「出身はどちらですか?」「ご結婚はされていますか?」「お子さんはいますか?」
悪気なく面接でこんな質問をしていた、という経営者や面接官の方は意外と多いものです。しかし、これらは就職差別につながるとして、厚生労働省が「してはいけない質問」に指定しているNG質問です。
「知らなかった」では済まない時代になっています。採用担当者はもちろん、面接に立ち会う経営者・管理職も、今すぐ確認しておくべき内容をまとめました。
目次
目次
- なぜ「聞いてはいけない質問」があるのか
- 絶対NGな質問一覧
- グレーゾーンの質問——聞き方次第でOK/NG
- 健康状態・メンタル不調はどこまで聞ける?
- 聞いてOKな質問の例
- よくある失敗パターン
- よくある質問
- まとめ
なぜ「聞いてはいけない質問」があるのか
採用面接でのNG質問が設けられている根拠は、職業安定法および厚生労働省の「公正な採用選考」の指針にあります。
採用選考の基本原則は「応募者の適性・能力のみを基準として選考する」こと。本人の仕事と関係のない個人情報を収集し、それを選考の判断材料にすることは「就職差別」にあたります。
「聞いたくらいで何が問題なの?」と思うかもしれませんが、聞いた時点で「その情報を使って選考した可能性がある」と見なされます。実際に不採用にしていなくても、問題になるケースがあります。
絶対NGな質問一覧
厚生労働省の指針では、以下の2つのカテゴリに関わる質問を採用選考で行うことを問題としています。
①本人に責任のない事項
- 出生地・本籍地(「出身はどちらですか?」もNG)
- 家族の職業・学歴・収入・地位
- 住宅の状況(持ち家か賃貸か、など)
- 生活環境・家庭環境
②思想・信条に関わる事項
- 宗教・信仰(「どの宗教を信じていますか?」)
- 支持政党・政治的見解
- 労働組合・社会運動への参加歴
- 尊敬する人物(思想・信条が推測される場合)
さらに、性別・年齢・婚姻状況・妊娠・出産予定に関する質問も、男女雇用機会均等法・雇用対策法などの観点からNGです。
- 「結婚していますか?(する予定は?)」
- 「お子さんはいますか?(作る予定は?)」
- 「介護が必要な家族はいますか?」
これらを「雑談の流れで」聞いてしまうケースが特に多いです。面接中のすべての発言が選考の場における言動として扱われます。
グレーゾーンの質問——聞き方次第でOK/NG
「転勤はできますか?」「残業はできますか?」——これらは業務上の必要性があれば聞いてよい質問です。ただし、聞き方に注意が必要です。
NGな聞き方:「お子さんがいると転勤は難しいですよね?」(家族構成と結びつけた瞬間にNG)
OKな聞き方:「この職種では年に1〜2回の出張があります。対応は可能ですか?」(業務内容に基づいた確認)
ポイントは「業務上の必要性を前提にした確認かどうか」です。家族構成や個人の属性に結びつけた瞬間、グレーゾーンを越えてしまいます。
健康状態・メンタル不調はどこまで聞ける?
「入社後にメンタル不調を隠していたことが発覚した」——こういった相談を受けることが増えています。面接で「健康面で何か心配な点はありますか?」と聞いても「ありません」と答え、入社後に「実は……」となるケースです。
既往歴や通院歴は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。診断名を直接聞くことは原則NG。ただし、厚生労働省の指針では「業務遂行に影響する健康状態の確認」は合理的な範囲で認められています。
私が実務で有効と考える聞き方は、
「たまに、入社後に『実はメンタル不調や持病があって……』とおっしゃる方もいますが、その点は問題ないですか?」
診断名を聞くのではなく、「業務に支障がないかどうか」を業務遂行能力の観点から確認する形です。この聞き方なら合理的な業務確認の範囲に収まります。
ただし注意点があります。この質問に「持病があります」と答えたことだけを理由に不採用にすることは、障害者差別解消法や均等法の観点から問題になる可能性があります。業務遂行に実際の支障があるかどうかを判断材料にしてください。
また、持病を隠して入社し、後に業務への重大な影響が判明した場合は、「履歴書・入社書類の虚偽申告」として懲戒・普通解雇の事由になりうるという判例もあります。
聞いてOKな質問の例
採用選考で聞いてよい質問は、「業務遂行能力・適性に関わること」に絞るのが基本です。
- 志望動機・当社を選んだ理由
- これまでの職務経験・実績
- 保有スキル・資格
- 将来のキャリアビジョン・目標
- 業務上の強み・得意なこと
- 前職を辞めた理由(業務・職場環境に関わる範囲で)
- 「〇〇という業務がありますが、対応できますか?」(業務要件の確認)
これらは応募者の能力・適性を測るための質問として認められます。
よくある失敗パターン
「雑談のつもりで聞いてしまった」というケースが最も多いです。
場を和ませようとした社長が「ご実家はどちらですか?」と聞く。応募者が自ら話したので、「それならいいか」と流れでさらに深掘りする——こういう状況が問題になります。
応募者から自発的に話した内容であっても、それを採用の判断材料にしてはいけません。また「聞いてもいないのに話してくれた」という状況でも、その情報をメモに残して判断材料にした場合は問題になります。
面接前に「この質問はNG」というリストを面接官全員で共有しておくことが、最大の予防策です。
よくある質問
Q. 応募者が自分から家族の話をしてきた場合はどうする?
A. 聞き返したり深掘りしたりしないことが原則です。応募者が自発的に話した内容であっても、それを採用の判断に使った場合は問題になります。「そうなんですね」と受け流し、話題を業務内容に戻すのがベターです。
Q. 健康状態を面接で確認したい。どこまで聞ける?
A. 「業務に支障がないかどうか」を業務遂行能力の観点から確認する範囲であれば認められます。診断名や病歴を直接聞くのではなく、「この仕事は〇〇という業務があります。問題なく対応できますか?」や「入社後に体調面で業務に支障が出ることはありますか?」という聞き方が現実的です。その回答だけで不採用を決めることは避けてください。
まとめ
面接でのNG質問は「知らなかった」では済みません。悪意がなくても、問われるのは結果です。
今すぐできる対策を3つ挙げます。
- ①面接前にNGリストを全員で確認する:社長・管理職・採用担当、面接に関わる全員が把握する
- ②質問リストを事前に作成する:「聞いていいこと・ダメなこと」を整理した質問シートを用意する
- ③健康確認は「業務遂行能力の観点」で行う:診断名を聞かず、業務への影響を確認する形にする
採用面接は「選ぶ場」であると同時に「法律が適用される場」です。正しく準備すれば、優秀な人材を公正に選べるようになります。
「これって聞いていいの?」「面接のやり方を整備したい」——そのタイミングが一番大事です。姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

