姫路の特定社会保険労務士が伝える、有効求人倍率1.17に隠された中小企業の採用の現実

姫路の特定社会保険労務士が伝える、有効求人倍率1.17に隠された中小企業の採用の現実

2026年7月23日

「有効求人倍率は1.17倍だから、採用はそこまで厳しくない」——そう思っていませんか。この数字、実は大企業も含めた全体の平均です。従業員100人以下の中小企業に絞ると、実質8〜9倍という全く違う景色が見えてきます。先日の採用定着力アップセミナーでお伝えした「今、中小企業の採用現場で本当に起きていること」を、数字とともに整理します。

目次

  1. 有効求人倍率1.17の「平均」に隠された中小企業の実態
  2. 選ばれる中小企業、選べる大企業
  3. 生産年齢人口も新成人も、これからも減り続ける
  4. 退職代行は20人に1人が使う「当たり前」のサービスに
  5. 自己都合退職でも「1ヶ月」で失業手当が出る時代
  6. だからこそ、採用の前にやるべきことがある

有効求人倍率1.17の「平均」に隠された中小企業の実態

有効求人倍率1.17倍。この数字だけ見ると、求職者1人に対して企業が1.17社。まあまあ拮抗しているように見えます。ニュースでこの数字を見て「まだそこまで深刻じゃないんだな」と感じた経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

ただし、これは厚生労働省「一般職業紹介状況」による、全国・全職種・全世代を対象にした数字です。これとは別に、新卒採用の世界に目を向けると、企業規模によって全く違う景色が見えてきます。

リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2026年卒)」によると、従業員300人未満の企業の大卒求人倍率は8.98倍。中小企業庁の「中小企業白書」でも、この調査結果をもとに中小企業の採用の厳しさが繰り返し取り上げられています。

つまり新卒採用の現場では、学生1人に対して中小企業およそ9社が「うちに来てください」とお願いする構図です。選ばれる立場、それも相当厳しい選ばれ方です。「有効求人倍率1.17倍」という全体の数字だけを見て安心してしまうと、新卒採用における自社の本当の立ち位置を見誤ってしまいます。


選ばれる中小企業、選べる大企業

一方、同じ調査で従業員5,000人以上の企業を見ると、大卒求人倍率は0.34倍。求人の数より学生の数の方が多く、企業側が「選べる」立場にあります。同じ新卒採用市場の中で、片方は選ぶ側、もう片方は選ばれる側。これほど立場が違うのに、規模で見なければ気づけません。

大企業の経営者と中小企業の経営者では、採用に対する危機感がまるで違って当然です。この差を正しく認識できているかどうかが、採用活動の出発点になります。

「選ばれる立場である」という前提に立てるかどうかで、求人原稿の書き方も、面接の進め方も、内定後のフォローの仕方も、全て変わってきます。求職者を審査する側ではなく、求職者に審査される側だという自覚が、まず最初の一歩です。

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」/リクルートワークス研究所「第42回 大卒求人倍率調査(2026年卒)」/中小企業庁「中小企業白書」


生産年齢人口も新成人も、これからも減り続ける

働き手の絶対数そのものも、これから先ずっと減っていきます。15歳から65歳までの生産年齢人口は、今後も減少が続く見通しです。新成人の数も、年々過去最低を更新し続けています。

外国人労働者の受け入れやAIの活用で多少カバーできる部分はあるかもしれません。ですが、「働く人の数」そのものが増えることは、この先ないと考えておくべきです。今の採用の厳しさは「一時的な景気の波」ではなく、構造的に元に戻らない前提として捉える必要があります。

人手不足倒産という言葉も、もはや珍しいニュースではなくなりました。採用できない、人が辞める、人件費が上がる——これらはどれも他人事ではなく、体力の小さい会社ほど直撃するリスクです。

今年採用できたから安心、というものでもありません。来年、再来年と、同じ土俵での競争はさらに厳しくなっていきます。今のうちに「選ばれる会社」「辞めない会社」の土台を作っておくかどうかで、数年後の差は大きく開きます。


退職代行は20人に1人が使う「当たり前」のサービスに

退職代行サービス、もう珍しくありません。今や20人に1人が利用したことがあるという調査結果もあるほど、当たり前の選択肢になっています。

このサービスがなくなることは、まずないでしょう。つまり「もう少し頑張ってみよう」と本人が踏みとどまるハードルが、以前より確実に下がっているということです。会社を辞めるという決断の重さそのものが、軽くなっているのです。

退職代行を使われるということは、多くの場合「本人の口から直接伝えられる関係性が、社内になかった」ということでもあります。仕組みや制度だけでなく、日頃のコミュニケーションのあり方が問われる時代になっています。


自己都合退職でも「1ヶ月」で失業手当が出る時代

退職のハードルが下がっているのは、雇用保険の制度面からも言えます。自己都合で退職した場合の給付制限期間は、かつて3ヶ月でした。それが数年前に2ヶ月へ、そして現在は1ヶ月にまで短縮されています。

しかも、ハローワークが実施する教育訓練を受講すれば、この給付制限自体がなくなるケースもあります。事務・営業・パソコンなど、対象となる訓練は数多くあります。

つまり「辞めてもすぐ手当がもらえる」という状況が、以前よりできあがっているということです。「もう少し頑張ろう」というモチベーションが下がりやすい制度環境に、すでになっています。


だからこそ、採用の前にやるべきことがある

ここまで見てきた5つの現実は、どれも一社の努力で変えられるものではありません。有効求人倍率も、生産年齢人口も、退職代行の普及も、雇用保険の制度も、経営者個人の力の及ぶ範囲を超えています。

過去と他人は変えられません。求職者の意識も、市場そのものも、変えることはできない。変えられるのは、自社のあり方とやり方だけです。

「求人を出せば人が来る」「とりあえず採用して、辞めたら補充すればいい」——この考え方でうまくいっている会社を、私はほとんど見たことがありません。求人原稿やホームページが何年も更新されていない、採用を総務や経理に丸投げしている、そもそも「なぜ人が辞めるのか」を突き詰めて考えたことがない。こうした状態のまま採用活動だけを強化しても、負のループから抜け出せません。

採用の前に整えるべきなのは、実は求人票の見た目ではなく、労務環境や社内のコミュニケーションのあり方です。ここが整っていない状態で採用を頑張っても、入ってきた人からまた辞めていく、というループを繰り返すだけになってしまいます。

よくある質問

Q. 求人媒体を増やせば、この状況でも人は集まりますか?

A. 媒体を増やすこと自体は有効ですが、それだけでは根本解決になりません。倍率が8〜9倍という現実は「入口を増やす」だけでなく「選ばれる会社になる」「入ってからも辞めない仕組みをつくる」の両方が揃って初めて効果が出ます。募集をかける前に、自社の労務環境や定着の仕組みが整っているかを見直すことが、遠回りに見えて一番の近道です。

Q. 従業員数が少ない会社ほど、この数字の影響は大きいのでしょうか?

A. その傾向はあります。大企業のような採用専任の担当者やブランド力を持たない分、中小企業ほど「経営者自身がどれだけ本気で採用に向き合うか」が結果を左右します。総務や経理に丸投げにせず、社長自身が時間とお金を使って向き合う姿勢そのものが、差別化要因になります。

まとめ

求職者の数も、労働市場も、法律も、中小企業一社の力で変えることはできません。過去と他人は変えられない。変えられるのは、自社のあり方とやり方だけです。

「求人を出せば人が来る」という前提が崩れている今、採用の前にまず自社の労務環境や定着の仕組みが整っているか、一度立ち止まって点検する価値があります。自社の現状がどのあたりにあるのか気になった方は、ぜひ当社にご相談ください。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。