試用期間が終わる直前に本採用を断るのは、ほぼできない|姫路の採用定着士が伝える、欲しい人を決めずに欠員補充で採用した会社に起きること

試用期間が終わる直前に本採用を断るのは、ほぼできない|姫路の採用定着士が伝える、欲しい人を決めずに欠員補充で採用した会社に起きること

先日、姫路市内で金属部品の加工をしている、従業員18名ほどの工場にお伺いしたときのことです。来年、社長であるお父様から事業を引き継ぐ予定の専務さんが、壁のシフト表を見ながら、こう切り出されました。

「3か月の試用期間が、あと3週間で終わる社員がいるんです。続けてもらうかどうか、正直まだ決めかねていまして」

話を聞いていくと、本人の勤怠に問題はありませんでした。遅刻もなく、指示されたことはきちんとやる。ただ専務さんは、「本当は溶接の資格を持った人が欲しかった」と言います。一方の社長は面談をする予定すらなく、「来月からもよろしく」の一言で続けるつもりでした。

私がこの相談を聞いて最初に思ったのは、試用期間をどうするかより、ずっと手前の話でした。

今日はそれについて、私の持論をお話しします。


目次

  1. 相談の概要(試用期間があと3週間で終わる社員)
  2. 試用期間が終わるときの本採用拒否は、解雇と同じ扱いになる
  3. 本採用を断れない本当の原因は、欲しい人を決めずに欠員補充で採用したこと
  4. 求人を出す前に、欲しい人・契約の形・本採用の基準を決める
  5. 試用期間中に会社がやるべきことは、採点ではなく指導と記録
  6. 採用と試用期間に必要なハードとソフト
  7. よくある質問
  8. まとめ

相談の概要(試用期間があと3週間で終わる社員)

この工場では、20年以上働いていたベテランが定年で抜けたあと、その穴を埋めるために中途採用をしました。ハローワークに出した求人票は、職種欄が「製造スタッフ」、必要な資格の欄は空欄。応募してきた1人と面接をして、その場で採用しています。雇い入れたのは正社員で、就業規則に書いてある3か月の試用期間が付いていますが、雇用契約書は交わしておらず、労働条件を書いた紙は求人票だけという状態でした。

専務さんの言い分は、抜けたベテランができていた溶接も機械のメンテナンスも、今回入った方はどちらもできない、というものでした。「試用期間のうちなら、まだ間に合うんじゃないかと思っていました」——これが、専務さんの本音です。お気持ちはよく分かりますが、この感覚は法律の考え方とかなりズレています。


試用期間が終わるときの本採用拒否は、解雇と同じ扱いになる

試用期間中の社員は、まだ正式に雇っていないお試しの人ではありません。入社した日から労働契約は成立していて、会社の側に「適格でないと判断したら解約できる」という権利が残されているだけ、というのが法律上の整理です。

これを示したのが、三菱樹脂事件の最高裁判決(最高裁判所大法廷 昭和48年12月12日)です。3か月の試用期間が終わる直前に本採用を拒否された社員が争った事件で、拒否の理由は、採用のときに学生運動の経歴を隠していたことでした。最高裁はこの事件の結論そのものは出さず、高裁に差し戻していますが、そこで示された考え方が、いまも試用期間の実務の土台になっています。判決はまず、本採用を断ることは解雇にあたると言い切りました。普通の解雇より少しだけ広く認められはしますが、客観的に合理的な理由があり、世間の常識に照らして当然だと言える場合しか許されません。

判決は、その中身もはっきり書いています。採用のときには知ることができず、知れというほうが無理だった事実を試用中に知り、しかもその事実に照らして引き続き雇っておくのは適当でないという判断が、客観的に見ても相当だと言えるとき。この二段構えを満たして、はじめて断ることができる、と。ここが今回の急所です。溶接ができないことは、面接で聞けば分かったはずのことでした。本人が経歴や資格について嘘をついていた場合は別ですが、会社が確かめていなかっただけの事実を持ち出して、あとから本採用を断ることはできません。

解雇そのもののルールも当然かかります。労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き、世間の常識に照らして相当と認められない解雇を無効としています。採用のときに確かめられたはずのことは理由にならず、試用中にはじめて分かったことなら検討の余地がある。これが試用期間の本当の意味です。


本採用を断れない本当の原因は、欲しい人を決めずに欠員補充で採用したこと

ここまでは法律の話です。ですが私は、この工場で本当に起きた問題は、法律を知らなかったことではないと考えています。欲しい人を決めないまま、人が足りないから採った。原因はそこ一点です。

ベテランが辞めると決まった瞬間、頭の中は「穴をどう埋めるか」でいっぱいになり、求人を出す速さが最優先になります。応募が1人しか来なければ、判断の軸は「この人でいけるか」ではなく「今すぐ来られるか」に変わってしまいます。

欲しい人を言葉にしていなければ、面接で確かめようがありません。溶接の資格が要るのかどうかを決めていないのですから、「溶接はできますか」という質問すら出てきません。確かめていないことは、入社後に「思っていたのと違う」という形で必ず戻ってきます。

つまり、採用の失敗を試用期間で取り返すことはできません。入ってきた本人にも、何の落ち度もありません。求人票に書かれたとおりの仕事をしに来て、言われたことをきちんとやっている人に会社の段取り不足のツケを回すのは、法律以前にフェアではないと私は思います。直近に出した求人票を、一度見てみてください。必須の資格の欄は、埋まっていたでしょうか。

この工場では、社長と専務さんで欲しい人がまったく違っていました。承継を控えた会社ではよく起きることですが、すり合わせる場所は試用期間の終わりではなく、求人を出す前です。後回しにして困るのは、事情を知らないまま入ってきた社員のほうです。


求人を出す前に、欲しい人・契約の形・本採用の基準を決める

では、どうすればよかったのか。私が支援先にお伝えしているのは、求人を出すより前に、次の3つを決めて紙に書いておくことです。

1つ目:欲しい人を、資格・経験・任せる仕事で書く

「即戦力」「明るい人」では、面接で確かめられません。溶接の資格が必須なのか、入社後に取ってもらえばいいのか。ここを決めるだけで、求人票も面接の質問も全部変わります。必須の条件とあれば望ましい条件を分けておけば、応募が少ないときにどこまで譲れるかも、その場の勢いで決めずに済みます。

2つ目:契約の形を、正社員か有期契約か決める

正社員で採るのか、まずは1年の有期契約で採るのか。これも求人を出す前に決めることです。ただし、有期契約を「お試し」の代わりに使おうとするのは通りません。最高裁判所第三小法廷は、神戸弘陵学園事件(平成2年6月5日)で、こう判断しました。適性を見るために期間を区切ったのであれば、期間が来たら契約は終わるという明確な約束がない限り、それは契約期間ではなく試用期間である、と。契約書に「1年」と書いても、狙いがお試しなら、試用期間として扱われます。

3つ目:本採用の基準を、入社の日に数字で伝える

3か月後に何ができていれば本採用なのかを、「この機械の段取り替えを一人でできる」のように数字や行動で書き、入社の日に本人へ伝えます。私自身は、その前に面接で仕事に使う読み書きと計算の筆記試験と適性検査を必ず実施し、最低限の線も先に決めています。基準を先に言われている人は納得しますし、言われていない人は納得しません。ただし、基準を伝えておけばそれだけで本採用を断れる、というものではありません。基準は、本人に納得して伸びてもらうためのものであり、会社が何を教えるべきかを言葉にするためのものです。

なお、労働条件を明示することは、法律で決まっています(労働基準法第15条)。契約期間、働く場所と仕事の中身、始業と終業の時刻、休憩と休日、賃金の決め方と支払い方、辞めるときのこと。これらを書いた労働条件通知書(雇用契約書でも構いません)を、正社員でもパートでも、雇い入れるときに本人へ渡してください。本人が希望すればメール等でも構いません。渡していなければ、30万円以下の罰金の対象です。ハローワークの求人票は、その代わりにはなりません。労働条件を書いた紙を渡していない社員は、いませんか。


試用期間中に会社がやるべきことは、採点ではなく指導と記録

試用期間を、本人を観察して合否をつける期間だと思っている会社は少なくありません。私は逆だと考えています。試用期間は、会社が教える期間です。

何を、いつ、誰が教えたのか。どこでつまずいて、どう伝え直したのか。指示を守れなかったときに、いつ注意して、そのあとどう変わったのか。手帳でも日報の余白でも構いません。まずは3行で十分です。この記録が、あとで本採用の拒否や解雇が争いになったときに、会社の手元に残るいちばん確かな材料になります。三菱樹脂事件が求めている「客観的に合理的な理由」は、頭の中の印象からは出てきません。

記録を取ろうとすると、教える側が「何ができていないのか」を言葉にするので、たいていは本人も伸びます。今回の工場でも、3か月のあいだに溶接の練習をどこまでさせたのか、そもそも溶接をやってほしいと本人に伝えたのかを聞いてみると、どちらもしていませんでした。伝えていないことは、できるようになりません。


採用と試用期間に必要なハードとソフト

ハード(仕組み・決めごと)は、求人票の必須条件、契約の形、労働基準法第15条を満たす労働条件通知書、本採用の基準、そして試用期間中の指導の記録です。ソフト(関わる人の気持ち・誠意)は、社長と後継者が「どんな人と一緒に働きたいのか」を求人を出す前に本音で話しておくこと、そして入った人には何を期待しているのかを顔を見て伝えることです。

ハードがなければ、忙しくなった月に「とりあえず1人」で採ってしまいます。ソフトがなければ、書類はそろっているのに本人だけが何を求められているのか分からないまま3か月が過ぎます。採用は、ハードとソフトがそろって初めて、入った人の力になります。


よくある質問

Q. 入社から14日以内であれば、試用期間中の社員に辞めてもらえますか

A. 14日以内なら解雇予告が要らない、というだけの話です。労働基準法第21条第4号は試の使用期間中の者を解雇予告の対象外としていますが、これは30日前の予告や30日分以上の平均賃金の支払いが免除されるという手続の話で、解雇そのものが自由になるわけではありません。労働契約法第16条は入社何日目でも適用されます。14日は「自由に辞めさせられる期限」ではなく、予告手当がいるかどうかの分かれ目だとお考えください。

Q. 「うちには合わないので、自分から辞めてもらえませんか」と本人にお願いするのはどうですか

A. 会社から退職をお願いすること自体は違法ではありません。本人が納得して自分の意思で辞めるのであれば、合意による退職として成立します。ただし、本人がはっきり断ったあとも、何度も呼び出す、長時間にわたって説得する、仕事を取り上げるといったことを続ければ、違法な退職の強要と評価されます。その場合、本人があとから退職の意思表示を取り消せたり(民法第96条の強迫など)、会社が損害賠償を求められたりします。

ここからはモラルの話です。会社の都合で採った人に、会社の都合で辞めてくれとお願いするわけです。残っている社員は、その一部始終を見ています。辞めてもらった事実より、どういう辞めさせ方をしたかのほうが、社内に長く残ります。


まとめ

採用のときに確かめられたはずのことを理由に、試用期間が終わる直前に本採用を断るのは、法律上ほぼできません。三菱樹脂事件の基準に加え、労働契約法第16条は入社初日から適用され、14日を超えて働いていれば労働基準法第20条の解雇予告もかかります。ですが、本当の問題は法律を知らなかったことではありません。ベテランが抜けた穴を埋めることだけを考えて、欲しい人を決めないまま求人を出したことです。採用の失敗は、試用期間では取り返せません。取り返す場所は、求人を出す前にしかないのです。

この5つができていれば、試用期間の終わりに頭を抱えることはなくなります。

  • 必須の条件と、あれば望ましい条件を分けて書く
  • 正社員か有期契約かを決める
  • 本採用の基準を、入社の日に数字で伝える
  • 試用期間中の指導を、記録に残す
  • 社長と次の代で、どんな人と働きたいのかを先に話しておく

3年後、自分の会社を誰が回していて、そのとき隣にいてほしいのはどんな人なのか。社長自身が本気になって、それを問い続けてほしいのです。

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