の75%にあたる22万5,000円になります。賞与も同じ割合で計算します。ただし、割合で下げた結果が、地域別最低賃金を下回ってはいけません。また、週の所定労働時間が通常の労働者より短い人は、短時間労働者にあたります。本人から求められたときは、フルタイムの人との待遇の違いの内容と理由を、説明する義務があります(パートタイム・有期雇用労働法)。年間休日が違っても、週の所定労働時間が通常の労働者と同じなら、短時間労働者にはあたりません。
私は、基本給は、仕事の能力への対価だと考えています。その能力を会社が使える時間が短ければ、時間の割合で調整する設計に、筋が通ります。時間の違いを無視して、同じ金額を払い続けると、「それなら、休日が多いほうが得だ」と、休日の多いほうを選ぶ人が増えやすくなります。
ここで、これから休日の選択制を始める会社へ、注意があります。すでに働いている人について、休日を多く選ぶと給与が下がる設計にするなら、休日を選ぶ前に、変更の内容と、下がる額を具体的に説明してください。本人が理解したうえで同意することが必要です。書面を取れば足りる、というものではありません。労働条件を下げるには、本人の同意が原則だからです(労働契約法第8条)。就業規則の変更で下げる場合は、第9条・第10条の問題になります。
すでに給与を下げないと伝えているなら、給与を据え置いて賞与で調整する
今回の相談の会社は、「給与は変えない」と伝えて、休日を選んでもらいました。すでに全員が選び終えているので、これから給与を割合で下げるには、一人ひとりの同意が必要になります。そこで私は、給与は据え置き、賞与で差をつける方法を提案しました。
ただし、賞与で差をつける場合も、選んだあとに行えば、選ぶときの前提を変えることになります。この会社は、来年の休日を選ぶ朝礼で、「給与は変えず、賞与で差をつける」という方針を伝えました。ただ、計算方法も、下がる額も、まだ示していません。今年の冬の賞与については、その方針も伝えていません。今年の冬の賞与は、すでに選んだ休日が前提なので、計算方法と下がる額を具体的に示したうえで、本人の同意を得るのが安全です。来年分は、カレンダーを確定する前なので、同意を得るか、選び直す機会を設けるのが安全です。現在の賃金規程で賞与の決め方がどう定められているかによって、必要な手続きは変わります。
給与を据え置く方法には、生活を守るという面もあります。給与が低い人は、割合で下げると、毎月の家賃や、子どもの学費や、ローンの支払いに響きます。賞与は、会社の業績や働いた量に応じて、金額を調整しやすい賃金です。毎月の固定の支払いに直結しないので、金額が変わっても、毎月の支払いへの影響は比較的小さく済みます。
反対に、月給が高い人は、割合で下げても、生活は成り立ちます。月給が100万円の人が、123日を選んで約94万円になっても、生活への影響は、比較的小さいでしょう。給与の水準で、方法を分ける会社もあります。ただし、分けるなら、その基準を賃金規程に書き、全員に説明してください。基準が曖昧なままだと、新しい不満の火種になります。
賞与の差は、年間の所定労働日数の割合で計算する
賞与の計算方法は、すでに賃金規程に定めがある会社は、その範囲内で、これから決める会社は、会社の方針で決められます(不合理な待遇差や差別にならないことが前提です)。私がお勧めするのは、年間の所定労働日数の割合を使う方法です。1日の所定労働時間が同じなら、日数の割合は、働く時間の割合と同じになります。
ここでは、休日が少ない108日の人を、100%の基準にします。休日が多い選択肢の人には、年間の所定労働日数の割合をかけます。
・108日の人の年間所定労働日数:365日 − 108日 = 257日(100%)
・123日の人の年間所定労働日数:365日 − 123日 = 242日
・123日の人の割合:242日 ÷ 257日 = 約94.16%
月給とは別に決める賞与の基準額が30万円なら、108日の人は30万円、123日の人は、30万円 × 約94.16% = 約28万2,500円です。差は約1万7,500円で、休日が15日多い人は、賞与が約5.8%減る計算になります。賞与が月給に連動する会社で、月給も割合で下げている場合は、二重に減らないように注意してください。
計算方法は、会社の方針で決められます。たとえば、基準額に勤続年数や評価を加える、減らす幅を半分にする、差をつけず全員を100%にする、などです。賞与の算定対象になる期間の途中で、休日の制度が始まった場合は、新しい制度が適用される部分をどう扱うかも、あわせて決めてください。
計算方法は、賃金規程に書く
賞与は、法律で、会社に支給が義務付けられているものではありません。ただし、賞与を支給すると定める場合は、就業規則に記載する必要があります(労働基準法第89条)。支給の時期や金額の決め方まで書いておくことをお勧めします。賃金規程は、就業規則の一部です。
賃金規程に、「賞与の額は、基準額に、年間所定労働日数の割合をかけて決める」のように書いておけば、差をつける根拠が、会社の判断ではなく、規程になります。規程に書いてあるかどうかで、従業員への説明の説得力が変わります。書いた以上は、その計算方法で払う責任が、会社にも生まれます。
すでにある賞与のルールを、従業員にとって不利益な内容に変えるときも、原則は、従業員の同意を得ることです(労働契約法第9条)。同意を得られない場合は、従業員代表の意見聴取(労働基準法第90条)や届出に加えて、変更の合理性と周知を満たす必要があります(労働契約法第10条)。合理性による変更は、あくまで例外です。
差をつける理由は、前もって全員に説明する
給与でも賞与でも、差をつけるなら、休日を選ぶ前に、できなければ賞与の額が決まる前に、全員に説明してください。賞与の明細を見てから、「なぜ減っているのか」と聞かれても、会社は、後出しで理由を説明することになります。
説明で伝えることは、次の3つです。
- 休日の日数によって、給与や賞与に差がつくこと
- 差がつく理由は、働く日数や時間の違いであること
- 計算の方法と、その根拠が賃金規程にあること
この会社は、夏の賞与では、差をつけず、説明もしていません。来年の休日を選ぶ朝礼で伝えたのは、方針だけです。計算方法と、下がる額は、まだ誰にも示していません。今年の冬の賞与の前と、来年の休日を確定する前に、朝礼など、全員が集まる場で、計算方法と額まで含めて説明することを、お勧めします。説明したうえで、冬の賞与は本人の同意を得て、来年分は同意を得るか、選び直す機会を設けてください。
よくある質問
Q. 休日が多い人の給与を下げずに、賞与だけで差をつけても、不公平になりませんか?
A. 給与を据え置くと、休日が多い人の時給は、休日が少ない人より高いままです。賞与で調整しても、時間あたりの賃金は、完全にはそろいません。それでも、すでに給与を下げないと伝えている会社なら、賞与で調整する形が考えられます。選ぶ前に計算方法と額を示していなかったなら、示したうえで、すでに選んだ休日の分は同意を得るのが安全です。これから選ぶ分は、選び直す機会も設けられます。現在の賃金規程の定めによって、必要な手続きは変わります。
Q. 休日の選択は、毎年変えてもよいのですか?
A. 変えてよいかどうかは、会社が就業規則に定めたルールで決まります。休日の区分は、就業規則に必ず書きます(労働基準法第89条第1号)。選ぶ時期や変更できる条件も、休日に関する事項として、あわせて書いておくべきです。年間のカレンダーは、週40時間と、法定休日の確保を満たすように作ります。休日の置き方によっては、1年単位の変形労働時間制が必要になることがあり、その場合は、就業規則の定めと、労使協定(労働基準監督署への届出も必要)が必要です。労働条件通知書には、休日に関する事項(休日の区分や選び方)を書きます。年間休日の日数も、あわせて書くと親切です。
まとめ
休日を選べる会社で、給与や賞与が同じままでは、働く時間が違う人の間で、不満が出ます。私の原則は、給与も賞与も、フルタイムを100%として、働く時間の割合で差をつけることです。
すでに給与を下げないと伝えている会社は、給与を据え置いて、賞与で調整する方法があります。賞与で差をつける場合も、選ぶ前に計算方法と額を示していなければ、示したうえで、本人の同意を得るのが安全です。これから選ぶ分は、選び直す機会も設けられます。どちらを選ぶ場合も、計算方法は賃金規程に書いてください。
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