姫路の特定社会保険労務士が伝える、建設業の熱中症対策「やり切った」その先にできること

姫路の特定社会保険労務士が伝える、建設業の熱中症対策「やり切った」その先にできること

先日、ある建設業の経営者様からご相談をいただきました。テーマは、熱中症対策です。

お話を伺って、率直に思いました。「もう、やることはやり切っている」と。

  • 状況:ファン付き作業服を全員に支給。冷却板を導入。現場にテントを設置。事務所の冷蔵庫で保冷剤を交換しながら現場に届ける運用も回している
  • 限界:それでも酷暑の日は、冷却効果が半日ともたない。現場は事務所(エアコンのある場所)から離れて移動するため、スポットクーラーのような設備を置きっぱなしにできない
  • リスク:近隣で高齢者の熱中症による死亡が報じられている。警備員や高齢の作業員を多く抱える現場では、同じような重大事故が起きる可能性は決して低くない

できる対策は、もうほとんどやっています。それでも「まだ足りないのでは」という不安が消えない。この感覚、経営者であれば一度は味わったことがあるのではないでしょうか。

今日は、この「やり切った、でも不安が残る」という状態から、次に何をすべきかについてお話しします。

目次

  1. 「対策をやり切った」で終わっていませんか
  2. 現場が動く業種ほど、設備的な解決には限界がある
  3. 熱中症は「労災リスク」として経営層で共有すべき話
  4. 仕組み(ハード)と声かけ(ソフト)、両方がないと現場は守れない
  5. 求人原稿にも「頑張り」だけでなく前向きな社風を

「対策をやり切った」で終わっていませんか

ファン付き作業服、冷却グッズ、テント、こまめな水分補給の呼びかけ。多くの企業が、ここまではすでに取り組んでいます。真夏の現場を経験してきた経営者ほど、こうした対策には抜かりがありません。

ただ、ここで立ち止まって考えていただきたいことがあります。これらの対策は、すべて「個人の努力」と「現場の工夫」に依存した対策だという点です。

冷却板は時間がたてば効果が落ちます。作業服のファンも、体感温度が40度近くになれば追いつきません。つまり、どれだけ本人が頑張っても、どれだけ会社が備品を用意しても、酷暑という自然の力の前では限界がある。これが、今の暑さの現実です。

「対策はやっている」という事実は、もちろん大切です。しかし、それだけで「万が一が起きない」ことの保証にはなりません。ここに気づけるかどうかが、次の一歩を分けます。


現場が動く業種ほど、設備的な解決には限界がある

オフィスワークであれば、エアコンを効かせた部屋に人がいる限り、暑さのリスクはかなり抑えられます。ところが建設業のように、現場そのものが日々移動する業種は事情が違います。

スポットクーラーを置いても、次の現場では使えません。事務所は涼しくても、そこに人はいません。つまり「涼しい場所を用意する」という発想そのものが、現場が動く業種では機能しにくいのです。

これは経営者の努力不足ではなく、業種の構造的な問題です。だからこそ、備品や設備だけで解決しようとするのではなく、「働き方・作業の組み方」そのものを見直す視点が必要になってきます。作業間隔をどう取るか、誰が現場を見回るか、暑さ指数(WBGT)をどう測るか。ここに次のヒントがあります。


熱中症は「労災リスク」として経営層で共有すべき話

近隣で高齢者の熱中症による死亡事故が報じられる。こうしたニュースを見て、「うちも他人事ではない」と感じた経営者様は少なくないはずです。特に、警備員や高齢の作業員を多く抱える現場では、体温調節の機能が若い世代より低下している方も多く、リスクは決して小さくありません。

ここで大切なのは、熱中症対策を「現場任せの安全配慮」で終わらせず、経営層が把握すべき労災リスクとして共有するという発想です。万が一、現場で熱中症による重大事故が起きれば、それは一人の作業員の問題では終わりません。安全配慮義務、労災の認定、企業としての管理体制の妥当性、すべてが問われることになります。

「今年は対策をしているから大丈夫」ではなく、「今年も、去年以上の暑さが来る前提でどう備えるか」。この問いを、現場担当者だけでなく、経営者自身が持っておく必要があります。


仕組み(ハード)と声かけ(ソフト)、両方がないと現場は守れない

私が繰り返しお伝えしていることがあります。組織を守るには、制度・仕組み(ハード)と、対話・声かけ(ソフト)の両輪が必要だということです。これは熱中症対策にもそのまま当てはまります。

ハードの部分でいえば、WBGT(暑さ指数)を実際に測定する仕組みを作ること。数値に応じて作業間隔・休憩時間の基準をあらかじめ決めておくこと。安全衛生管理体制として、誰が測定し、誰が判断し、誰が現場に指示を出すのかを明確にしておくことです。感覚や気合いではなく、数字とルールで判断できる状態を整えます。

一方でソフトの部分も欠かせません。どれだけ立派なルールを作っても、現場の作業員が「これくらい大丈夫」と自己判断してしまえば、仕組みは機能しません。だからこそ、「顔色が悪くないか」「今日は無理していないか」と声をかけ合う関係性、体調が悪いときに「大丈夫です」と言わずに済む空気づくりが必要です。仕組みだけでも、声かけだけでも、人は守れません。両方が噛み合って、初めて現場は守られます。


求人原稿にも「頑張り」だけでなく前向きな社風を

熱中症対策の話は、実は採用にもつながっています。求人原稿で「暑い中でも頑張っています」という発信だけをしてしまうと、求職者は「厳しい環境で我慢する仕事」という印象を持ちやすくなります。今の労働市場で、これはマイナスに働きかねません。

そうではなく、暑さと向き合いながらも、会社としてちゃんと対策をしていること、そして現場の仲間同士が良い雰囲気で働いていることを、あわせて見せていく発想が大切です。バーベキューなど、社員同士が楽しんでいる様子が伝わる写真を採用ページに使うのも一つの方法です。「大変な仕事だけど、この会社なら頑張れそう」。そう感じてもらえるかどうかが、母集団形成の分かれ目になります。


よくある質問

Q. 対策をやり切ったと感じたあと、次は何をすればいいのでしょうか?

A. 備品や設備の対策で「やれることはやった」と感じたら、次は仕組みの部分に目を向けてください。具体的には、WBGT(暑さ指数)を実際に測定する体制があるか、測定結果に応じて作業間隔や休憩の基準が決まっているか、誰が判断・指示を出す役割を担うかを確認することです。あわせて、現場の声かけの文化ができているかも見直しましょう。「体調が悪い」と言い出しやすい空気があるかどうかは、仕組み以上に事故を防ぐ力になります。

Q. WBGT測定は中小企業でも実際にできるものですか?

A. できます。WBGT測定器は数千円から数万円程度で購入でき、現場に持参して数値を確認するだけで運用できます。大がかりな設備投資は必要ありません。大切なのは、測定した数値をもとに「何度になったら休憩を増やすか」「何度を超えたら作業を止めるか」という基準を、あらかじめ社内で決めておくことです。数値と基準さえ決まっていれば、現場の判断で迷うことがなくなります。


まとめ

熱中症対策は、備品や工夫だけで終わる話ではありません。酷暑が当たり前になった今、必要なのは「やれることはやった」で安心せず、仕組み(WBGT測定・作業間隔の基準・安全衛生管理体制)と、現場の声かけという対話の両方を整えることです。そして、これは経営者だけが抱える課題ではなく、経営層全体で共有すべき労災リスクでもあります。

「うちも対策はしているけれど、これで十分なのか分からない」。そう感じていらっしゃるなら、それは決して珍しいことではありません。安全衛生管理体制の見直しや、労務リスクとしての整理に不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年7月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。