姫路の社労士が解説|最低賃金+55円(2026年度目安)決定——賃金テーブルを直す前に確認すべきこと

姫路の社労士が解説|最低賃金+55円(2026年度目安)決定——賃金テーブルを直す前に確認すべきこと

2026年7月28日、中央最低賃金審議会は2026年度の最低賃金改定の目安を答申しました。全国加重平均は1,176円、引き上げ幅は55円。過去2番目の大きさです。ランク別では、埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪など大都市圏を含むAランクが+54円、それ以外の地方のB・Cランクが+56円と、地方の引き上げ幅が都市部を上回る異例の答申となりました。

兵庫県を含む各都道府県の最終的な金額は、この目安をもとに各地方審議会で今後決定され、例年通りであれば10月頃に発効します。「うちはパートさんの時給を、最低賃金に少し毛が生えた程度で設定している」——そんな会社ほど、今回の改定は賃金テーブル全体に波及します。今日は、時給を直す前に確認すべきことをお伝えします。


目次

  1. 最低賃金だけ上げると起きる「逆転現象」
  2. 賃金テーブルを直す前に確認すべき3つのこと
  3. 人件費増加分を、どう吸収するか
  4. 賃上げは「渡す額」より「伝え方」で受け止められ方が変わる
  5. よくある質問

最低賃金だけ上げると起きる「逆転現象」

最低賃金に合わせて新人の時給だけを上げると、既存社員との差がほとんどなくなる、あるいは逆転してしまうケースがあります。3年働いたベテランパートと、入社したての新人が同じ時給——これでは、ベテランのモチベーションは確実に下がります。

この逆転現象は、じわじわと組織を蝕みます。「頑張っても、新人と同じ扱いなら意味がない」という空気が広がれば、一番働いてほしいベテラン層から離れていきかねません。最低賃金対応は「一番下の時給を上げる作業」ではなく、「賃金テーブル全体のバランスを取り直す作業」だと捉えてください。

実際、私が姫路の顧問先で賃金相談を受ける中でも、「最低賃金だけ機械的に上げ続けてきた結果、勤続5年目と入社1年目の時給差が数十円しかない」というケースに度々出会います。従業員本人が声を上げないまま、静かに不満を溜め込んでいることも多く、賃金台帳を見て初めて経営者が異常に気づくということも珍しくありません。


賃金テーブルを直す前に確認すべき3つのこと

  • 現在の時給・給与レンジと、確定後の最低賃金との差を全従業員分で洗い出す
  • 勤続年数・役割の違いが時給に反映されているか確認する
  • 人件費増加分を、価格転嫁や業務効率化でどこまで吸収できるか試算する

特に見落とされがちなのが3つ目です。人件費だけを見て慌てるのではなく、生成AIによる業務効率化など、コストを吸収する打ち手もセットで検討することをお勧めしています。1つ目・2つ目についても、エクセル一枚で構わないので、全従業員分の時給と勤続年数を一覧化してみてください。見えていなかった逆転現象や、極端な差が可視化されます。

洗い出した結果、逆転現象が見つかった場合は、一度にすべてを是正しようとせず、優先順位をつけて段階的に手をつけることをお勧めします。特に、退職リスクの高いベテラン層から先に手当てすることで、限られた原資でも効果的な配分ができます。


人件費増加分を、どう吸収するか

最低賃金の引き上げは、原資の確保とセットで考える必要があります。多くの中小企業にとって、値上げによる価格転嫁は簡単ではありません。だからこそ、業務の効率化によって人件費増加分を吸収する視点が重要になります。

例えば、手作業で行っていた事務作業を生成AIで効率化できれば、その分の時間を他の付加価値の高い業務に回せます。時給を上げるだけでなく、「同じ人件費でどれだけの成果を出せるか」という生産性の視点を、賃金改定のタイミングであわせて見直すことをお勧めします。

価格転嫁についても、一律に値上げするのではなく、原価が特に上がっている商品・サービスから優先的に見直すという段階的なアプローチが現実的です。すべてを一気に変えようとすると、取引先との関係にも影響が出かねません。人件費の増加分を、値上げと効率化の両方でバランスよく吸収していく発想を持ってください。


賃上げは「渡す額」より「伝え方」で受け止められ方が変わる

最低賃金対応で時給を上げるとき、多くの会社は給与明細だけで淡々と反映させます。しかし、同じ55円の値上げでも、「法律で決まったから仕方なく」と伝わるか、「あなたの頑張りに応えたい気持ちも込めて」と伝わるかで、受け止め方はまったく違います。

制度としての賃金改定(ハード)に、一言の対話(ソフト)を添える。この小さな積み重ねが、法対応をそのまま定着施策に変えてくれます。特にパート・アルバイトの方は、正社員と違って会社からの説明を受ける機会自体が少ない傾向にあります。改定のタイミングこそ、日頃伝えられていない感謝を言葉にする良い機会だと捉えてください。

給与明細を渡すだけで終わらせず、朝礼やミーティングの場で「今回の改定の背景」を一言添えるだけでも、受け止め方は変わります。法律で決まったことだからこそ、あえて会社の言葉で語り直す。この一手間が、単なる法対応を「会社が従業員を大切にしている」というメッセージに変えてくれます。


よくある質問

Q. 兵庫県の最低賃金はいつ正式に決まりますか?

A. 中央審議会が示すのはあくまで全国的な目安です。実際の金額は、この目安をもとに兵庫地方最低賃金審議会が審議し、例年10月頃に正式発効します。目安の段階から準備を始めておくと、直前で慌てずに済みます。

Q. 最低賃金を下回っていた場合、どうなりますか?

A. 発効日以降、最低賃金を下回る賃金設定は違法となり、罰則の対象にもなり得ます。発効日前に必ず全従業員の時給・月給を最低賃金換算で確認し、下回る場合は速やかに改定してください。月給制の従業員も、時給換算した場合に下回っていないか、忘れずに確認する必要があります。基本給だけでなく、諸手当の扱いによって最低賃金の対象となる賃金の範囲が変わる点にも注意してください。

Q. 助成金で賃上げの原資をカバーする方法はありますか?

A. 賃上げに取り組む中小企業向けの助成金や補助金が用意されている場合があります。制度は毎年見直されるため、賃金改定の検討と同じタイミングで、活用できる制度がないか確認しておくことをお勧めします。ただし、助成金はあくまで後押しであり、それ自体を賃上げの前提にしてしまうと、制度変更があった際に計画が崩れるリスクがある点は忘れないでください。

Q. パートの時給を上げると、扶養の範囲に収まらなくなる従業員が出てきます。どう説明すればいいですか?

A. 時給が上がった分、働く時間を調整したいという希望が出てくるのは自然なことです。一方的に「時給が上がったので同じ時間働いてください」と伝えるのではなく、本人の希望を聞いたうえでシフトを調整する姿勢が信頼につながります。会社側の人員配置にも影響するため、早めに個別面談で意向を確認しておくことをお勧めします。


まとめ

今回の最低賃金改定は、過去2番目の引き上げ幅です。最低ラインだけを動かすのではなく、賃金テーブル全体を見直し、伝え方まで含めて準備することが、結果的に定着にもつながります。原資の確保と、現場への伝え方、両方を早めに準備しておきましょう。発効まで時間があるようで、実務にかかる工数を考えると決して長くありません。今のうちに一歩ずつ進めておくことをお勧めします。

「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。