先日、従業員12人の会社の経営者から、給与の締め日を25日締めから20日締めに変えたいという相談を受けました。支払日は今までどおり月末のままです。
理由は2つありました。税理士に毎月の試算表を早く作ってもらいたいこと、そして銀行に給与の振込を依頼する締切が支払日の3営業日前で、25日に締めると計算と確認の時間が足りないことです。会社の事情として、十分あり得る判断だと思いました。ただ、私が最初に気になったのは手続きではなく、社員の手取りでした。
今日は、締め日を動かすときに、社員の手取りと手続きでどこに気をつけるかをお話しします。
目次
目次
- 相談の概要
- 日割りで減らすと、5日分の支払いが1か月後ろにずれ続ける
- 最初の月の給与は、日割りで減らすか、満額払うかを決める
- 日割りで減らす場合は、変更の月をボーナスのある月に合わせる
- 締め日は賃金規程の記載事項。規程を直して意見を聞き、周知して届け出る(日割りで減らす場合は同意書も取る)
- 給与計算の周辺にある5つの仕組みも見直す
- 日割りで減らすなら、決める前に社員全員へ説明する
- よくある質問
- まとめ
相談の概要
この会社は、今は毎月25日に給与を締めて、月末に支払っています。これを毎月20日締めに変えて、支払いは月末のままにしたい、という相談でした。
理由の1つ目は、税理士に作ってもらう毎月の試算表です。締め日が遅いと完成も遅れて、今月の利益が分かるころには翌月も半ばを過ぎてしまいます。2つ目は、給与の振込を銀行に依頼する締切が支払日の3営業日前なので、25日に締めると計算と確認の時間がほとんど残らないことでした。
社長は、年内には変えたいと考えていました。社員にはまだ何も話しておらず、「最終的にもらえる金額は同じなのだから、文句は出ないだろう」というのが社長の見立てでした。総額が同じという点は正しいのですが、受け取る時期が変わります。そこで、具体的に何が起きるのかを数字で整理しました。
日割りで減らすと、5日分の支払いが1か月後ろにずれ続ける
たとえば12月分から20日締めに変えるとします。11月分の給与は、10月26日から11月25日までの分で、今までどおり11月30日に払います。次の12月分は、11月26日から12月20日までの分です。今までなら12月25日までの30日分だったものが、25日分で終わってしまいます。
12月21日から25日までの5日分は、1月に払う給与に回ります。1月に払う給与は、12月21日から1月20日までの満額1か月分です。ただ、1月21日から25日までの5日分は、今度は2月に払う給与に回ります。この繰り返しで、日割りで減らして払うと、毎月の給与の額は変わらないまま、毎月21日から25日に働いた分の支払いが、1か月遅れる状態がずっと続きます。
この5日分のずれは、社員が在籍している間は続き、退職するときの最後の給与で解消します(退職した社員から請求があれば、7日以内に払います。労働基準法第23条)。たとえば3月31日に退職する社員の最後の給与は、3月21日から31日までの11日分になり、今までの6日分より5日分多くなります。社長の言う「最終的にもらえる金額は同じ」は、この退職時の精算まで含めれば正しいのです。ただし、社員から見れば、在籍している間ずっと5日分の支払いが後ろにずれている変更です。
最初の月の給与は、日割りで減らすか、満額払うかを決める
最初の月の給与の払い方は、2つあります。1つ目は、対象期間が25日になった分だけ日割りで減らして払うやり方です。2つ目は、期間が短くなっても減らさず、月給を満額払うやり方です。
日割りで減らすと、月給25万円の社員なら、5日分で約4万2,000円下がります(ここでは30日で割って計算しました。日割りの基準は賃金規程の定めによります)。支給額が約4万2,000円減り、手取りでも約3万9,000円前後減ります(社会保険料や住民税は変わらないため。扶養の状況で多少前後します)。家賃や住宅ローン、カードの引き落としが月末にある社員にとっては、小さくない金額です。
満額払うやり方なら、社員の手取りは減りません。そのかわり、会社が5日分を先に払う形になります。月給25万円の社員が12人なら、25万円×12人×5日÷30日で、約50万円です。この先払い分は、各社員が退職するときの最後の給与の計算で充当しますので、通常は会社の最終的な持ち出しにはなりません。ただし、毎月21日から24日の間に退職すると、最後の給与が1日分から4日分しかなく、先に払った5日分を充当しきれずに、払い過ぎが出ます。この払い過ぎを返してもらう取り決めと、「前払い分は最終給与で精算する」という扱いは、賃金規程と同意書の両方に書いておきます。退職後に回収するのは難しいので、最後の給与から差し引ける形にしておくのが現実的です。
資金に余裕があるなら、満額払うほうが社員との信頼は守れます。余裕がないなら、日割りで減らして、次の章のように時期を工夫します。皆さんの会社なら、どちらを選ぶでしょうか。
日割りで減らす場合は、変更の月をボーナスのある月に合わせる
日割りで減らすなら、変更の月はボーナスを払う月に合わせるのが、私の提案です。この会社は12月にボーナスを払っているので、12月分の給与から20日締めに切り替える案を出しました。同じ月に数十万円のボーナスが振り込まれるので、約4万円減っても家計への影響は小さくなります。
逆に、ボーナスのない月に突然4万円減ると、社員は「会社は何も考えていない」と感じます。金額としては同じでも、社員が受け取る印象はまったく違います。
ただし、ボーナスの月に合わせても、減った5日分が戻るのは退職のときです。家計への影響が和らぐだけで、5日分の支払いがずれていることは変わりません。だからこそ、社員全員に先に説明しておく必要があります。
締め日は賃金規程の記載事項。規程を直して意見を聞き、周知して届け出る(日割りで減らす場合は同意書も取る)
パート・アルバイトを含めて常時10人以上の社員がいる会社は、就業規則を作って、労働基準監督署に届け出なければなりません。給与の締め日は、その就業規則(賃金規程)に必ず書く事項です。労働基準法第89条第2号が、賃金の締切り及び支払の時期を、就業規則に書く事項として定めています。締め日を変えるときは、賃金規程を直し、過半数労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する人の意見を聞いて、その意見を書いた書面を添えて届け出ます(労働基準法第89条・第90条)。
この届出や意見聴取をしなければ、30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法第120条第1号)。罰金とは別の問題もあります。日割りで給与が減る変更は、社員にとって不利益になる変更です。就業規則の変更だけで進める場合は、変更に合理性があるかが問われ、争いになるおそれがあります(労働契約法第9条・第10条)。さらに、雇用契約書に「毎月25日締め」と個別に書いてあり、就業規則が変わっても変えないと約束したと見られる場合は、就業規則の変更だけでは変えられません。社員の同意が必要です(労働契約法第10条ただし書)。契約書の記載が就業規則を写しただけか、別に約束したものかは、書き方や経緯で判断が分かれます。迷う場合は、同意書を取る前提で進めるのが安全です。
日割りで減らす場合の進める順番は、次の5つです。
- 社員全員への説明(変更案の骨子を示す)
- 賃金規程の変更案づくり(施行日を決める)
- 変更案を示して、社員一人ひとりから同意書を取る(日割りで減らす場合)
- 過半数労働組合、または過半数代表者の意見聴取
- 変更後の賃金規程の周知(労働基準法第106条)と、労働基準監督署への届出(どちらも施行日までに済ませます)
満額払いの場合は、減額についての同意書までは求められにくく、規程の変更、意見聴取、周知、届出を進めます。ただし、払い過ぎの精算については、同意書で社員の了解を取ります。また、契約書の記載が就業規則とは別の約束と見られる場合は、満額払いでも、その記載を直すことについて社員の同意を取ります。
給与計算の周辺にある5つの仕組みも見直す
締め日を変えて困るのは、給与の計算だけではありません。締め日をもとに動いている仕組みは、会社の中に意外と多いからです。次の5つが代表的です。この会社では、一覧にして確認することにしました。ご自身の会社に当てはめて、確認してみてください。
- 給与計算ソフトと、勤怠システムの締め日の設定
- 労働時間の集計期間(残業の割増賃金の計算、36協定や1か月単位の変形労働時間制の起算日)
- 雇用保険の離職票や育児休業給付金の手続き(賃金支払基礎日数や賃金額を、賃金締切日ごとの期間で数えます。締め日を変えた月は期間が25日になるため、ハローワークの記載方法を確認します)
- 育児の時短勤務の手当など、給与の計算期間ごとに金額を決めている手当
- 雇用契約書や労働条件通知書の賃金欄
たとえば育児の時短勤務の社員は、計算期間が変わると、手当を払う日数の数え方が変わって金額が合わなくなることがあります。給与計算の事務だけを見ていると、こうした手当の金額の食い違いは見落としがちです。なお、36協定や変形労働時間制の起算日を賃金の締め日に合わせている場合は、起算日も見直します。起算日を変えるなら、協定の結び直しや就業規則の変更、届出が必要です。
日割りで減らすなら、決める前に社員全員へ説明する
この会社の社長は、「全員に伝えるつもりです」と言いました。大事なのは、伝えるタイミングです。決めたあとの報告ではなく、決める前に、変更の理由と、手取りが変わる月があることを伝えます。
説明で話すことは、次の4つです。
- 締め日を変える理由
- 最初の月の給与がいくら変わるか
- 減った5日分は、退職のときの最後の給与で精算されること
- 困る人は申し出てほしいこと
たとえば「税理士に早く数字を出してもらうため、給与の締め日を5日早めます。12月分の給与は、5日分(月給の6分の1ほど)少なくなります。ただ、その5日分はなくならず、退職のときの最後の給与でお渡しします」という言い方です。
反対する社員がいたら、理由を聞きます。「毎月の引き落としが厳しい」という理由なら、その社員の5日分だけ、満額で先に払う方法もあります。先に払った分は、退職時の最後の給与で精算する扱いを、書面に残しておきます。全員に説明して、困る人には個別に向き合う。それが、社員に不利益となる変更を円満に進める一番の近道です。
よくある質問
Q. 締め日を変えるのに、社員全員の同意書は必要ですか?
A. 同意書という書面そのものは、法律で必須とは決められていません。ただし、契約書の記載が就業規則とは別の約束と見られる場合は、社員の同意が必要です。また、日割りで給与が減る場合は、同意書を取っておくのが一番確実です。同意書は、金額、時期、精算の方法を書面で示して、十分に説明したうえで取って初めて意味があります。説明がないままの署名だけでは、あとで有効性を争われるおそれがあります。合意なしに就業規則の変更で不利益に変えることは、原則としてできません。例外は、変更後の就業規則を周知したうえで、変更が合理的な場合です(労働契約法第9条・第10条)。同意が取れない社員がいる場合、その社員の最初の月だけ満額払いにすることはできますが、契約書の締め日の記載を直す同意は別に必要です。進め方は専門家と相談して決めます。
Q. 支払日は月末のまま変えません。それでも賃金規程の変更は必要ですか?
A. 必要です。締め日も就業規則に書く事項ですから、支払日が同じでも、締め日が変わるなら賃金規程を直します。常時10人以上の会社は、直した賃金規程を労働基準監督署に届け出ます。10人未満の会社に届出の義務はありませんが、賃金規程や雇用契約書に「毎月25日締め」と書いてあるなら、その記載は直す必要があります。
まとめ
給与の締め日を5日早めると、最初の月の対象期間が25日になります。日割りで減らす場合、月給25万円なら最初の月の支給額が約4万2,000円減り、その5日分が戻るのは退職のときです。
変更の月は、ボーナスのある月に合わせると、家計への影響が和らぎます。会社に資金の余裕があるなら、月給を満額払う選択肢もあります。日割りで減らす場合の進める順番は、社員全員への説明、賃金規程の変更案、同意書、過半数代表者などの意見聴取、周知と労働基準監督署への届出です。給与計算の周辺にある5つの仕組みの見直しも、あわせて進めてください。皆さんの会社の社員は、5日分の話を聞いてどう感じるでしょうか。
経営者が数字を早く見たいという気持ちは、会社の成長にとって大切です。だからこそ、その事情を社員に正直に話して、一緒に納得してから変えてほしいのです。社員の信頼を、5日分の給与で失うのはあまりにもったいない話です。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。

