会社の方針が社員に伝わらないのは、言葉を分解していないから|姫路の採用定着士が伝える、入社後1か月で共通言語をつくる会社の業績が伸びる理由

会社の方針が社員に伝わらないのは、言葉を分解していないから|姫路の採用定着士が伝える、入社後1か月で共通言語をつくる会社の業績が伸びる理由

先日、姫路市内で金属加工をされている社長から、社員7人と個人面談をしたときの話を聞きました。社長は面談の中で、1人ずつに「うちのビジョンや方向性、わかってる?」とストレートに聞いてみました。

7人とも「はい、これだと思います」と、自分の言葉ですぐに答えてくれました。ところが、その答えが、7人とも社長の考えと微妙にずれていたのです。創業してから何年も、朝礼でも会議でも同じことを言い続けてきたつもりでした。

今日はそれについて、私の持論をお話しします。


目次

  1. 社長が個人面談で聞いた会社の方針は、7人とも微妙にずれていた
  2. 社員が目指す品質と、取引先が求めるものは一致しない
  3. 方針のズレに気づき、それを気にする社長は、経営者として相当レベルが高い
  4. 「お客様第一」「品質最優先」は、何か・なぜかまで分解しないと社員ごとに別の意味になる
  5. 入社後1か月は、社長と外部講師が1日1時間、会社の言葉を教える時間にする
  6. 方針を届けるには、紙に残す仕組みと、社長が伝え方を直す姿勢の両方が必要
  7. よくある質問
  8. まとめ

社長が個人面談で聞いた会社の方針は、7人とも微妙にずれていた

その会社の方針は、社長の言葉でいうと「お客様が本当に困っていることを聞いて、そこに応える」というものです。図面どおりに削るだけの下請けで終わらないために、社長が10年以上言い続けてきた考え方でした。

面談で返ってきた答えは、「品質を上げることだと思います」「不良を出さないことですよね」「納期を守ることです」といったものでした。どれも間違いではありませんし、会社にとって大事なことばかりです。それでも、社長が言い続けてきたこととは少しずつ違っていて、7人とも、自分の持ち場の仕事に引き寄せて方針を受け取っていたわけです。

社長はここで、会議で「そうじゃないんだよ」と言うたびに社員が不思議そうな顔をしていた理由が、ようやく分かりました。社員のほうは、言われたとおりに品質を上げているのに、なぜ否定されるのかが分からなかったのです。


社員が目指す品質と、取引先が求めるものは一致しない

この社長が本当に言いたかったのは、こういうことでした。取引先が急ぎの案件で困っているとき、求めているのは0.01ミリの精度ではなく、明後日までに形になることだったりします。逆に、精度がすべての仕事もあります。どちらを求められているかを聞き出さないまま、いつも同じように全力で仕上げるのは、相手の要望に応えたことにならない。

ここは、まじめな社員ほど受け入れにくいところです。技術者としての「良い仕事」と、相手にとっての「良い仕事」が、いつも一致するとは限らないからです。どこも手を抜かずに仕上げる腕があるなら、なおさら全部やりたくなります。

社長は決して、手を抜けと言っているわけではありません。どこまで仕上げることがこのお客様にとって必要なのかを選べるようになってほしい、と言っています。選ぶためには相手に聞かないといけないので、この方針は品質の話ではなく、聞き方の話でした。


方針のズレに気づき、それを気にする社長は、経営者として相当レベルが高い

正直に言うと、方針が微妙にずれていることに気づける社長は、多くありません。そもそもずれているかどうかを確かめたことがないので、気にもしていないからです。「何度も言ったんだから伝わっているはずだ」と思ったまま、何年も過ぎていきます。

私がご相談を受ける中で、「うちの社員は何回言っても分からない」という言葉は本当によく出てきます。ところが、社員に方針を聞いてみたことはありますかと尋ねると、ほとんどの社長が「ない」と答えます。

だから、個人面談でわざわざ方針を聞き、「だいたい合っている」で済ませてもいいくらいのわずかなズレを見逃さなかったこの社長は、ズレを気にした時点で、経営者として相当レベルが高いと私は思います。10年言い続けてきた人にとって、自分の説明が届いていなかったと認めるのは、決して楽なことではないはずです。

それでも社長は「聞いてよかった、めちゃくちゃ勉強になった」と言っていました。分かっていない社員を責めるのではなく、伝わる形に作り直すほうに向かったからです。


「お客様第一」「品質最優先」は、何か・なぜかまで分解しないと社員ごとに別の意味になる

「お客様第一」「品質最優先」「スピード感を持って」。どれも良い言葉ですし、社長の頭の中には具体的な場面があります。ところが、社員の頭の中には別の場面が浮かんでいます。同じ日本語なので、両方とも「理解した」と思ったまま話が進みます。

ずれを防ぐには、その言葉を「何か」と「なぜか」に分解して伝えることです。たとえば、次のように分解します。

  • お客様第一:なぜお客様第一なのか。お客様が、会社に利益を運んでくれるからです。その利益から、社員の給料も新しい機械も出ています
  • 品質最優先:うちの会社でいう品質とは何か。0.01ミリの精度なのか、不良ゼロなのか、取引先が次の工程で使いやすい形なのか
  • スピード感:スピード感とは何か。見積もりをその日のうちに返すことなのか、納期を1日でも縮めることなのか。そして、なぜそれが必要なのか

ここまで分解して初めて、社員の頭の中に同じものが浮かびます。「何か」と「なぜか」まで分解しないと、社員7人の頭の中には7通りの意味が浮かびます。朝礼で100回言っても、分解されていなければ100回ずれたまま伝わります。


入社後1か月は、社長と外部講師が1日1時間、会社の言葉を教える時間にする

この社長が次に決めたのは、新しく入る社員への伝え方を変えることでした。入社してから1か月間、仕事をしながら1日1時間、会社の言葉を教える時間をつくると決めたのです。毎日1時間が難しければ、1週間にまとめて4時間でも構いません。

中身は、あいさつや電話の受け方といったビジネスマナーと、社長自身が話す会社の方針です。そこに外部の専門家を呼びます。税理士さんには売上と利益と税金のつながりを、社労士には給料や社会保険の仕組みを、ファイナンシャルプランナーには自分のお金との付き合い方を話してもらいます。自分の給料がどこから出ているのかが分かると、「お客様が利益を運んでくれる」という方針が、社員にとって自分ごとになります。

中小企業では、入った翌日から現場に入ってもらうのが普通です。人が足りないから採用したのに、研修に時間を割く余裕はない、というのが本音だと思います。

それでも、最初の1か月で言葉をそろえておけば、そのあとの「そうじゃないんだよ」が1回で済みます。やり直しが減り、取引先への対応がそろい、方針が分からずに辞めていく人も減ります。最初に方針を浸透させた会社のほうが、長い目で見れば利益が残り、会社の資本も厚くなり、業績も伸びます。1か月を研修のコストと見るか、会社への投資と見るかの違いです。


方針を届けるには、紙に残す仕組みと、社長が伝え方を直す姿勢の両方が必要

ハード(仕組み・決めごと)は、方針を「何か」「なぜか」まで分解して紙に残すこと、入社後1か月の研修時間を業務として確保すること、年に1回は個人面談で「うちの方針、わかってる?」と聞いて答え合わせをすることです。

ソフト(関わる人の気持ち・誠意)は、ずれていると分かったときに、社員を責めずに自分の伝え方を直すことです。ズレを正直に話しても怒られないと社員が思えなければ、次の面談から本音は消えます。

ハードだけでは、紙に書いた方針が事務所の壁に貼られたまま誰も読みません。ソフトだけでは、社長が熱心に語っても、その場にいなかった社員には何も残りません。方針が社員の判断に入るのは、この両方がそろったときです。


よくある質問

Q. 朝礼で毎日、会社の方針を話しています。それでも社員に伝わっていないことがありますか?

A. 回数と伝わり方は比例しません。毎日聞いている社員ほど、聞き慣れた言葉として流すようになります。「方針を理解していますか」と聞くと、ほぼ全員が「はい」と答えるので、それでは確かめたことになりません。個人面談で「うちの方針って何だと思う?」と聞き、社員自身の言葉で答えてもらってください。「先週のあの案件は、うちの方針でいうとどう動くのが正解だったと思う?」と具体的な場面で聞くと、ズレがはっきり出ます。

Q. 新入社員の研修に、税理士や社労士などの外部講師を呼ぶ余裕がない小さな会社は、どうすればいいですか?

A. 最初から全部そろえなくて構いません。顧問の税理士さんや社労士がいるなら、「新人向けに1時間だけ話してほしい」と頼んでみてください。自分の会社の数字や給料の仕組みを知っている専門家の話は、一般的な研修よりも新人に響きます。そのうえで、社長が自分の言葉で方針を話す時間だけは、どんなに小さな会社でも削らないでください。そこだけは、外部の誰にも代わりができません。


まとめ

社員7人に方針を聞いたら、7人とも微妙にずれていた。10年言い続けた社長にとっては、きつい結果だったと思います。

それでも、ズレていることに気づいた会社は、そこから直せます。気づかない会社は、気にもしないまま同じ説明を繰り返します。「お客様第一」「品質最優先」を、何か・なぜかまで分解して、入社後の1か月で社長と専門家が伝える。遠回りに見えても、そこで言葉をそろえた会社のほうが、利益も業績も後から伸びていきます。

方針が社員の判断の基準になるまで、何年かかってもやり直す。それを社長自身が引き受けている会社は、採用でも定着でも強くなります。

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