2026年10月1日、静岡放送が「若手で年収1,000万円も夢じゃない?」という見出しで、ブルーカラーの仕事の人気が高まっていると報じました。記事に登場する静岡県沼津市の平成建設では、大学を卒業してから現場職を目指して入社する社員が年々増えていて、取材されたマンション建設の現場では20代、30代が中心になって働いています。
実は私は、その3日前の9月28日に、このブログで「鳶工事業の倒産が16年ぶりに100件超え」という記事を書いたばかりです。片方では若手が現場に集まり、もう片方では人が来ずに会社が潰れている。同じブルーカラーなのにまったく逆のことが起きていて、読んだ瞬間、すごく不思議に感じました。
今日はそれについて、私の持論をお話しします。
目次
目次
- ニュースの概要
- ブルーカラーを目指す若手は、ブルーカラーの中でも会社を選んでいる
- 若手が集まる平成建設は、職人を社員として雇い、自社で育てている
- 若手が会社の規模より先に見ているのは、雇用形態・給料の上がり方・育成体制
- 従業員10人未満の会社でも、3つの安心材料は社長1人で用意できる
- よくある質問
- まとめ
ニュースの概要
静岡放送の記事では、「鉱業関連(建設・土木)」に分類される職種の平均月給が、ここ6年で1.5倍に増えていると紹介されています。平成建設に入社して2年目の中村優輝さんは、自分の努力で資格を取って、年収を1,000万円、2,000万円に増やしていきたいと話していました。事務の仕事がAIに置き換わると言われる中、人にしかできない現場の仕事に若手の目が向いている、というのが記事の見立てです。
記事の後半では、静岡県富士市の富士教育訓練センターで、約150人の職人のタマゴが建築や土木の技術を学んでいる様子も紹介されています。作業を体験した杉本真子キャスターは、体力だけでなく、高い技術を吸収しようとする向上心が要る仕事で、誰にでもできるものではないと感想を述べています。
ブルーカラーを目指す若手は、ブルーカラーの中でも会社を選んでいる
2つのニュースを並べると矛盾しているように見えますが、私は両方とも本当のことだと考えています。ブルーカラーの仕事を目指す若手は、確かに増えています。ただ、その若手の行き先が、すべての会社に均等に散らばっているわけではありません。
9月28日の記事で書いたとおり、鳶工事業の倒産は1月から8月までで110件、その9割以上が従業員10人未満の会社でした。5期分の決算を比較できる鳶工事業者1万5,941社の売上高の合計は、4期連続で増えているのに、です。完工高1億円未満の会社では37.5%が赤字で、10億円から50億円の会社の赤字率7.0%とは5倍以上の差があります。若手は、ブルーカラーの中でも会社を選んでいる。そう考えると、2つのニュースはきれいにつながります。
では、若手は何を見て会社を選んでいるのか。売上が200億円近くあって安定している会社だから来るのか。親方と職人1人の会社は、小さいから不安に思われるのか。会社の規模による差は、確かにあると思います。ただ私は、若手が感じている不安は、規模よりもっと具体的なところにあると見ています。
若手が集まる平成建設は、職人を社員として雇い、自社で育てている
平成建設は、売上高198億円(2025年10月期)、社員551名の会社です。数字だけを見れば「大きい会社だから若手が来る」で話が終わりそうですが、この会社にはもう一つ特徴があります。マイナビの会社紹介には、営業や設計、施工管理だけでなく、現場で働く職人も社員として所属していると書かれています。施工を外注に丸投げせず、200名を超える職人を自社で抱え、自社で育てているのです。
元請の建設会社では、施工は協力会社や一人親方に任せるのが一般的です。職人を社員にすれば会社の固定費は増えるので、簡単にはまねできません。ですが、入社を考える側から見ると、意味がまったく違ってきます。
中村さんが「自分の努力次第で」と言い切れるのは、会社の社員として腰を据えて技術を磨き、その先で給料が上がっていく道筋が見えているからではないでしょうか。職人として独り立ちするまでの数年間を、会社が丸ごと引き受けてくれる。若手にとって、これほど安心できることはありません。
若手が会社の規模より先に見ているのは、雇用形態・給料の上がり方・育成体制
建設業のお客さんの採用定着を支援していて感じるのは、若手が会社を選ぶときに、次の3つの安心材料を見ているということです。
- 社員として雇ってもらえるか
- 資格や役割に応じて給料が上がる道筋が見えるか
- 誰が、どうやって育ててくれるのか
1. 社員として雇ってもらえるか
20歳の応募者が最初に気にするのは、自分が「社員」になれるのかどうかです。雨で現場が止まった日は給料が出ない日給制なのか、毎月決まった額が入る月給制なのか。健康保険や厚生年金に入れるのか。休みは何曜日で、年に何日あるのか。経営者からすれば当たり前の話ですが、給料の払い方・社会保険・休日が求人票から読み取れない会社は、それだけで候補から外されます。本人が気にしなくても、相談された親が必ず気にするところです。
親方と職人1人の会社が不安に思われる一番の理由は、規模が小さいことそのものではなく、「社員として雇ってもらえるのか」が外から見えないことだと私は考えています。
2. 資格や役割に応じて給料が上がる道筋が見えるか
次に見ているのは、その会社で働き続けた先の給料です。どの資格を取ったら手当がつくのか、職長を任されたら年収はどのくらいになるのか。静岡放送の記事の「年収1,000万円も夢じゃない」という言葉に若手が反応するのは、金額そのものより、頑張った先に何があるのかが具体的に見えるからです。
逆に、「頑張り次第で上げるから」「ちゃんと見とるから」と社長が口で言うだけの会社では、入社後の給料を思い描けません。社長の気持ちは本物でも、紙に書いていない約束は、20歳の新人にとっては無いのと同じです。
3. 誰が、どうやって育ててくれるのか
3つ目は、育ててもらえるかどうかです。富士教育訓練センターで作業を体験したキャスターが感じたとおり、職人の仕事は誰でもすぐにできるものではありません。だからこそ応募者は、「入ったら誰が教えてくれるのか」「何年で一人前になれるのか」を気にします。親方が横についてくれるのか、先輩が教えてくれるのか、外部の訓練施設に通わせてもらえるのか。これが分からないまま「見て覚えろ」と言われる会社には、今の若手はまず来ません。
従業員10人未満の会社でも、3つの安心材料は社長1人で用意できる
従業員10人未満の会社が、売上198億円の会社と同じ規模になることはできません。ですが、3つの安心材料を用意することは、規模に関係なくできます。私は、会社の仕組みを「ハード(制度・ルール)」と「ソフト(日々の対話や声かけ)」の両輪で考えるようにお伝えしていますが、ここでも両方が必要です。
ハードは、3つの安心材料を紙に書いて見せることです。雇用契約書には、社員として雇うこと、月給制か日給月給制か、雨で現場が止まった日の給料の扱い、社会保険に入ることを書きます。求人票には、育成を担当する人の名前と、1年目に覚える作業、取得を支援する資格とその手当の額を書きます。外部の訓練施設に通わせるなら、その費用を会社が持つことも書いてください。平成建設のように200名の職人を抱えることはできなくても、「社員として育てる」という約束は、紙1枚で示すことができます。
ソフトは、その約束が本物だと新人に感じてもらうことです。入社初日に、社長が「この1年は、この人があなたの先生です」と育成担当者を本人の前で紹介する。最初の資格を取ったら、手当が上がった給与明細を社長が手渡しして、「よう頑張ったな」と声をかける。紙に書いた約束が、目の前で一つずつ守られていくのを見て、新人は「この会社なら一人前になれる」と感じます。
小さな会社が社長1人の手で新人に付きっきりで技術を教えられることの強みは、9月28日の記事でも書いたとおりです。その強みも、雇用契約書と求人票に書いてはじめて、応募者に伝わります。
よくある質問
Q. 雨で現場が止まる仕事なので、月給制にすると人件費が重くなります。日給制のままではダメですか?
A. 日給制が法律違反というわけではありません。ただし、日給制でも最低賃金や残業代、社会保険の加入義務は月給制と変わりませんし、天候ではなく会社の都合で休ませた日は、休業手当(平均賃金の6割以上)が必要になることがあります。そのうえで、応募者から見ると「雨が続いた月は給料が減る」というのは、生活の見通しが立たない大きな不安です。いきなり全員を月給制にするのが難しければ、まず新しく採用する若手だけ月給制にする、雨で休んだ日も一定額を保障する、といった形から始めてください。人件費の重さだけで判断せず、その人が一人前になってから毎月稼いでくれる売上と比べて考えることが大切です。
Q. 社員として雇うのではなく、一人親方として仕事を請けてもらう形ではいけませんか?
A. 独立した事業者として、仕事の進め方を自分で決め、道具も自分で用意している職人と請負契約を結ぶこと自体は問題ありません。ですが、未経験の若者を一人親方として扱うのはおすすめしません。経験の有無にかかわらず、会社が仕事のやり方や時間を指示しているなら、契約書の名目が請負でも、実態は労働者と判断されることがあるからです。なお、2020年10月の改正建設業法により、建設業の許可・更新を受けるには、会社(営業所)が法律上加入義務のある健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入していることが要件になりました。それ以上に、若手は「社員として雇ってもらえない」こと自体に不安を感じて、応募してきません。
まとめ
ブルーカラーの仕事の人気が高まり、平成建設には若手が集まっています。その一方で、鳶工事業の倒産は16年ぶりに100件を超え、そのほとんどは従業員10人未満の会社でした。2つのニュースは矛盾しておらず、若手はブルーカラーの中でも会社を選んでいます。
若手が会社の規模より先に見ているのは、社員として雇ってもらえるか、資格や役割に応じて給料が上がる道筋が見えるか、誰がどうやって育ててくれるのか、という3つの安心材料です。雇用契約書と求人票に「社員として育てる」約束を書くこと(ハード)と、その約束を新人の目の前で一つずつ守ること(ソフト)。この両輪は、従業員が何人の会社でも、社長1人で始めることができます。
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